第16話 お爺ちゃんに限って強キャラな件について



 家の外は車が二車両通れるぐらいの幅を持つ一般的な街道だ。学校周辺と比べ被害が少なく、そこまで荒れてはいない。まぁ、電柱とかは倒れてたりしてデストロイなことはかわりないんだけどね。

 ただ、そんな風景の中にキチンとした身なりの老執事というのはあまりにも似合わない。


「元気なのはとても良いことです。しかし、少しばかりおいたが過ぎるようですな」


「大丈夫!? 四条さん!?」


 慌てて斎藤が駆け寄り、四条抱き抱えた。

 僕も行きたいところではあるが、目の前の敵から目が離せそうもない。一応大したダメージも受けて無さそうだし平気だろう。


 問題なのは目の前の老執事だ。


「ふむ。頼りないと思っていましたが中々にいい目をしますな。やはり日本男子たるものこうでなくては」


「そりゃどーも。初見のじーさんに言われたところで全く嬉しくないけどね」


 どうせなら美少女に生まれ変わって出直して来て欲しいね、まじで。


「ほっほっほっ。これは手厳しい」


 老紳士はどこ吹く風という感じに微笑を浮かべるばかりだ。



「さて、ムンク様。お覚悟はお持ちですかな?」


「は? なんの?」


「お嬢様の隣いる覚悟ですよ」


 瞬間、老執事が弾けた。  

 問いかけたのに殴ってくるとかどういう了見だよ。だがなんとか紙一重でかわせた。

 とっさに反応できたのは偶然だ。



「ほぉ、反応は上々。なら更にいけそうですな」


「うぉ!?」


 今度は足が顎先を掠めた。

 この爺まだ早くなるのかよ!?

 今のはギリギリかわせたが、次かわせる自信はない。


「くそったれ! あっち行け!!」

 

 とっさに鎖を取りだし走らせる。

 老執事目掛けて真っ直ぐに突き進む鎖。



「おお、おっかないですなぁ」


 しかし、簡単にかわされまた距離を取られた。


『詐欺師君気をつけたほうがいい。あの執事……


「え!? じゃあレベル1のまんまってことれすか!?」


 遅れてドローンと幼女ちゃんが遅れて家から出来た。

 でも、まって。レベルアップしてないってどういうことよ。


「いやぁ、そりゃないでしょ。あれは素の人間の動きじゃないよ?」


 疑いつつも一応こっそり解析を発動させる。解析スキルにより脳に流れ込む情報はドローンの言うことと相違なかった。

 あの老執事はあれだけの動きをしているのにレベル1でしかない。

 どういうことなんだよ一体。



「あぁ、私は魔力変換機構は使っておりませんので」


「は?」


「おっと失礼ムンク様。若者にはれべるあっぷと言った方が伝わりますかな。私はれべるあっぷとやらはしませんので。やはりあぁいうは体の調子が崩れますからね」



 老執事は全てを知っているかのように淡々と事実を語った。彼は僕らがレベルアップしていて、身体能力が上昇しているであろうことも知っている。

 知っていてなお余裕の笑みを浮かべているのだ。


化け物チートかよ……」


 素の体で僕らと平然と渡り合うとかどういうことだよ。どういう原理してんのか皆目検討もつかない。   



「ムンク様、男子がそのような泣き言を言うべきではないですぞ。さて、戦りますかな」 



 次の刹那、彼を見失った。

 辺りを見回してもどこにもいない。どこに消えた?  


「後ろですぞ」


「くっ」

 

 慌てて短剣振りかざすが虚しく空を切るだけだった。くっそ、どんな身体能力してんだ。


「愚鈍」


 かはっ


 肘鉄が僕の腹に深々とめり込んだ。

 HPという防御膜があるのに、あまりの衝撃に意識が飛びそうになった。

 頭を振り意識を戻す。不味い。早く次の行動をしないと。



「脆弱」


 顎に衝撃。

 今度は数秒意識が消えた。気がついた時には宙を舞っていた。

 アッパーカットされたのか。

 くそっ、このままじゃ不味い。不味すぎる。

 だったら鎖で……!




「未熟」



 しかし、僕の動きは老執事と比べてあまりにも鈍すぎた。

 既に彼は僕の顔面目掛けて拳を振り下ろしている。間に合わない。

 こちらが反撃する暇など一ミリ足りとも存在しない。

 鎖も短剣も動かす暇すらない。


 何の慈悲もなく拳は僕の顔面へと叩き込まれた。

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