第7話 幼女さんと一緒!②
「お前は生きる価値のねぇゴミなんだよぉ!」
どこだここ?
見覚えはある。
あぁ、思い出した。屋ようし上だ。学校の屋上。これは過去のクソッタレな回想か。
「死ね! 死んじまぇよ! てめぇみてぇな無能なカスはよぉ!!!」
思い出す度に胸糞悪くて胃がムカムカする。
今思い返せば、何故自分があそこまで残虐な目にあわなければならなかったのか。
ただ、世界が変わる前の僕はただ怠惰に全てを諦め、無気力に生きる脱け殻だった。
くそ、体がどこもズキズキして痛い。
不良崩れどもに絶え間なく、蹴られ殴られる。
徒党を組んで囲みなぶり、僕のことを見世物にして嗤うのだ。
カエルの合唱のごとく、煩く醜い。
なんでこいつらは簡単にそんなことを言うのか?
こちらの気持ちなんて一ミリも考えず、ただ面白いからとこんな虐めを簡単にする。
罪悪感なんて皆無だ。
「どこまで言っても負け組負け組!」
「うわっ 吐いた!」
「キモいんだよ!!」
何が楽しいのかよってたかって、知能指数三ぐらいの顔で心底楽しそうに笑い続けている。
あぁ、その通りだ。
でも、僕に何が出来る?
だって、しょうがないじゃないか。僕は一人だ。一人で複数に勝てるわけない。
「はぁーん? 俺は確かに糞野郎かもなぁ?でもよ、こんなクソ野郎でも彼女もいて成績もよくて人生輝いてんたぜ? それに比べてお前はなんだよ!彼女どころか友達もいねぇ! 学力も底辺! 蛆虫じゃねぇかよぉ!!」
あぁ、糞。
僕はこいつら以下なんだ。こいつらにとっても、周りからも、世間からも。
そう思うと途端に心がどす黒い感情が満たしていく。
惨めだ。果てしなく惨めだ。
おかしくない?
悪いことしてるこいつらが良くみられて、僕は腫れ物の出来損ないのような視線を向けられる。被害者のはずなのに、『君にも問題があるんじゃないか?』『いじめられるほうが悪い』とか理不尽なことを言われる。
糞だ。世の中糞だ。
「オメーみてぇな奴はよぉ!」
暴力も罵倒も止むことはない。こいつらが飽きるまで絶え間なく続く。
飽きたら終わるが、日付が変わればまた再開される。そんなことの繰り返し。
あぁ、こんな世界壊れちまえ……
ーーーー
え? なにこのクソ回想。
めっちゃ胸糞悪いんですけどー。
しかも、なんかやたら安っぽいっていうかね。
まぁ、僕の身に起きたことだからそんなこと口には出せないんだけどさ。
何で今更こんなこと思い出してるんだろうか?
「ん? お前北原じゃねーか。なんだお前生意気にも女なんかつれやがってよぉ」
タコ顔のクソヤンキーはどうやら僕に見覚えがあるらしい。
言われてみれば僕もこいつらにぼんやりと見覚えがある。というか、回想に出てたのこいつらだ。僕を虐めてた糞野郎ども。なるほどねそういうことか。
「北原ぁ!! まーた、俺らに可愛がられてぇのかぁ!?」
退治する不良崩れ共はどこまでも耳障りなダミ声で叫ぶばかりだ。そんな汚い声出して恥ずかしくないのかな。
こいつら、なんも変わってねぇなぁ。
今までのことを思い出すと、急に怒りがふつふつと沸き出すのを感じる。
そうだ、僕はこういう奴らにやり返すために力を求めたのだ。
もちろん、それが全てとは言わない。だけど、やったことには相応、いやそれ以上の報いを受けるべきだ。いや、違うか受けて欲しい。受けてもらはないと気が済まない。
なら、今思いっきりぶっ叩いてやる。
せっかくこういう世界になったのだから、自信のエゴを優先すべきだ。
短剣を構える。
ここ数日の戦いを思い返せば、こんなやつら大したことないはずだ。
「北原ぁ!!! そいつらムカつくから思いっきりやっちゃいなさいよ!!」
「北原君。同じパーティーとしてあんなのに舐められるのは遺憾だわ」
四条と斎藤の声援は応援なのか野次なのか。どうともとれるその言葉に思わず苦笑してしまう。
「女の子に応援されていいご身分だなぁ、おい! 格好いいとこ見せないとなぁ? お前ごときにそんな度胸あるとも思えねぇがなぁ!?」
でも、少し冷静になれた。
また、理不尽な言い様には怒りは込み上げてしまう。だけど、心は、感情は刃に込めればいい。
思い返す。
アレストとの戦闘を思い返せ。
あの時は体をどう動かしていた?
半ば無意識にやっていたことだが、体はキチンと覚えている。
感覚が体に残っている。
力は入れない。感覚をなぞるだけでいい。あの感覚だ。初めて六魔天に傷を刻んだあの刹那の感覚。
体をグルリと回転させて、短剣で弧を描く。これだ、このイメージだ。
一閃。
「がぁっ」
たったそれだけの動作で、帽子顎髭のヤンキーは塀にめり込んだ。
住宅街の塀はブロック塀が多く、耐久性には乏しい。
つまり、めり込むどころか突き破ってしまった。
「あ、兄貴! 兄貴ぃ!! い、息してねぇ!?」
やば、仰向けに倒れてピクリとも動かない。崩れ落ちてヤンキーに倒れ込んでいるブロックが痛ましい。死んではいないと思うけど……。
ヤンキーの取り巻き達は何が起きたのか理解出来ず、ただただ間抜けに口を開くだけだ。なんだこの、なんとも言えない雰囲気……
「北原君、少しは手加減なさいよ……」
斎藤が呆れたようにため息を吐く。
え、これ僕悪いの?
四条もなんかため息吐いてるし。
だって、こんな力差あると思わないじゃん。むしろ、力差あるのに喧嘩を売ってきた向こうが悪くない?
え?
このいたたまれない雰囲気をどうにかしろって?
いや、まぁその、なんというかごめんて。
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