第5話 世界がRPGになっても夢も糞もない件について。エグい方向に現実感出すのやめて欲しい
「……あったかい」
銀行の奥の隅っこにひっそりと設けてあった、おそらく行員の人たちが使っていたと思われる小さな休憩室のような場所。
世界がRPGになってからは、この銀行にいた人々はここで隠れていたのだろうか。
至る所に保存食や飲み物のゴミが散開しており、端の方にはまだ使用していない水や食料などが大量に積まれていた。
そこで四条は暖かい缶に入っているコーヒーで手を暖めている。
斎藤も気丈に振る舞ってはいるが、右手で左手を掴んでいる当たり心中穏やかではないだろう。
「斎藤も飲みなよ」
「あら貴方にしては殊勝な心がけね」
「いいから飲みなよ」
らちが明かないので、片手にもつ暖かいコーヒーを無理矢理押し付けた。
こういう時は暖かい物でも飲んで心を落ち着かせるに限る。缶コーヒーはあれね、銀行内に自販機設置してあったから普通に買えた。
ちなみに僕はM○Xコーヒー。 人生は基本糞なんだからコーヒーは甘ければ甘いほどいいのだ。
四条は両手で缶を握りしめて、心を静めようとしている。
まだ目蓋にこびりついているであろう、理不尽で糞ったれな光景を必死にかき消しながら。
金庫の光景を見た僕らの反応は三者三様だ。
僕は唖然として立ち尽くし、四条は体を震わせ、斎藤はどこまでも冷徹な視線を送らせていた。
とうてい許せるような光景ではなかった。
とくに彼女達は女性として、怒りやこれから先自分に降りかかる恐怖などぐちゃぐちゃな感情が入り乱れたはずだ。
ひとまず落ち着いた僕らは既に死んでいる彼女達を出来るだけ綺麗にして、布で覆った。そんなことで死者が報われるとは思わないが、幾ばくか心は軽くなる。意外と単純なものだ。
「施設内を回ってくるわ」
「あ、僕もいくよ」
斎藤はまだ確かめたいことがあるようだ。僕もいくつか気になることがあるし着いていくことにしよう。
「四条さんは休んでていいわよ?」
「も、もう、大丈夫だから! い、いくわよ!」
斎藤は気を使ったみたいだが、四条はここにいるより動いていたほうがましと判断したみたい。まぁ、確かに死体さんと一緒とか心が休まらんわな。
ーーー
銀行内は基本的に綺麗だった。特に争った痕やモンスターに襲撃されたような痕もない。
そして、やはりというか金銭はほとんどなかった。
当然金庫の中は空っぽだし、銀行内に設置されたATMの中もきれいさっぱりだった。無理矢理こじ開けたせいで鳴るブザー音がよけい虚しく感じるぐらいだ。
「あ、自販機の中にはお金残ってるよ?」
ちなみに短剣で無理矢理こじ開けた。ブザー音が糞うるさい。
とりあえず、自然な動作でお金を懐に入れた。額にして数万か。ちっ、しっけてるぜ。
「ということはここを襲った犯人は資金が潤沢ということでしょうね」
「まぁ、そうなるわな」
「え、なんで?」
四条は首をかしげる。
「自動販売機のお金を回収してないからよ。こんなはした金気に求めなかっのでしょうね」
「なるほど~」
「まぁ、そんなところ分かったところで今はどうしようないんだけれどね」
斎藤は話を切り上げて銀行から出ようと歩みを進めた。
「ちょ、ちょっと待ってよアーちゃん!? こん酷いことする奴等放っておくの!?」
「四条さん……気持ちは分かるけど私達は犯人が誰かすら分からないのよ? 手がかりだって綺麗に消えている。今出来ることは何もないわ」
「ぐむむ……」
四条も斎藤の言うことは理解できたので、黙ることしか出来なかった。
「それに……」
「それに……なに?」
「いえ、何でもないわ。先を急ぐとしましょう」
四条はそれ以上追求しなかったが、僕は何となく斎藤が言いたいことが分かった。
敵の戦力は恐らく僕らより圧倒的上だ。
銀行からまるごと奪ったであろう金。恐らく同じようなことを複数箇所でやっていることだろう。
そこまでやればSSRの最上級武器を持っている可能性だってあるのだ。
そんな不安を孕みつつ僕らは銀行を後にした。
ーーー
銀行から出ると何やら騒がしい音が耳に飛び込んだ。なんぞ?
「騒がしいわね」
斎藤の視線の先には何やら人影らしきものが見える。
まだ、遠くて黒いポチがいくつもあるようにしか見えない。
「女の子が男の人達に追われている?」
斎藤さん目いいっすねぇ。よくこの距離で分かるね。
しかし、女の子がならず者達に追われてる?
ええ、銀行の事もそうだけど、まさか現実でこういのが起きることになるとはなぁ……。
やっぱり世紀末でデストロイだよなー
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