第78話 『大迷宮』6階層~10階層


 階段をりきった先は当然6階層。20階層を目指すんだからちゃんと覚えていないとな。


 階層をくだるたびに、冒険者の数が減ってくるわけだから、道を間違えないようにしなければならない。まだ6階層なので、人が絶えたというほどではないがそれでもかなり出会う冒険者の数は少ない。


 歩いているうちに、何だか通路に人の足跡が残っていることに気が付いた。これは進化のおかげで知覚力が上がったせいなのかもしれない。


 死骸などは、2、30分でダンジョンの中に消えてしまうが、この足跡も2、30分で消えてしまうのならあまり役に立たないが、どうも違うような気がする。希望的観測だが多分間違いないだろう。なぜなら、感じられる足跡の数が相当多く、2、30分でこの数の人がこの通路を通ったとは思えないからだ。どうだ、俺の推理は。


「きっと、ダークンさんのいう通りだと思います」


 アズランも気づいたようだ。しかし、俺も考えに集中すると考えていることがこの二人には駄々洩だだもれになるようだ。まあこの二人なら別にいいがな。


「信頼してくれてありがとうございます」


『お、おう』


 あれ、また考えが漏れてた。



 この階層でも階段間の通路ではやはりモンスターに出会うこともなく、順調に歩みを進め7階層に下る階段にたどり着いた。


 階段をり7階層に下り立ったが、この階層も相変わらずの洞窟で、枝の洞窟が通路の途中、左右に開いている。ここでもちゃんと、多数の足跡が通路の床の上に残っている。これなら迷わないだろう。


 結局この階層ではだれにも、何にも出会うこともなく、8階層への階段にたどり着いた。



 このまま、どんどん行くぞ。


 そうして、8、9階層を過ぎ、とうとう10階層にたどり着いた。この階層では、床の上の足跡の数がぐっと減ってしまった。それでも間違いようがないくらいの足跡は残っている。


『10階層についたな』


「ダークンさん、この階層あたりから、シルバー・ファングが出てきますよ」


『そうか。アズラン、ちゃんと道は覚えられているか?』


「はい、問題ありません」


『それじゃあ、少し休憩しよう。疲れていないように自分では思っていても意外と疲れているもんだから』


 そう言って、通路の脇によって休憩することにした。


 三人揃って薄暗い通路の壁にくっ付いて体育座たいいくすわりをしている。


 リュックは移動中はみんな『収納キューブ』に入れているので、トルシェとアズランはそれぞれ『キューブ』からリュックを取り出し、そのリュック中に入れていた木の実を一緒に取り出した水袋の水を飲みながらかじり始めた。


 二人とも同じ木の実を食べている。見た目はピスタチオだ。いちど口に入れて、殻を割り、それを口から出して、そこらに殻を捨てて中身を食べている。周りが殻だらけになっていく。


 ちゃんと殻を袋かなんかに入れてそこらに投げ捨てるなと言いたいところだが、いずれこれもダンジョンの栄養になると思えばいいのかなとも思う。


 そのうちアズランが俺の隣に置いた鉄箱の蓋を開けて、木の実の殻をコロちゃんにやり出した。そうしたらトルシェまでやって来て、同じことを始めてしまった。


 こら、コロはゴミ処理機しょりきじゃないんだぞ!



『俺にも1つ、その木の実を分けてくれ』


「はい、どうぞ」


 木の実をトルシェから1つ貰って、コロちゃんに食べさせてやった。俺のやったのはちゃんと実の入ったヤツだからコロちゃんもすごく喜んでいるように見える。


 フフフ。勝ったな。


 俺たちがそんな感じで休憩していると、階段を下りてきた冒険者のパーティーが目の前を通り過ぎた。もちろん暗がりの中で怪しく赤く光る俺の姿を見て一瞬固まったが、いきなり俺に攻撃をしかけることもなく通り過ぎて行った。


 その6人組の見た目は堂々として、足取りもしっかりとしていた。それなりのベテランパーティーだったのだろう。


 アズランがトルシェに冒険者だから攻撃するなと言わなかったのは何でだろうと横の二人を見ると、ピスタチオもどきを食べるのに夢中で、目の前を冒険者が通り過ぎたことに全く気付いていなかったようだ。いや、さすがに気付いてはいたのだろうが無視したようだ。二人とも大物ではある。



 30分ぐらいそこで休憩した。周りの木の実の殻はだいぶダンジョンの中に吸い込まれたようだ。いや、トルシェとアズランが殻を拾ってコロちゃんに食べさせたようだ。


『そろそろ行くか』


「はーい」「はい」


 どちらが誰の返事かなどとは言うまい。


 これだけ通路に人がいなければ、モンスターも出てきてくれていいものだがなかなか出てきてくれない。


『どうも歩いているだけでつまらんな』


「さっき前を通った冒険者たちを追っかけて勝負しますか?」


 さっきの冒険者たちにはやはり気づいていたんだ。当たり前か。


『何の勝負だ?』


「それは、殺し合いでしょう。子どもじゃないんだから」


 子どもじゃなければ殺し合いなのかよ? トルシェさん、戦闘狂というより殺人狂になっちまったよ。


『トルシェ。相手を殺していいのは、モンスターか俺たちに危害を与える可能性があるヤツだけだ』


「分かってますよ、それくらい。

 連中がこれから先われわれに危害を加えないようあらかじめしめておこうと思っただけです。予防的処置よぼうてきしょちってヤツですよ。でも、ダークンさんがそこまで言うんならこれからはある程度控えるようにします」


 しめたら死んじゃうだろ。まあ、分かってくれたようで何よりだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る