番外編1 クソガチャと乙女心とケツバット
ガチャ。
それは言うなれば底無し沼のようなものだ。もしくは目の前に吊り下げられた人参を永遠に追う馬か。
決して目当てのものはほぼ手に入れることが出来ず、残るのは虚無のみである。結局は大多数の人間が負けるように出来ているのだから、まぁ当たり前の話なんだけどね。
それでも僕らは挑み続けるのだ。その胸に絶対的な確信を抱いて進むのだ。
その確信を詳らかにすれば、あるのは滑稽無糖な自信でしかない。
虚無。本当に虚無でしかない。この世の悪を押し積めてコンクリートで固めてもこうはならない。
しかし、僕らはそんなことを理解していても挑むのだ。
自分こそは当たる。
あいつらとは違う。
今日はなんか当たる気しかしない。
とかもう、この有り様である。
長々と講釈を垂れたが結論を言おう。
ガチャはクソ。
「くそぉったれえええええええええええええ!!!! 期待させる演出だけとかざけんなああああああああ!!!!!!!」
僕の虚しい慟哭が辺りに木霊する。返答はなくただ虚しくバット《ハズレ》達がカランッと音を立てて転がるだけである。
もうすでに何度引いたか分からない。
最初はまだ良かった。
たくさんお金あるから一回ぐらいいいでしょとか余裕をこき、何せ一千万円だからなー、一回ぐらい当たるっしょ。とか言っていた。
一回外れても、
『むしろ初回ガチャでSRが出たからお布施お布施』とほざき。
二回外れても
『むしろ、当たりへの布石』
とのたまい。
三回目には
『ふぅー、そろそろ準備運動は終わったかなー』
とかヘラヘラと笑っていた。
ここまで来るともはや自分の意思で止められる訳もなく、
まだ行ける、まだ余裕、次はむしろ当たるしかない。
と呟き、使い道のない色とりどりのバットが積み重ねられていった。
「……」
ゴクリ。
口にたまった沢山の唾液を無理矢理喉へ流し込む。
ついに所持金は百万円。つまりガチャ一回分である。
後に引くことなどあり得ない。それは今のまで
吐息が何度も何度も肺から放出される。
心臓が閉まる。苦しい。
「こなくそぉ!! 男は度胸じゃーい!!」
震える指を押さえて、スマホに写るガチャボタンを叩き込んだ!
「お、おお……?」
スマホの画面は光に包まれる。お決まりの演出だ。三本の光の輪が出現し馬鹿みたいにくるくるとまわるのだ。そして、壮大な演出の果てに光輪の中心から粗大ゴミ《バット》が出現するのだ。
分かってる分かってるー。ほんとクソ。
「お、おお!?」
と不貞腐れていた画面に広がる白い光輪が金色に変化した。
これは……確定演出だっ!!!
「キタキタキタキタキターーーー!!!!」
普段無口な僕でもこれは叫ばずにはいられない。
あぁ、ついに僕の努力が結ばれたのだ。僕は間違っていなかったのだ。
はっはー! どんなレアアイテムが出るかなーーー!!!!
ポンッ
そして、事はそんな間抜けな音とともに終息した。
「へ?」
金色の光の果てはというと、画面の中ではヒラヒラと一枚の紙が舞っていた。
そして、その紙にはこう記されていた。
『ハズレ』
……
…………
………………
「ざっけんなぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
終わればとことん虚無なだけだった。逢魔からくすねた一千万円は一チーム分のバットになるだけという結果だ。
くそだくそ。本当に人生ってクソゲーだ。
はぁー、隕石降ってきて滅びねーかなー世界。
「へぇ……随分と楽しそうなことしてるのね、北原君」
「散開ッ!!!」
ガシッ
「逃がさないわよ」
肩にかかる極大重力魔術並みの圧力。
ギギギッ
なんとか振り返ろうとするが、恐怖で首間接がブリキのように固まってしまった。怖い怖い。ていうか怖い。
「あら、私のような可憐な美少女を前にして恥ずかしいから逃げるなんて照れちゃうじゃない」
賑やかな笑顔で頬に手を当てる斎藤。
君、そんな笑顔しないじゃん!?
なにそれ怖いよ!? 普段全然笑ってねーじゃん!?
逆に怖ーよ!! ていうかなんだよ! その図々しい物言いは!
「え、あの……」
「何かしら?」
そして再び放たれる花が咲き乱れるような賑やかな笑顔。
「すいませんっしたぁぁ!!!」
そんな笑顔を見た僕は一瞬の迷いもなく土下座をかましたのだった。
後に語る斎藤曰くその土下座はそれはもう流麗なものだったそうな。
ーーー
「全く貴方には計画性というものが欠如しているのよ。聞いてる? 聞いているのかしら?」
銀行強盗をすると話がまとまった後もまだ斎藤の説教は続く。
かれこれ数時間は軽く越えている。もう僕の体は白石とかすレベルである。
誰だよこのお説教をご褒美とかのたまう馬鹿は。あり得ないでしょ……。
「まぁまぁ、アーちゃん。ほら一応北原も反省しているみたいだしそろそろそれぐらいにしてあげなよ。見てよアイツもう真っ白になっているじゃない」
苦笑いしながら斎藤を宥める四条。
今なら彼女は天使に見える。クソビッチとかゴリラとか言ってごめん。
「そう……かしら? まだ物足りないけど」
ひぇっ
まだあるのかよ。もう僕耐えられないよ。
「あ、あの! 斎藤様! こ、これをお納めください!!!!」
土下座して懐からあるものを取り出して斎藤へ掲げる。
「これを私に……?」
斎藤は一瞬キョトンとする。少し不可解なものを見るように。
僕が差し出したのは唯一あのクソガチャの中で当たりと言えた指輪だった。ただの指輪ではなく魔術を増幅してくれる杖のような効果を持つ。まぁ、リアリティはRなんだけどね。
「は、はいぃ! あの貰ってやって下さい」
「そ、そう。ま、まぁ、そうね。たっぷりと説教もしたし今日はこれぐらいにしていてあげましょう」
指輪を受け取った斎藤は足取り軽くそそくさと何処かへ行ってしまうのだった。
ーーー
「ふぅ……まじで怖かったぁ」
嵐は去った。
もう、生きた心地が全然しないよ。寿命が十年は縮んだんじゃなかろうか。
もう既に立っているのも辛いので、地面にどっさりと腰をおろす。
「北原、北原」
「おわっ」
気がつくと僕を覗き込むように屈んだ四条がいた。
よく忘れるがこの子も斎藤に負けず相当な美少女なのだ。そんなに近づくと耐性がなくて恥ずかしい。
というか、彼女はもう斎藤に着いて行ったのだと思っていたけど。
まだ何か用があるのだろうか。
「アタシには何かないの?」
彼女は手を差し出して、チョコンと首を傾げる。その瞳は無駄にキラキラしたいて何かを期待する犬に近い。
ほほーん。いいだろう。今回のガチャで一番の大物をくれてやろう。
「はい」
「なによこれ……?」
「ダマスカス製のバット。今回の一番の当たりさ」
そのバットを手に取りプルプルと震えだす四条。ふっ、相当嬉しいと見た。
何せ震えるぐらいだ。流石僕と言わざる得ないぜ。女子が喜ぶものを与えれるとかこれで陰キャを卒業出来るまである。
「この! バカ北原ぁ!!!」
「痛ぁっ!?」
でも何故か思いっきりケツバットされた。
全く! なんて日だよ!!
もうガチャなんてこりごりだよ! くそ!!
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