第126話 書籍発売日10/20 思い出作り③

「そ、蒼太さん。どうかしましたか? なんだか難しい顔をしてるような……」

「あ、ああ……。なんか背中がチクチクしてて」

「チクチク? 虫刺されですかね?」

「あはは。そうだったらいいんだけどね……」

 首を傾げてパチパチとまばたきしながら聞いてくるひよりに苦笑いを浮かべながら答える蒼太だが、この原因についてなんとなくわかっていた。


「……アタシらを引き連れてるからって調子乗んなし」

「わ、わかってるって」

 視線を集めているが故のチクチク、、、、であることに気づいている美麗は、鋭い目を向けてくる。


「ふふっ、役得ですね〜?」

「そ、そんな呑気に考えないでよ……」

 琴葉はマイペースに語尾を伸ばして他人ごと。こちらも気づいているようだ。となれば当然——、

「この際、わたしの腰に手を回してみる? もっと面白いことが起こるわよ」

「面白いことなんておきません」

 同じく気づいている小雪も乗ってくる。それはもう面白そうに。


「あ、あれ……?」

「ひよりはわからなくていいよ。こいつが変なこと考えてるだけだから」

「……う、うん? わ、わかった!」

 自分だけ理解していないのは会話でわかったのだろう。しかし、視線が集まっている理由を教えればひよりが困惑するのは間違いない。

 美麗は優しい立ち回りを選択していた。


「えっと、それでこれからどうしよっか。俺、久々にこの祭りにきたから詳しくはないんだよね」

「あっ、このお祭りなら全部ありますよっ! りんご飴にわたがしに冷やしパインにフランクフルト、焼き鳥に焼きそば、チーズドッグも!」

「あはは」

 さすがはひよりだ。満面の笑みを作りながら大好きな食べ物で説明が並べる。


「そんなにあると困っちゃうね。ひよりはなにから食べたい?」

「りんご飴にするか、フランクフルトにするか……迷ってます」

 眉に力を入れて悩ましげな表情を作っている。


「アトラクション系で言うと、お化け屋敷に射的。大きな祭りなので基本はなんでもありますよ。場所は私もさっぱりですけどね」

 と、ここで琴葉が補足をしてくれる。


「お、お化け屋敷もあるんだ……。そっか……」

「あんた無理なの? お化け屋敷」

「いきなり驚かしてくるのは苦手なんだよなぁ……。いけないことはないけど、できればいきたくないって感じで」

「ふーん……。カッコわる

「そんなこと言う美麗は平気なわけ?」

「平気に決まってるじゃん。あんな子ども騙し。驚かされることわかってるんだし」

「へえー」

 そこまで言うのなら是非とも確かめてみたいと思う蒼太である。


「琴葉は随分とお酒に目を奪われているわね」

「あっ……。焼き鳥と生ビールを見るとつい……」

「相変わらずお酒が好きなんだから」

「お祭りの中に飲むお酒はとっても美味しいんですよね。ユキちゃんの提案で今日は徒歩ですし」

「ふふっ、確かにそうだけれどちゃんと販売してもらえるのかしらね」

「むー。もぅ……。身分証持ってきているので大丈夫ですのに」


 小雪と琴葉は仲良さそうに言い合いをしている。

 五人メンバーの中だと間違いなく最年少に見られるだろう琴葉。

 見た目だけで言えば中学生と遜色ないために小雪の言い分もわかる。


「って、なんですか。蒼太さんのその同情した顔は……」

「ッ、なんでもないなんでもない」

 気づかれた。と思うと同時。

 美麗もひよりもあからさまに視線を屋台の方に移した。

 この手の話には絶対に参加したくないという意思が伝わってくる。


「とりあえず、このモヤモヤした気持ちの責任は蒼太さんに取ってもらうことにします。あとでお酒に付き合ってくださいね」

「あ、あはは。それくらいならもちろん付き合うけど、ほどほどにね? 琴葉ほどお酒は強くないから」

「わたしは見てみたいけれどね。たくさん酔ったソウタさんを」

「あっ、それひよりも見てみたいですっ」

「その時はみんなで意地悪しましょうね」

「ちょ、さすがにそれは……」

 管理人の立場にある自分がベロベロに酔った姿など見せられるわけがなく、ニヤリとしている琴葉を見ると、本気で意地悪をしようとしていることがわかる。


 一体どのようなことを考えているのか、頭の中で考えていた時だった。


「あ、あのさ? 酔った時にいじめるの賛成する代わりに……今からみんなにワガママ言っていい?」

 そこで口を開いたのは、トゲを失ったようにモジモジしている美麗だった。


「なにかしら?」

「アタシってか、みんなもそうだと思うけど……。コイツと二人で回る時間、作ってくれたら……嬉しいって言うか……」

「ッ」

「みーちゃん……」

「ふふっ」

「あら」

 彼女のその言葉で、多種多様の反応をする蒼太と入居者。

 そして、この発言がキッカケになり、1対1の時間を過ごすことになるのだった。

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