第21話 うすうす感じていたけど自宅警備員さんが筋金入りの引きこもりだった件について
『レベルアップしました』
『詐欺師のレベルが上限に到達。上位ジョブが解放されました』
「お、レベルアップ。しかも上位ジョブとか出たんてすけど」
「あら北原君の上位ジョブなんてろくでもなさそうね」
間髪入れず飛んでくる斎藤の毒舌。何たる言い様。酷いしいつか訴えってやるこんちくしょうとも思うが、その発言は否めない。認めたくはないが初手で詐欺師なんてキワモノジョブの僕だ。まとものなものが来る未来がろくに見えやしない。
まぁ、そこら辺は安全なところでおいおい確認することにしよう。それはさておき。
「しかし幼女ちゃん凄かったね。まさかあんな速く動けるなんてさ。まさに閃光幼女って感じ」
「はぁ……貴方は本当にそういうのやめなさい。セクハラ一歩手前よ?」
『まぁそれは手遅れだろうしさておき。神原君、あの目にも止まらぬ速さ、閃光というのも頷ける。流石はエクストラジョブと言ったところだろう』
「へへ、ムンクお兄ちゃんほどではないのれす!」
照れ臭いのか笑みを隠すように謙遜する幼女ちゃん。
いや自宅警備員氏が言うようにその速さは舌を巻くものだった。レベルアップで向上した上に籠手の性能で更に強化された僕の速さと遜色ないものと言える。
これなら僕らのパーティーに足りない純物理アタッカーを補えるかもしれない。四条も攻撃力は高いのだが、いかんせん 役割的には壁役の方が強い。ってあれ、四条は?
「って四条。そんなところでずっとへたり込んでてどうしたのさ。もしかしてダメージかなり残ってる?」
視界をぐるりと回して見つけた四条は何故か地面に座ったままだった。いつもであればこういう会話にはイの一番で乗り込んでくるのに。何か拾い食いでもしたのかな。
「はっ!? え!? いや、な、なんでもないわ!」
「ん? まぁ、それならいいけど」
手を差し出すと、四条は掴んで立ち上がった。
一瞬の躊躇いはあれか、出来るならお前みたいな陰キャなんて触りたくないという意思の現れだろうか。なにそれ怖い。
「そ、そう! な、なんでもないから! ていうかアーちゃんここが私達の目的地だったの?」
「えぇ、そう。ここなら大抵の設備が揃っている上に、太陽光発電もあるから何かあっても電気が止まることはないわ」
なるほどそれが斎藤がここを拠点にしたがっていた理由か。
世界が変わって早一週間。まだ電気や水道などのライフラインは止まっていないようだが、場所によってはそうもいかない。電気線そのものがモンスターに破壊されていて停止しているところもあった。
いずれ世界全体がそうなりえることを彼女は危惧して太陽光発電で電気を賄える場所を選定したということだろう。
それにここならセキュリティも完備だろうしね。モンスターは防げないにせよ人間相手であればそれなりに効力をはっきする。それだけでもありがたいことだ。
「さっさと中に入ることにしましょう。顔認識装置があるから私がいれば中に問題なく入れるはずよ」
流石は斎藤家が所有している金持ちマンション。顔パスとかまじぱないっす。
◆
斎藤の後に続きドローンも幼女ちゃんもマンションへと歩みを進める。
そんな最中、何故か四条はしなだれた枝のようにぶら下がる片腕を掴んで立ち尽くしていた。
「き、北原!」
「何さ四条。早く中に入ろうよ」
「……」
四条は僕の問いかけに言葉を絞り出すように吐き出した。
「アタシ……皆の役に出来ているのかな……」
「え、なに? ごめんちょっと聞こえなかったからもう一回言ってくれると嬉しい」
しかし、タイミングが悪い。一際大きい風がその細々とした声音をかき消した。
え、何このタイミング良すぎる風。ギャルゲーじゃないし、ましてや主人公でもないのだからこういうのは止めて欲しい。
「ううん、何でもないわ。さ、早く行くわよ!」
「ちょ、ちょっとそういう言い方余計気になるじゃん。そういうの後の禍根とかになりそうだから辞めて欲しいんですけど」
「うっさいわねー。ぐだぐだ言っていると置いていくわよ」
四条は僕の言葉を露骨にスルーして齋藤の方に駆け出した。
え、何その会話の切り方。逆に気になるやつじゃん。気になって夜しか眠れなくなるやつじゃん。
しかし、問い詰めたところで答えてくれないことも分かっている。一緒に行動するようになって知ったが、彼女は相当に強情なのだ。これはもう後に変なフラグにならないことを祈るばかりだね。
とりあえず、僕は困ったらあれだな。齋藤に放り投げてやることを強く決意した。
◆
『「い、嫌だ!! 私は絶対にこの部屋から出ないぞ! いや出てたまるものか!!!」』
何重にも鍵が鍵が施錠された扉の前で二重に響き渡る女性の声。聞きなれた声ではあるが、普段の理知的な雰囲気があるものはとはかけ離れすぎて困惑しかない。
何故こんなことに原因を思考するが、やはり僕らに非はなくしょうもないことにしかおもえない。
数分前、僕らは無事に斎藤タワー到着し、中にはつつがなく入ることが入ることが出来た。自宅警備員氏曰く金持ちである住人達は一目散に避難して中は彼女を除けば無人らしい。だからか音一つもしないので静かだ。更に無駄に広く冷たい質感の白い大理石製の床や壁のせいか余計に静けさを感じさせられた。
そして齋藤とドローンに案内されるがままに地下の一際大きい部屋にたどり着いた。どうやらドローンの本体である自宅警備員氏はこの部屋の中にいるらしい。
ドアの前まで行くまでは何一つ問題がなかった。そう、ここまでは全くというほど問題がなかったのだ。
『「言っとくが私は死んでもこの部屋から出ないからなぁ!! ここが、ここだけが私の聖域だぁ!!!!!」』
問題だったのは自宅警備員氏は筋金入りの引きこもりという事だった。
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