第22話 自宅警備員氏は真なるひきこもり
ファッションペット好きというのを知っているだろうか?
「私ペットが大好きで~」
なんて事をほざき、あまつさえペットとの自撮りをSNSとかにあげる女子。彼女らは口を揃えて自己をペットが大好きな心優しい女子と主張して憚らないのだ。
いや違うから。君達はペットが好きな自分が好きなだけだから。
何故唐突にそんなことを思ったかと言えば、目の前に引きこもりがいたからだ。真の引きこもりである。
『「嫌だ嫌だ嫌だ!! 私はこの聖域から死んでも出ないからなぁ!!! むしろ出たら死ぬからなぁ!!!!」』
当然ひきこもり界にもファッションひきこもりは存在する。
しかし、目の前というか一枚のドアを隔てて存在する彼女はそれと一線を画している。
「はぁ……」
斎藤は困ったように額に手を当ててため息を漏らす。もはや見慣れた光景だ。苦労してますね。
『「だいたい部屋の中からでも話合いは出来るだろぅ! わざわざ面と向かう必要なんて皆無にも程があるんだよぉ!!」』
「私はドローンさんの顔見てみたいのれす……」
「アーちゃんこれはどうしよっか? ほっとく?」
「そういう訳にもいかないでしょう。仕方ないわ強行突破しましょう」
強行突破、もうそれしかないか。そろそろ面々も痺れを切らし始めている。僕的にはわざわざ直接会わなくてもいいと思うが、世間一般的に言えば円滑なコミュニケーションは目を見てするものだ。憐れ自宅警備員氏。
目の前に四条がいるのが運のつき。最近はパワー特化型霊長類と目される彼女を前にすればこんな薄っぺらいドアなんてわけもないだろう。四条にすんごい睨まれた。ごめんて。
『「ふふーん、そんなことしても無駄無駄ア! この自宅警備員スキルの引きこもり能力を舐めてもらっては困るね!!」』
バキッ
『「えっ」』
ドアノブが強引に引きちぎられる音が虚しく木霊した。
「えっと、簡単に開けれちゃいそうだけど……?」
『「あああーーーーーしまったーーーーーーー!?!?!? スキルの対象範囲をこの地下一面にしてんだった!?!?!?」』
「とっとと開けて話を進めてしまいましょう」
「わくわく! どんな人なんれすかね!」
「じゃ開けるわよ!!!」
無慈悲だ。
斎藤も四条も、まさかの幼女ちゃんですら躊躇いが無い。
『「あ、ちょっまじで待って!? 今ほんとに不味いからぁ!?!? ほんとまじで不味いからあああ!!! あ、ちょ本当に開くつもりかい!? あ、本当に待って!! 準備に三分、いや心の準備に五時間ぐらいかかるから!? あぁ、くそ! 止まるつもりないなああああ! あ、ダメポ……」』
「問答無用!!」
やはり無慈悲にも勢いよく開かれたドア。
ドアの先には全裸の少女が一人。
あれだろうか。自分の部屋だと気が強くなって素っ裸になってしまうタイプなのだろうか。
ともかく、ドアの先には一糸まとわぬ姿の自宅警備員氏と思わしき人物がいたのだった。
いつでも大体そうだが、ファーストコンタクトは本当にままならない。
◆
「ヒックヒック……お嫁にいけないよぅ」
先程までの落ち着いた女性のキャラはどこに行ったよやら。僕の目の前には憐れな引きこもり(全裸仕様)しかいなかった。
「北原! 見ちゃだめ!!」
「ぐえぇ」
四条のエルボーが僕の喉を撃ち抜いた。
ぐえぇ、い、息が出来ない……。こんにゃろう、マウンテンゴリラ並みのフィジカルでエルボーとかまじで止めて欲しい。HPも三割近く削られている有り様だ。
「九重さん。あれは私達で押さえておくからとにかく服を着て頂戴」
四条を問い詰め損害賠償を要求したいところだが、生憎ここには僕の人権は塵芥に等しい。ともかく彼女が着替えるまで待つ他なかった。
◆
「ふひひ……落ち着く……」
着替えが終わると自宅警備員氏の態度はもう百八十度変わった。ドローンから溢れ出ていた凛々しさはもはや産業廃棄物と化した。
ここにいるのは紛うことなき引きこもりでしかない。不純物が無さすぎで果汁100パーセントレベルで引きこもりと言っても過言ではない。
「ドローンさんの服がめちゃくちゃかわいいのれす」
「ふひひ、お目が高い。さす幼女」
「格好も口調も態度も何一つイメージと一致しない。もう滅茶苦茶だし止めて欲しいんですけど」
着替えた自宅警備員氏の格好はキャラもののパジャマだった。柄が印刷されてるとかそう言うのではなくてそのキャラになりきれるようなタイプの方。
ちなみに巷で有名な黄色い電気鼠だった。
「はぁ……」
「あ、あはは」
これには斎藤はおろか四条ですら苦笑いである。もうね本当に酷いんだよ。
格好はゆるキャラみたいだし、口調はもう陰キャそのもの。しかも何故か表情だけはキリッとして出来る女感を出そうとしているのが妙にイラッと来る。
「ふ、ふひひ、積もる話はあるだろうけど……まずお風呂に入ってきたら? ここは大浴場付きだよ?」
「こほん、でもお風呂というのは良いかも知れないわね。ここしばらくゆっくり入れたことなんてないのだし」
「お風呂! お風呂最高!!!」
「大きいお風呂大好きなのれす!!」
話題が風呂に戻り女性陣は大歓喜。彼女らを横目に見つつ僕としても相当嬉しい。水浴びやシャワーぐらいしか出来なかったし本当に嬉しい。
後、女子がお風呂ね……ほぅ。
「北原君………………覗いたら潰すから」
あ、はい。
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