生保大戦3

目の前の電話が鳴る。

いじわるなのか、教育なのか、新人の席の前に電話がある。

新人というのは、新採ではない。

あたらしく、生活保護の担当者になった者をいう。

つまり、あたしのことだ。

あたしの前で、電話がなる。


「はい、生活保護課です」

「こんにちは、さくら在介です。ヤマモトマサオさんの、担当者お願いします」

「ヤマモトマサオですね」


目の前の端末に名前を打ち込む。


「ヤマモトマサオ・・・えっと、いないですよ?」

「そんなわけ、ありませんよ」

「いや・・・でも・・・」

「生年月日を聞いて」


隣の席から、サドツさんが声をかけてくれる。


「生年月日をお願いします」

「はい・・・大正〇年〇月〇日です」

「ちょっとおまちください・・・」


画面には明らかに日本人では名前が表示される。

その横には、担当者も。

それを覗き見ると、サドツさんが声を出す。


「カビゴン、「リ ジュンコン」って、日本名、ヤマモトマサオ?」

「・・・はい、そうです」

「電話みたいよ」

「・・・はい」


私は、そそくさと電話をカビゴンに渡す。


「すみません、ありがとうございます・・・日本名・・・なんですね」


サドツさんにお礼を言う。


「いや、いいよ。有名人じゃなきゃ。覚えられないよ。藤伊さんの地区、外国人が多いから、覚えれるところは、覚えたほうが楽だけどね」

「え・・・はい・・・」


そうだ、九龍城は、かなりの割合で外国人だ。

麦茶と言いながら得体のしれないお茶を飲ませようとするおばさん。公営住宅で禁止されているのに猫を多頭飼いするおばあさん。もとボクサーのパンチドランカーと、その双子のシンナードランカー。韓国人は結婚しても姓がかわらないらしく、別姓の老夫婦。日本語がまったく書けない女性。夫婦なのだが、奥さんに会えない男性。いつもすごい化粧と、すごい香水で、夜の仕事してるんじゃないかと疑われる女性。

みんな特別永住者で、みんな保護者だ。


「私の地区・・・外国人、多くないですか?」

「・・・多いね、私の地区・・・1世帯?・・・かな?」


すみません、私の地区、もうすぐ、もう1世帯増えそうです。

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