第26話 やっぱりツンデレ美少女の笑顔は尊いと思う
ショッピングモール襲撃計画の作戦会議が終わり、皆が寝静まった深夜。作戦と言えるかも分からない滅茶苦茶な計画は置いておくとして、僕はマンションの外近くにいた。
「よし周りには誰もいないかな?」
何をするかって?
少年漫画よろしく特訓ですよ特訓。
おもむろに鎖を取りだし武器固有技能でその数を増やす。増やした鎖の数は合計七つ。
そして七つの鎖達を技能を駆使しながらそれぞれ別の軌道を描かせる。
鎖は上下左右に世話しなく移動していく。
当初は直線に動かす程度しか出来なかったのに大した成長ぶりだと思うが。
でもこれじゃあない。
『鎖の使い方がなってない』
あの執事の言葉が頭をよぎる。
そうだ彼が言ったことはこんな事ではないはずだ。敵の言葉を鵜呑みにするつもりは毛頭ないが、僕の中にもまだまだもっとやれるような感覚がある。
しかし喉の先まで出かかっているのに、上手く言葉に出来ない。
ともかくこういう時は体を動かすしかないだろう。答えなんて言うのは存外、行動の先にしか存在しないのだ。
更に鎖達の動きを激しく複雑にしていく。
◆
「はぁはぁ流石に疲れたね……」
鎖を動かし続けて早二時間。いくら身体能力が強化されてるとはいえ、流石に疲労は隠せなかった。
そのまま地面に仰向けに転がる。あーアスファルトが冷たくてきもちいー。
「もうあれだなこのままチーズ蒸しパンになりたい……」
駄目だな。疲れすぎて思考がまとまらなすぎる。しなし、汗を書きすぎて肌にベタリと張り付くシャツがうざったい。誰もいないしもういっそ全裸になろうかしら。
「何やってんの北原……?」
誰かの気配がすると思ったら、そこにはツンデレツインテール美少女の四条がいた。とりあえず全裸にならなくて良かったなと思いました。
◆
近くに設置されたベンチに四条は深く腰を掛けた。そしてぬぼーっと立ち尽くす僕をじっとりと見つめて来た。
どうやらお前も座れということらしい。電車でも席が空いていれば迷わず座る系男子である僕はありがたくその提案に乗ることにした。
もちろん彼女から極力距離を離すような形で。近くに座ったらキモいとか臭いとか言われそうで怖いし。
彼女はそんな僕の思考など露知らず、リラックスしたように両手を上にあげ背伸びをした。もちろんその時に前面にこれでもかと押し出される女性特有の膨らみは大変素晴らしい。脳内保存しとこ。
背伸びを終えた彼女は僕に怪訝な視線を向けてきた。
「何していたのよ。あんなところで寝転がって」
「あー、一応秘密の特訓をですね。この先なんか敵が更に強くなりそうだしね」
その言葉を聞いた彼女は何故か瞳を潤ませうつ向いた。
え、何そのメンヘラみたいなムーブ。僕はイケメンでもチャラ男でもないからこういう時の対処法なんてしらないんですけど。
「ごめん急に……でも北原達は凄いよね。あたし……ダメだ。弱いまんまだ」
「何言ってんのさ。君がいないと何も始まらないでしょ?」
彼女の言い分は良く分からなかったが、とりあえず思ったことを口に出す。
彼女は僕の言葉が予想外だったのか目をぱちくりとさせた。
「もしかして口説いてる?」
「……なんでそうなるの? いや、冗談抜きでさ。僕も斎藤も紙装甲よ? 四条がいないとまじで三秒で死んじゃうよ」
口説く云々は本当に意味不明なので置いておく。我コミュ障ぞ?
それはさておき、壁役と言うのは地味に見えるかもしれないがそれだけ重要だ。
事実、僕らは彼女が果敢に前に進んでくれるから戦えているのだ。
「だから……」
「そんなことないっ!!!!!!!!!!」
言葉を更に続けようとしたら、怒声に遮られた。
「だって……あたしこの前の執事だって巨大獣にも何にも出来なかったのよ!? アーちゃんはいつの間にか凄い
「情報収集では九重ちゃんにも敵わない!! 速さでも楓ちゃんにすら敵わない!!! じゃああたしは!? あたしは何の役にたてるの!? 教えてよ!!!!」
「もうどうしたら……どうしたらいいのよ……」
川の氾濫のような叫び。そして最後は消えかけた蝋燭の灯火みたいな独白だった。触れれば崩れ落ちてしまいそうなその儚い背中にかける言葉は見つかるわけもない。
だって、僕は今彼女が劣等感に苛まれる原因の一つだ。なら何を言ったとしてもそれは気休めにしかならない。
「どうしたらいいんだろうなぁ……」
だからこういう毒にも薬にもならないしょうもない呟きが自然と漏れた。
四条はそんなどうしようもない僕を見て苦笑を漏らした。
「ふふ、何よ。普通こういう時は手を握るなり肩を抱いたりするものじゃないの?」
「僕にそういうのは求めないでよ。無理なの分かりきってるでしょ?」
我コミュ障ぞ?
「あはは……そうね北原はドジで間抜けで根暗だもんね」
「間違ってないけどそれは言い過ぎでは?」
彼女は「間違ってないんだ」とまたケラケラと笑った。
「……」
何か話そうとしたが思いの外、言葉が上手く出ず結局黙る形となってしまった。
きっと、言おうと思った言葉が僕にとって大きいトラウマだったからだ。それでも彼女を放っておけなくて、なんとか言葉を絞り出そうとする。
「……僕さ虐められてたんだ、しかも大好きだった幼馴染みにも裏切られた。毎日糞みたいでさ、誰も助けてくれないし抵抗しても無駄だってずっと諦めていたんだ」
「北原……?」
四条は僕の突然の自分語りに困惑するが構わず続ける。
「でも世界が変わって力を手に入れて糞みたいな生き方止めることが出来た。だから上手く言えないけど……こんな僕に出来ることなら君なら簡単に出来ると思うよ」
彼女は世界が変わる前ですら、僕が出来なかった事が平然と出来ていた存在。
いささかというかとんでもなく暴論だが、変わる前ですら出来ていたのだ。だからきっと変わった後の今でも難なく出来るはずだ。
「……僕にこんなこと言われても嬉しくないかもしれないけどさ。僕らはパーティーだよ」
もう何言っているか分からなくなってきた。それでも四条は真っ直ぐ僕を見つめている。
「だからどう解決すればいいか分からないし、糞の役にも立たないかもしれないけど……君の隣で一緒に悩むよ」
彼女は一瞬キョトンとしたような表情を浮かべた。
「……うん!」
そして次の瞬間、ほほ赤らめて向日葵のような笑顔を咲かせたのだった。
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