第79話 『大迷宮』10階層、戦闘見物


 11階層への階段があると思われる通路を歩いて行く。


「ダークンさん、前方で戦いの気配けはいがします」


『……、そうだな。前を歩いていたさっきの連中がモンスターと戦ってるのかな?』


「ダークンさん、見物けんぶつに行きましょう!」


『見物な。よし、少し急いで近づいてみよう』


 ……


 しばらく進んで行くと、通路がうっすらと明るくなって、はっきりと戦いの音が聞こえて来た。


 明かりの魔法かなんかを使って戦っているのだろう。俺たちの場合、戦いはほぼ一瞬で終わるから、こんなに時間がかかっているのがどういう状況なのかは容易に想像がつく。双方互角そうほうごかくの殺し合いをしているのだろう。


 もう少し通路を進んで、通路が少し曲がったところからその先をのぞいてみた。


 天井近くに青白い光源が見えた。ライトとか、そういったあかり系統の魔法なのだろう。その明かりの下で、おそらく先ほどの冒険者たちと、ゴブリンとは違う人型のモンスターが対峙たいじしていた。人型のモンスターは赤黒い皮膚をして腰みのだけを身にまとい、武器は槍のような物を持っている。


 冒険者たちは、盾持ち二人、槍持ち二人、そして、魔法使いか何かが後衛に二人という感じで通路の壁を背にして戦っている。


『あのモンスターは、オークとかかな?』


「オークですね。全部で5匹もいるのは珍しいんじゃないでしょうか。大抵は二匹一組になって迷宮内をうろついているそうです。以前のわたしだったら一匹でも手も足も出なかったな」


『しかし、どっちもどっちで、ぬるいな』


「そうですね、どちらも攻めあぐねていますね」


『後ろの軽装の二人は魔法使いかなんかなんだろ? どうして魔法を使わないんだ?』


「もう使い切ったんじゃないかな」


『そんなに、簡単に使い切るものなのか?』


「たいていは、5、6発も撃てばしばらく撃てなくなりますから」


『そんなものなのか。それでも何発かは撃ったんだったら、オークにダメージが入ってないとおかしいが、オークの方にはほとんどダメージが入ってないな』


「ダークンさん。ここからだと見えづらいですが、床の上に三匹ほどオークが転がっています」


『ほんとだ、アズラン背が高くないのによく見えるな』


「見えているわけじゃないんですが、なんとなくわかるみたいです」


『ほう。それも、ダーク・ハーフリングの力かも知れないな』


「そうですね。以前の私ならおそらく気付けなかったと思います」


「ダークンさん、どうします?」


『トルシェ、どうするとは?』


「あの連中を助けるとか、オークごと皆殺しにしちゃうとか」


『黙って、成り行きを見ていよう。一般的な冒険者の戦い方もちゃんと見てみたいからな。この前の「暁の刃」じゃ参考にならなかった』


「目の前の連中もおそらく似たようなものですよ」


『そうみたいだな』


 冒険者たちもオークたちも、すこし離れたところで目立たないように成り行きを見守っている俺たちに気づかないようで、たらたらとした戦闘を続けている。


 そうこうしていたら、魔法が切れてきたのか、天井の明かりが暗くなってきた。


 暗がりは俺たちには関係ないし、多分オークたちにも関係ないだろう。まぶしくないだけ暗い方が良く見える可能性の方が高い。しかし、冒険者たちの方はそうではないようで、オークの繰り出す槍を盾で受け損なった盾持ちが、その槍を左の肩口に受けた。肩をやられ支えきれなくなった盾が下に下がり、盾の下部が通路についてしまった。オークがそれを好機と見たのか、攻撃をその盾持ちに集中し始めた。


 リーダーらしき男が、次々と指示を出していく。


「マリー、マイクにヒールを!」


「サラ、マイクに攻撃を集中させるな」


「ドマ、明かりは後回しにして、撃てるようになったらマイクを狙っているやつを先に頼む」


 ドマと呼ばれた女魔法使いが手に持った杖の持ち手の方を突き出して、


「氷の穂先にて敵を穿うがて『アイス・スピア』!」


 その杖からほとばしった青白い電光が、盾持ちに槍の突きを入れていたオークの胸に突き刺さり、どういう塩梅あんばいか、オークはそのまま前のめりになって倒れてしまった。確かに魔法使いは使いでは良くはなさそうだが、攻撃力は高いようだ。


 リーダーも一歩前に出て、盾持ちを狙うオークに牽制けんせいの突きを入れている。


 マイクと呼ばれた盾持ちだが、ゴキ、ガキとなんとか盾でオークからの槍の攻撃を受けるものの遅れが目立つようになり、受け損ねては軽くもない傷が増えていく。そこで、後方の魔法使いの片割れが傷ついた盾持ちに後ろから近づいて、手をかざした。


 多分こいつがマリーなんだろう。金色の光が一瞬盾持ちを覆ったかと思ったら、なんだか、盾持ちがシャキッとしたようで、盾を構え直して防御体勢を整えた。


『今のが回復魔法なのか?』


「はい。いまのは『ヒール・オール』だと思います。今の使い手はかなり高度な僧侶の呪文が使えるようですね。おそらく今ので今日の『ヒール・オール』はおしまいでしょう」


『心の中で冒険者を今までバカにしていたが、今のを見ると考えを多少は改めねばならないな』


「そうですね。われわれには指輪があるし、そもそもあの程度の敵に対して窮地きゅうちおちいることなどありませんからね」


『あのオーク程度ならな。しかし、これから先、強い敵も出てくるだろうから、回復魔法もできるに越したことはないな。トルシェは回復魔法は使えるのか?』


「『ヒール・オール』を今日初めて見たんですが、あれならできそうです」


『トルシェの魔法はとどまるところを知らないな』


「えへへ、それほどでも」


 戦闘の方を見ると、無理をしながらも全力でたおしにいっていた盾持ちが回復してしまったことで、逆にオーク側が浮足立ったようだ。


 一匹、一匹と、中衛の槍持ちの槍にたおされて行き、最後に残った2匹はそのまま走って向こうの方に逃げて行った。


 冒険者たちもそれを追う気力はなかったようで、そのまま座り込んであらい息をしている。


 休憩している連中を見ていても仕方がないので、俺たちはその連中の前を通り過ぎることにした。通り過ぎざま連中を見ると、座って通り過ぎるのを見ていた時には気づかなかったが、なんと金の札を下げていた。こいつらもAランクだったのか。


 俺たちの通り過ぎるまであからさまに緊張していたところが印象に残った。




[あとがき]

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