二章 廻る世界とやるせない詐欺師さん

第1話 世界が変わったらまずする事ってこれだよね。



 ゆっくりと、ゆっくりと。

 

 焦るな、僕。

 息を飲みながら右足を慎重に前に出し進む。緊張を少しでもまぎらわしたいのか、短剣を握った手のひらに自然と力が籠った。我に帰り落ち着けと自分に言い聞かせる。力んだところで良いことはあまりないのだ。



 何でもそうだ。



 力んで勇んで、クラス替え最初の自己紹介で奇をてらったとしても、友達は愚かやべー奴扱いされるのが関の山なのだ。



 あれ?

 なんか違うな……これは僕の友人の失敗談ですね……。

 ええ、友人のです。誰に言い訳してるのか知らないし、友達なんて録にいないけどさ。



 現在進んでいるのは住宅街なので、壁やら何やらで囲まれているので、隠れて進むにはさして苦労はしない。


 住宅街といっても人の気配はかけらもない。明らかに崩れている家や電柱がある辺り、録なことはなかったのだろう。


 ちらほら、血痕も見える。



「やはりデストロイ……」



 今現在移動しているのは僕一人のみ。

 学校に居たときからそうだが、大体は僕が先行して安全を確かめる。

 これが中々に骨である。ていうか、少しキツい。いや強がった。本当に辛い。



 さりとて、この役目を他の誰かに任せるわけにもいかない。 

 四条はこういう隠密行動には向かない。本人に怖いから言えないけど、彼女は割りと、いやかなりがさつなのだ。

 斎藤はそもそも後衛職なのでこういうことには不向きだ。



 というわけで、なし崩し的に僕がこういう偵察やら斥候という役割を担うしかないわけだ。

 まぁ、スキル構成的にもお前がやらないなら誰がやるんだよって感じなんだけどね。



 スキル 【隠蔽】【探索】



 を発動しながら慎重に歩みを進める。 

 探索により拡張された自意識は少し離れた場所でもなんとくモンスターがいるなぁと分かる。



 漆黒狼ブラクルフが2匹か。

 ギリギリいけるか?



 何度か戦闘しているから大体の強さはわかる。しかし、一応スキル『解析』を発動させてステータスを確認確認。こういう心がけが馬鹿にならないのだ。



 ステータス



 漆黒狼ブラクルフ


 Lv.25


 HP 300

 MP 5

 SP 50


 筋力 25

 耐久 25

 知力 6

 俊敏 30

 集中 20

 運     1


 skill 【噛砕バイトLv5】



 

 まぁ、こんなものか。

 本当はこれぐらいのでも戦闘は一人じゃしたくないんだけどね。


 でも、ここ周辺だとこれでもレベルが随分と低いほうなのだ。

 といっても、この相手にも最初はそうとう苦労したんだけどね。思い出すのも嫌なほどだ。


 そもそも、獣の相手は面倒だ。人間ならまだましだが、獣となるとてんで予想が出来ない。無駄に機敏だし、すぐ噛みついてくる。



 しかも、臭いやら気配ですぐ此方を察知する。



「グルルル……」



 ほら、気づかれた。

『隠蔽』は気配こそ消すが臭いまではさすがに消せない。



 気づかれたらやることは一つだ。

 可及的速やかに、出来るだけ早急に、瞬殺するしかない。


 下手に遠吠えされて仲間を呼ばれたら厄介どころか、死ねる。



 試しに六魔天との戦いの時に発現したスキルを発動させようと念じる。



 ……



 やっぱり駄目か。


 あれから、何度も試したがうんともすんとも言わない。


 一応ステータスにはあるみたいだが、発動しないのではないのと変わらない。


 つまりはゴミスキルだ。このばーかばーか。




 さりとて、スキルに罵倒したところで得られるのは虚しさのみである。本当にね。



 わ


 下らない思考を垂れ流してたら、いつの間にかウルフが大きく口を縦に広げて迫っている。がばーっと。


 うわぁ、近くで見ると牙が沢山あってグロいなぁ。

 このまま噛まれたら痛いだろうなぁ。しかも、変な病気とか貰いそう。

 まぁ、素直に食べられるわけにもいかない。



 寸前のところで拍手をすると、あら不思議。狼さんは僕の真横の空気を目一杯頬張るのみだ。ここの空気そんな美味しくなさそうだよ?



 いやー、慣れると『猫騙』はほんと便利だわー。


 最初は糞不遇職かよとがっかりしていたが、慣れると悪くはない。

 でも、こういう技ってあんまりボスとかに効かないパターンが多いんだよなぁ……やっぱり不遇かなぁ



 そのまま無防備になった首に短剣を突き刺す。

 意外と筋肉がガッチリしてるのか上手く入り込まず、浅く側面を切り裂いた。

 だったらと、何度もザクザクと言わんばかり短剣を振るう。



 何度目かのが深く入ったみたいで、気がつけば血がドバドバと景気よく溢れ出す。

 やがて、事切れたのか地面に力なく倒れこんだ。  




「まずは一体っと……」


「ガアアア!!!」


 あ、やべ。もう一体いたわ。

 てか、僕さっきから油断しすぎだな。

 景気がいいのかな?ってぐらいに大口あけやがってー。




 まぁ、でもーーー



 獣君には申し訳ないけど、この程度じゃ全然危険のうちには入らないんだよね。

 空いた左手を漆黒狼に向ける。たったそれだけで事足りるのだ。左腕には肘まで覆うやや厳つい籠手が装備されている。



 スキル【鬼砲】



 真っ直ぐ伸びた掌から火の塊が照射される。

 モロに直撃した狼はボロ雑巾のように吹き飛ばされた。うわぁ、黒焦げになっててエグいな……やったの僕だけどさ。



 「これやっぱり強力すぎるなぁ……」



 アレストから貰った戦鬼の籠手は相当強力なものだった。籠手自体の性能もさることながら、武器固有技能ウェポン・アビリティが優秀だ。

 SPはそれなりに喰うものの、即席で攻撃出来るのは本当に助かる。

 ようはアイア○マンみてーなもんだな。


 


 「何はともあれ。これでここら辺のモンスターは消えたな」



 戦闘で衣服についた汚れを手のひらで軽く叩き落とし、目的地である建物を見上げる。



 住宅地を抜けた先には、辺りの他とは一線を画する建物が一つ。

 陽光を反射するガラス張りの建物は荘厳ささえも感じられる。自分の今の目的や学生の身のためあまり来ることがなかっということが、そう思わせているのかもしれない。




『中央銀行』



 やはり、この看板を見ればやることは一つしかない。

 そう決まっているのだ。




 レッツ☆銀行強盗だ!!!!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る