第25話 やはり現実はどこまでも厳しい件について



『さてさて私達の今の状況を整理しよう。まずは幼女ちゃん愛しのお兄様救出に関してだ。彼は現在この近くの大型ショッピングモールに監禁されている』


 数々の望みもしないトラブルを挟んだせいで放置されていたが、最初は幼女ちゃんのお願いを聞くかどうかだったはずだ。ほんとに本題に入るまで長かったなぁ……。



「お兄ちゃん……心配なのれす……」



「それで何の私達に何のメリットが?」


 流石斎藤。幼女ちゃんの気持ちに対する考慮なんて皆無。僕は彼女のこういうところは嫌いじゃないけどね。

 まぁ人助けの話をしているのにすぐさまメリットの話が出るあたり中々の倫理観だと思うけど。

 しかし僕らは慈善事業者でもない。



『あるさ。戦力補強が出来る』


「そこに囚われている彼は余程特異な能力を持っていると?」


『正解だ。まぁ、能力については見てからのお楽しみということにしておこう。しかしだ、彼の力は確実に役に立つだろうよ』


 そこまで言い切るという事はよほどの自信があるということだろうか。


「いいえ、それだけではメリットとして弱いわ。リスクと釣り合うと思えないもの。九重さん、貴方が提案することだからまだ他に裏があるのでしょう?」


 斎藤の言葉に幼女ちゃんは不安そうにするがやはりお構い無しだ。


 まぁ、だが察してはいたことだ。

 そもそもこの自宅警備員氏がこの提案を持ちかけるメリットがなさすぎるのだ。 

 となると戦力増強をさせたがっているところから、厄介な敵がいるとかが妥当か。例えば、とかね。


『流石斎藤君だ。詐欺師君も気づいているみたいだし、君達には隠し事が出来ないね。その通りだ、真の問題はこの先にある』


 ちなみに四条は話が理解出来ずオロオロしている。まぁ、その彼女は突撃隊長というか脳筋ゴリラなので許してやって欲しい。所詮はゴリラなのだ。


 いたっ!





『女学院に居座っている連中が中々に厄介な奴等でね。君達も奴等の反吐が出そうな所業を一部見ているだろう?』


「あいつらねっ……!!」


 ここで四条もどういう奴等が敵なのか理解した。彼女は犬歯をむき出しにして怒り狂う。女子というとを鑑みるとその表情は如何なものかと思うね。



『この街中の金をかき集め、手に入れた強力な武器で好き放題している連中がいる。ちなみにショッピングモールにいる連中もその一部だ』



『そいつらは君達のような見た目麗しい美少女達に目がない。それに四条君、不安を煽るようで申し訳ないのだが、数日前に君の妹の目撃情報があった。そして、奴等の中心には君と因縁がある人物の久我がいる』



 彼女は暗にこのままだと勝てないから戦力補強をして備えるべきだと言っているのだ。もしかして僕らわりと八方塞がりでは?


 話を聞いた面々は沈黙してしまった。

 特に四条は気が気ではないだろう。妹の生存を喜ぶどころか不安しかない。何せ銀行で女性達に好き放題していた連中だ。もし捕まってしまったらどんな目に合うかたまったものではない。


 そして、気持ちは僕も似たようなものだ。

 久我。僕を虐め嗤っていた奴等がすぐ近くにいる。



『さて、私の話は以上だ。それで君達はこれを聞いてどうする?』



 また沈黙。

 それを最初に破ったのは四条だった。



「あ、あたしはやるわっ! だってこんなの見過ごせないし、何よりあたしの妹がいるかもしれないのよ!?」


 彼女は制服のスカートの裾を皺が出来るぐらい握りしめていた。きっと不安で不安で堪らないはずだ。それでも彼女は震えを抑えて前に進もうとしているのだろう。


「いいわ私もその話に乗りましょう。元より銀行の奴等は気になっていたし降りかかる火の粉は殲滅するのみよ」


 斎藤も四条に続いた。

 なんか言ってることが凄い物騒な件について。彼女は反対すると思っていたから、少し意外だった。まぁ斎藤のことだし戦力補強辺りにメリットを見いだしたということか。



「楓もやるのれす……!」


 幼女ちゃんも強く頷いた。

 そうなると残るは僕のみ。全員が賛成している中、回答を求められると日本特有の同調圧力味を感じる。あの同調圧力ってほんと良くないと思うの。断れば空気が読めないと弾圧され、文句の一つでも言おうものなら「君が決めたことだ」とかほざかれる。

 やっぱり世の中糞か?


 まぁ、長々と文句を垂れ流したが反対しているわけでもない。戦力補強は出来るに越したことはないし、何よりこの先に久我がいる。

 あの糞野郎にされた数々の非道を思い出せば腸が煮えくり返るし、もう黙っているつもりもない。世界が変わり自由に生きると決めたのだ。ここで逃げるなんて選択肢は有り得ない。


「いいよ僕もやろう。なんか同調圧力に負けて賛成した感があるけど、僕もそれなりに退けない理由もあるしね」


 僕の回答を聞いて斎藤と四条は溜め息を吐いた。


「もう少し素直に言えないものかしらね」

「相変わらず北原は北原よね……」


 うっさいぞ。人間なんてそうそう変わるものでもない。もともと僕なんてこんな感じだ。世界が変わってすらこの状態なんだから、もう一生このままだと思うね。



『さて話が纏まった所で実行について詰めて行こう

 。いやはや断られなくて本当に良かったよ。何せ私は自宅警備員だし直接的な戦闘能力は皆無だからね!!』


 威張ることでもないと思うけど。


「それで具体的な作戦は?」


『あぁ、まずトラックで突撃しようと思っている』


「おい」


 ちょっと待てや。

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