第23話 念願のお風呂話なのにどこまで行っても残念な件について
「あら意外といい体してるのね北原君」
「え、ほんと? どれどれ……あ、結構筋肉あるのね」
『ふむこれは中々に見ごたえがあるね』
「ど、ドキドキするのれす!」
齋藤ヴィレッジ改め齋藤タワー最上階に存在する大浴場。大浴場のその豪華さはマンション内に設置されたにも関わらず旅館顔負けの作り込みっぷりである。
そこに三人の少女とドローンがいた。何故か男湯に。
「って!! あたし達なにしてんのこれ!? なんで女の子のあたし達が覗きしてんの!?」
「しっ! 美琴さん大声出さないで。ばれちゃうでしょ!」
「ご、ごめん」
ドローンを除いた少女たちは浴場における原則に従い衣服等の物は身につけていない。純白のバスタオルで局部を隠しているだけだ。
彼女達はバレないように脱衣所の扉をほんの少しだけ開けて身を隠している。
そして彼女達の視線の先には湯船に全裸でぷかぷか浮かぶ駄目人間が一人。
「あぁ……風呂って最高。もうなんか二度と働きたくなくなるよなぁ」
そもそもお前は高校生なんだから働いていないだろというツッコミはさて置き。その見た目が隠キャの代表と言っても過言ではない男子、北原ムンクはこの状況に気づく素振りもない。ただただ哀れにも視姦されているだけである。
「あぁ……花の女子高生であるあたし達がなんでこんなことしているのよ……」
「社会見学みたいなものよ」
「違うよ!? 何言ってんのアーちゃん!?」
「いえいえ美琴さん。これは立派とした社会見学よ。楓ちゃんのような可愛い女の子が将来男に耐性が無さすぎて変な男に引っかからない為にもこれは必要な事なのよ」
「アーちゃんが北原みたいな事言ってる……」
『青春だねぇ』
そんな青春あってたまるか。ツインテールツンデレと名高い美琴は今にも叫び出したくなるような感情を抑えて強く口を閉ざした。
そもそも事の発端はこの忌々しいドローンが『そうだ覗きに行こう』などとほざいたからだ。美琴は聞き流すつもりだったが、まさかの清楚系黒髪美少女であるアリスがこの馬鹿みたいな計画に賛同した。仮にも清楚系なのに。
もう美琴は頭を抱えたい気持ちで一杯だった。
「かわいいとか照れるのれす〜」
あらやだ、かわいっ!
照れる幼女の楓を見て美琴は一瞬理性を失いかけたが、頭をブンブン振りなんとか正気を保った。おかしい、この状況の何もかもがおかしい。
「騙されないわよっ!? 男慣れするだけならわざわざ覗きなんてする必要ないわよねぇ!?」
「チッ」
アリスはもう取り繕うことすら面倒になったのか露骨に舌打ちし始めた。もうなんかやりたい放題である。
「ていうかアーちゃんがなんでこんな乗り気なのか分かんないよ……」
『あぁ彼女はね、こう見えて実践では色々と奥手なのさ。だからこそ尚更にね?』
「九重さんそういう言い方は止めてくれるかしら。大体この経験の有無で優劣を決めようなんて風潮がそもそもおかしいのよ」
彼女の発言は暗に経験がないから興味津々と自白しているようなものだが。それでいいのだろうか。
「べ、別にアタシも経験の多さなんてどうでもいいと思うけど……ていうかアタシだってまだしょ……わーーーーーーーー!!!!!!!」
勢いに釣られてとんでもないことを暴露したと気づいた美琴。もう本当に手遅れである。
『別にいいじゃないか。私もまだ処女だよ』
「えぇ別におかしい事じゃないと思うけれど」
「なんのことれすか?」
対するドローンとアリスは気にした素振りする見せない。唯一の救いは楓がまだその手の話題に無頓着なことぐらいである。えぇ、女子的にはまだヴァージンとか女子力皆無な気もするんだけど……。比較的ギャル系のグループに所属していた美琴は自分の常識に自信を無くした。
「え、何処からなんか声が聞こえたような」
流石にここまで騒げば誰でも流石に気づく。それがあまりに怠惰すぎて最近は五感ですらサボり初めている彼ですら気づくレベル。
「アーちゃん! 流石にそろそろバレるから止めようよ!?」
「後少し……後少しなの! 後少しで北原君のムンク君が拝めそうなのよ……!」
「そんなの見たいの!? ていうかその言い方やめてよ!?」
『ふむ、録画は任せておけ』
「駄目だこいつ早くなんとかしないと……」
「か、楓にも見せて欲しいのれす!」
「あ、ちょっ!? お、押さないでくれるかしら!?」
もはや混沌。女子達が男の裸を見に押し掛けているこの状況。この言葉以外表しようがない。
「あ」
誰が呟いたのか。それはともかくその言葉を皮切りに均衡が遂に崩れた。当然と言えば当然だが、三人の人間が食いつくように扉に全体重をぶつけていたらいつか限界は来る。
バキッ
そんな不穏な音ともにスライド式の扉なのにゆっくりと前に傾き始め、遂には倒れた。
「……」
「あ、えっと北原? これにはそのふかーいわけが」
結果として男湯で半裸の男女達が邂逅する形となる。シチュエーション的にはエロ系ラブコメと言っても過言では無いはずなのに、そこはかとなく漂う残念さが何とも言えない雰囲気を醸し出している。ムンクを除き、ここにいる面々はそれなりにというか、かなり高い容姿を持っているというに残念だ。もう本当に哀れなぐらい残念だ。
ちなみに美琴はムンクを見ないように顔を隠しているがよくよく見ると指の隙間から目が出ているし、アリスはもう開き直ってガン見している。ドローンに至っては録画している始末。まともなのは訳もわからずポカーンとしている楓ぐらいだ。
「あ」
運命の悪戯か、ラブコメの神様の仕業か。ムンクの腰に巻いていたタオルがハラリと地面に落ちた。
「……」
沈黙。
ムンクは恐る恐る自分の下半身を見て女性陣を見て、また自分の下半身に視線を向けた。
「キャーーーーーーーーーーーー!!!!!」
そして齢一七である男子の声が大浴場に虚しく鳴り響くのだった。
その声を聞きながら女性陣は心の中でこう思ったらしい。普通逆じゃないかなぁ。
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