第3話  RPGになる? 最初にゴブリン的なの配置すればいいとか思ってない?②



 世界は残酷。いつだってそれは不変の真理であり、偉そうな学者は淀みなく決まりきった事だと言い切る。今回だってそれは同じで残酷ゴブリンは僕たちに歩みを進めるばかりだ。


「ひっひぃいいいいいい、く、くるな! くるなくるな!!!」


 快晴に包まれた校舎屋上の中、尻餅をつき後ずさる小柄な不良崩れ。惨めも惨め。目尻から涙すらにじみ出ている。そして、やはり僕は立ち尽くすばかりだ。

 対するゴブリンに容赦はなく、自慢の棍棒をぶら下げてゆっくりと獲物へと向かう。


 


 ゆっくり歩いて獲物の恐怖心を煽っている。余裕の表れなのかクソみたいに愉しんでいやがる。


「くそったれぇえええええええ!!!!」


 不良はついに耐えきれず飛び出した。

 やけくそに叫び懐からバタフライナイフを出して突撃するが、歩幅も足取りも滅茶苦茶だ。ろくに刺さるはずがない。


 グシャ


「ぎゃあああああ!! う、腕が!! 俺の腕が!!」


 やはりというか案の定健闘もあっけなく、棍棒でナイフを突き出した腕を叩き折られた。


「お、おい!  クソムンク!  た、助けろよ!!  な!?  な!?  もう虐めねえからよお!!  そ、そうだ!!  久我の方にもう虐めねえように話を通してやるから!!! た、頼む!! たーー」


 ゴブリンは煩わしいと言わんばかりに棍棒を頭に叩き込んだ。これも即死。元々端正とは言い難かった顔が、ひしゃげてさらにブサイクに見える。

 あっという間に三人も殺された。


 なんだよ……なんだよこれ。

 もう駄目だ。何の抵抗も出来ず無様に僕も殺されてしまう。

 あぁ、クソ。本当にクソみたいな人生だった。


 カラン

 小気味良い金属音がスッと耳に収まる。



 気がつけば足元にはバタフライナイフが転がって来ていた。そして今、ゴブリンは僕に背を向けている。殺した不良たちの持ち物を物珍しそうに眺めているのだ。



 まだこっちには気づいていない?

 はたまた僕みたいなひ弱そうなやつは殺すまでもないと思っているのか。



 胸が苦しい。締め付けられるようだ。


 ナイフを気づかれないように拾った。やれるか?

 こわい。でも、やらなきゃ。生きたいからやらなきゃ。このまま殺されてたまるか。

 人殺し。いや人じゃないか。じゃあゴブリン殺し?


 あぁ、やばいこっちに振り向く。そしたら終わりだ。今ならやれる。きっとやれる。


 やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。やれ。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 うるさい。


 いや、違う。


 煩いのは僕だ。これ、僕の声だ。

 気がつけば僕は訳も分からず走り出していた。ナイフを必死に必死に前に突き出して。



 「ギィギ!?」



 衝撃。

 バタフライナイフは意外にもすんなりとゴブリンの背中に吸い込まれた。



 彼の瞳は驚愕の色に染まっている。言葉はたぶん通じないけど、理解る。


『そんな馬鹿な』


 その瞳はそう物語っていた。

 彼も自分の命がこんなところで潰えるなんて思っていなかったのだろう。 



 ゴブリンはうつ伏せに倒れても、まだ足掻く。まだ、生きている。生きようとしている。なんとか逃げようとしている。

 しかし、そんな行動の甲斐もなく、遂には動かなくなってしまった。



 「なにこれ……」

 無意識に出た呟きに返答などない。せいぜい煩い風音ぐらいだ。



 なんだよこれ。


 なんだよ……なんなんだよ。


 なんだよ! なんでだよ!! 本当になんなんだよ!!!

 肉の感触をナイフ越しに初めて味わった。気持ち悪いぐらいグニョグニョと質感が手から足の先まで伝わる。勝手に手が震えるのが理解る。





 『レベルアップしました』

 『初めてのモンスターを倒したことでステータスを獲得。スキル【解説ナビゲーション】獲得』

 『最適化。本人が使用する機器で最も使用頻度が高いものでステータス確認及びその他機能が使用可能』

 『モンスターが出現してから一時間以内に討伐をしたため称号【決断者】を獲得』



 はい?



 え、なに。なにこれ。

 唐突に鳴り響く音声にわけがわからなくなる。頭に鳴り響いてうるさいな。


 また、電波放送?


 いや、最初の声とは違うな。なんというか事務的な音声というか。とにくかく違うと思う。

 そんなことは置いておいて。考えなきゃいけないことは山ほどある。


 最適化ってなんだ? 

 そもそもステータスってなんだよ。

 本当にRPGなのか?



 話の落差に困惑しながらもなんとか頭を回す。

 使用頻度の高い機器と言われるとスマホぐらいしか思いつかない。スマホに電源を入れると見慣れないアプリがあった。これかな?



 開くと『ようこそ』と簡易的に書かれた文字がポップアップした。なんだいかにもみたいなこのポップアップは。もうちょっと装飾つけるとかして盛り上げて欲しいなぁ。個人的には『HELLOWORLD』みたくお洒落な感じにして欲しい。これもセンスない? 残念。


 スマホ画面には簡素的な男のアバターが映っている。制服着てるし、自分で言うのもあれだけど根暗っぽい雰囲気を出してるから、僕のアバターってことかな。アプリにすら根暗扱い受ける僕って一体……。


 アバターの横にはいくつか文字が記載されていた。





 ステータス

 所持品

 ガチャ

 ショップ

 掲示板






 え? ガチャ? ガチャ引けるの?

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