第14話 幼女の通っている女学院がそうとデストロイな状況になっている件について
『さて、冗談はこれぐらいにしておいてと。そろそろ神原ちゃんの話を聞こうじゃないか』
ドローンから流れる女声はどこか淡々としたものだった。
散々話題をかき乱した癖に、話を取り仕切るドローンが小憎たらしい。状況が状況じゃなかったら石とかぶんなげてるぞ。
「そうね。そろそろ本題に入るべきだわ」
とは言え斎藤が同意するように本題に入るべきだと僕も思う。
幼女ちゃんの話を聞くために不本意ながら僕の家にきたわけだけだが。それなり時間が経過しているのに対し話が一向に進んでいない。
悲しいにもほどがあるというか、僕の性癖が暴露されたぐらいだ。末代まで呪ってやる所存。
「はいれす……」
問われた幼女は泣きそうになりながらも表情を引き締めてなんとか言葉を吐き出そうとしていた。
「ちょっとちょっと! 颯ちゃん震えてるじゃない!」
四条は幼女を守るように抱きしめた。とても話を出来る状況ではないと判断したのだろう。
『しかしだね、今そこまで猶予がある状況でもないのだよ』
「でもっ!!」
「あの大丈夫れす……ありがとなのれす美琴おねーちゃん。大丈夫、大丈夫なのれす」
どうみても空元気だ。手足どころが口ですらガチガチに震えている。あまりにも震えすぎてカツカツと歯通しがぶつかり合う音がまた生々しい。
しかし、そんな状態でも彼女は逃げようとはしない。
「あの……あのれすね……」
それでもと幼女ちゃんは四条を払い除け、確固たる口調でこれまでのことを語りだした。
ーーー
神原颯の話を聞き終えた僕らはしばらく言葉を発することはなかった。
まぁ、これが中々に厄介で複数の事情が絡んでいるようだ。そしてその内容は想像通りと言えばその通りなのだが凄惨すぎた。
「大丈夫……大丈夫だから……」
幼女ちゃんに話しかける四条の声音は子を慈しむ心優しい母のそれに近い。
話終えた幼女ちゃんの目尻には大粒の涙。その様子を見かねた四条はまた彼女を優しく包み込むように抱き締めた。
こういう部分は四条の魅力的な部分だと思う。ほら、僕や斎藤だとそういことは出来ないからね。
「それにしても思った以上にろくでもない状況だよなぁ」
やはりというか、どこの場所でも世界がRPGになったことにより混乱を極めているらしい。
この幼女が通っていた女学院も例に漏れず、混乱の最中にあるようだ。
だけど、この女学院はかなり最低の部類だった。
世界が変わって数日。モンスターの被害こそはあまりなかったらしい。なんとか隠れて過ごし救援を待っていた。
しかし、ある日十数人のグループがいきなり来て、文字通り蹂躙した。内容は聞くだけでも吐き気がする胸糞なものだった。
その内容までも幼女は震えながらも必死に話そうとするので、学院の被害については一度止めさせて、話を先に進ませた。
「でも、そんな状況にも関わらず立ち向かう姿勢は好感が持てるわね」
斎藤の言う通りそんな中でも奇特なやつはいるもので、女学院を救おうと立ち上がった奴がいたそうだ。
まぁ、でも多勢に無勢。簡単に返り討ちにあうのは必然だった。
結局、強大な戦力差に敵うはずもなく彼? と幼女は命からがら逃げだすことになるのだが、その道中別の大型ショッピングモールを拠点とするグループに捕まったらしい。
それでも彼は最後の力を振り絞って幼女だけでも逃がした。
せめて彼女だけでもと逃がしたところは男気を感じるねぇ。簡単に出来ることじゃない。
そう言うわけで、幼女が追われてたってことに繋がるみたいだ。
ーーー
「お願いします! お兄ちゃんを! お兄ちゃんを! 助けてください!!」
四条に抱き締しめられ続けて数刻。ようやく落ち着いた幼女ちゃんは必死に頭を下げ続けた。こんな年齢の子がそこまでするのは感心するが、頼るものが他にはないということなんだろう。藁にもすがる思いってやつだ。
凄く必死に頼んでくるところ申し訳無さはあるが、即決は出来ない。リスクがどのぐらい高いのか未知数だ。
「で、どうしよっか」
「アーちゃん! 助けようよ!」
こういうときは斎藤議長に丸投げするのがいいよね! 頭いいし!
ここにいる全員がじっと斎藤の次の言葉を待った。
斎藤は悩むように目を瞑り思考する。
しかし、少しだけの間の後の答えは否定的なものだった。
「リスクが高すぎるわ……」
「アーちゃん!? この子を見捨てるって言うの!?」
当然、四条は激昂した。斎藤の言い様はつまり見捨てるというわけで、心優しい彼女にそれが認められるわけもなかった。
「四条さん。貴方状況を理解しているのかしら?」
しかし、斎藤の口調はどこまでも淡々としたものだった。その言い様に四条も怯みそうになるが引きはしない。
「わかってるわよ! でも、みんなで力を合わせばなんとか……」
「いいえ、分かっていない。何も分かっていない。ならないというかなるわけがないわ」
斎藤は四条の言葉を叩き潰すように言葉を重ねる。
「いい? こちらでまともに戦えるのは私、四条さん、北原君の三人だけ。話を聞く限り頭数は遥かに向こうのほうが上。これだけでも頭が痛いのに、向こうはガチャ産の最高レアリティ武器を持っている可能性が高い」
「そ、そんなの分からないじゃない……」
四条は納得できていないようだが、僕には少し思いあたる部分があった。
「やっぱり銀行の件?」
最高レアリティであるSSR武器を持っているとしたらそれは相当な資産を所持しているということだ。
そして、それは先程の銀行の状況に関連している可能性は捨てきれないのだ。銀行内の女性に乱暴しているというところも同一犯を匂わせる。
「えぇ、その通り。ここまで好き放題にしているということは同一犯の可能性は捨てきれない。銀行を襲撃して手に入れた金で武器を手にしたと考えれば一応辻褄は合う」
「じゃあ、私たちは何も出来ないっていうの……?」
どうしようない状況だと理解してか四条の表情はくしゃくしゃに崩れそうになる。自分に何も出来ないという状況は惨めでしかないのだ。
「ええ、私達だけならね。そうでしょう九重さん?」
「へ?」
『ふむ、まぁ流石にバレてたか。流石はアリス嬢。その通りだ。一つ策がある……まぁ、その為には一つお願いがあるのだけれどね』
斎藤に呼び掛けられたドローンから流れる声音はどこまでも自信ありげだ。ドローンの向こうにいる人間はニヒルな笑み浮かべていることであろう。
でも、お願いかぁ。四条はその言葉に一縷の希望を抱いたような顔をしているけど、僕は不安のほうが勝った。
だってこの人さっきからろくなことしてないし。
この人お願いとかろくでもなさそうだなぁ……。
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