第125話 書籍発売日10/20 思い出作り②

 時刻は18時。外も少しずつ暗くなった頃、リビングには入居者全員が集合していた。祭りにいく準備を終えて。


「そう言えば、こうしてみんなで出かけるってことって初めてじゃない?」

「そうですよ〜。蒼太さんが真面目なので機会がありませんでしたから」

「そ、そんな目で見なくても……」

 最初にツッコミを入れたのはしいたけのベレー帽を被り、五分袖のトップス、生地の薄いスカートを合わせた琴葉。冗談混じりに口角を上げながらジト目を作っている。


「も〜! そんなに蒼太さんをいじめないでくださいっ、琴葉さん!」

「ふふ、そんなつもりはないよ。ただ……事実だから、ね?」

「た、確かに……それはそうですけど!」

「え、ええ……? そこ助け舟を期待したんだけど」

「そこのフォローは難しいですよう……」

 次に会話に入ったのは、玉模様入りの白Tシャツに台形のミニスカートを合わせたシンプルなひより。

 琴葉の話術に引っかかってか、フォローしようとの動きを逆手に取られている。


「味方いなくて可哀想ー。ぼっち管理人」

「おっ、美麗が味方になってくれるの?」

「寝言は寝て言えば? なんでアタシがあんたの味方なんかに……」

 そこで、遠回しに口撃してくるのは黒の長袖にデニムのショートパンツを合わせた美麗である。

 眉をピクピクと動かして不満そうにしているが、今はツンツンしているだけだろう。


「んー、それじゃあわたしが味方になるわね。これでわたしが独り占めできちゃったりするのかしら」

「心強い味方参戦ですかね? ありがとうございます」

「ふふっ、いえいえ」

 会話の最後に入ったのは肩出しのトップスにスリムのパンツを合わせ、スタイルを大きく出した小雪だった。


「ユキちゃん。その入り方は少し卑怯ですよー?」

「ひよりは初めて体験したかもしれません。漁夫の利……」

「ま、まあこの際、味方とかどうでもいいって感じでよくない? みんなで祭りいくんだし」

「お? やっぱり味方してくれるの? 美麗」

 ここで口撃してきた仕返しを企てた蒼太は、からかいながら言う。


「は、はあ? なにコイツさっきから! ウザイんだけど!」

「ふふふっ、そんなに照れないの、美麗は」

「べ、別に照れてないし!」

「顔は赤くなってるよ、美麗ちゃん?」

「っ」

「ああ、みーちゃんの顔がとうとう真っ赤に……」

「な、なにこの流れ……。さっきまでコイツをイジる感じだったじゃん!」

 会話の通り、頬を赤くしている美麗は人差し指を蒼太に向けてくる。

 寮のみんな仲が良いだけに流れをちゃんと理解しているようだが、全員からカウンターを浴びせられ続けるのは可哀想だろう。

 一通りの雰囲気を楽しんだ蒼太は率先して話を変える。


「あ、それで祭りはどのようにして向かいます? 5人なのでどう頑張っても2台になるとは思うんですけど」

 蒼太はバイク持ち。琴葉と小雪は四人乗りの車持ち。

 警察のお世話にならないためにもこの話は必要なこと。

 口調を丁寧にして大人組に促すと、あごに指を当てて小雪が口を開く。


「んー、そうね。せっかくだから徒歩でいいんじゃないかしら。歩いて30分もかからないでしょうし、わたしも琴葉もお酒を飲むかもだから」

「えっ?」

「ね、琴葉?」

「……あっ。そうですね。こうしたところもみんなの思い出にしちゃいましょう? 蒼太さん」

「あはは、了解」

 琴葉の反応と、小雪の促しから、徒歩という選択肢を確定させるために話を合わせたのは間違いないだろう。

 粋な運びをしてくれていた。


「もし遊び疲れて、徒歩で帰る余裕がなかった時にはタクシーを呼びましょう」

「わかりました!」

「ん、わかった」

「じゃあ……そろそろ向かいます? 蒼太さん」

「そうだね。時間も時間だし」

 そうして、ソファーや椅子に置いたショルダーバッグや、トートバッグを持って全員で玄関に向かう。


「……そーた、戸締り忘れないでよ」

「うん、ありがとう」

 最後にボソリと注意してきた美麗だった。


 * * * *


 そうして、楽しく、途切れない会話をしながら歩くこと約30分。会場に到着すると同時にこの女子寮集団は同じ祭りに参加している人達の噂のタネになっていた。


『ちょ、おいおいおいおい。あそこ見てみろお前ら。ヤバい集団いる』

『ハハハッ、ヤバい集団ってなんだよ。全員仮面被ってるとかか——ッ!?』

『えぐいな、あれ。全員可愛すぎじゃね?』

『あ、あの肩出してる人の色気やべえって……。お相手してくれねえかな』

『失礼なこと言うなよ……。気持ちはわかるけど』


『な、なんだなんだ……あそこの連中。全員モデルか?』

『着物姿の人らにも、圧倒してんなぁ……。普通の私服で……』

『あのしいたけのベレー帽被ったちっちゃい子に綿菓子わたがしあげたいなぁ。トコトコ歩いてて可愛すぎるぜ』

『お前ロリコンかよ』

『う、うるせえ!』


『はあ。あんなにモテてぇなあ、オレも』

『あれはレベルが違いすぎるだろ……』

『あのツンツンしてる子、一番のタイプだわぁ。ほら、あの男に構ってもらおうと指で突いてるし』

『破壊力ヤバいな』

『だな……』


『……』

『おーい、どうしたよ』

『すまん。あそこの屋台めっちゃ指差してる子に見惚れてた。めっちゃいい笑顔じゃね?』

『だな。めっちゃ元気で可愛いな』

『抱き枕にしたい』

『は?』


『ちょっとぉ〜? わたしって言う彼女がいながらどうしてあの女の人達に目を奪われてるの!』

『やっ、悪い悪い!』

『ま、まあ、可愛すぎるし、美人すぎるけど…………って』

『おい! お前こそ目を奪われてんじゃねえか! あの侍らせてる男によお』

『あ、あなたが悪いんじゃない!』

『ってか、あの男はナニモンなんだよ……』

 本人達の知らないところでは、こんなことになっていた。

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