EX2 蠢く無垢なる歪


「ふぅーんふぅーん♪」



 学校だろうか。


 全国の統一規格なのかはしらないが、大抵の学校は長方形の校舎のてっぺんには四角い突起物が不自然にある。


 と言っても、もはや慣れすぎて不自然とは感じはしないが。


 そんなところに人影が一つ。



「お、頑張ったねぇ! うんうん、やっぱり生き残ったかぁ」



 少女だ。


 大きなクリクリな瞳に、綺麗なボブカットに整えられた栗色の髪。10人中9人は天真爛漫と心を奪われ、残り一人は小悪魔と心酔するだろう。



 そんな彼女はどこ吹く風といった感じで、楽しそうに両足をパタパタと上下に揺らす。




 楽しんでいるような彼女に水を差すように男が一人現れた。


 俗にいうDQNというやつだ。もうその名称を貰うために生まれてきたと言っても過言ではないぐらい似合っている。


 その姿に恥じず、やや筋肉質な体躯に、まだ春過ぎだというのに黒く日焼けした肌。


 中途半端に生え際だけ黒い金髪は不自然に逆立っている。


 短パンに安っぽいアロハで、どこからどうみてもDQN。



「おい、もういこーぜ。そんなやつにご執着なんて趣味がわりぃな」  



 男は不満げだ。


 男にとって彼女が何故あんな地味でなよなよしてそうなのが興味を持たれているのか疑問で、不満でしかない。



 そしてそれが災難の始まりだった。



 「そんなやつ?」



 空気が変わった。


 先程まで、春の穏やかな陽気と言っても過言ではない雰囲気が、まるで北極の永久凍土に思えてしまうほどに。



 瞳に光は灯っておらず、迷い混んだもの決して抜け出せないであろう虚無が広がっている。どこまでも、どこまでも、どこまても。




 それでいて口端は裂けるぐらい広がっている。



 可愛く美しい少女なのに、どこまでも歪だ。


 見ていると脳が麻痺してしまう人が出てしまいそう。




「おごぉ!?うごごこごぉぉん!?!?」




 いつの間にか少女の手に握られていた杖が男に叩き込まれた。




 「だったら、そんなのもいらないよねぇ?」




 明らかに男としての大事な尊厳たるものが叩き潰されている。具体的には下半身にあり、男が大抵弱点とするところ。


 男であれば誰であろうと見ているだけで、生きた心地がしないだろう。


 そんな鬼畜な所業ですら彼女はケタケタと笑いながら、平然と行う。



「あぁあああ!!!! あぁああ!!!! ぐぉおあ!!! ひぎゅぅ!? あぎぇぶばべ……ヒュー……ヒュー……」




「うりうり♪」



 音符をつける状況ではない。


 男は逆に阿鼻叫喚。


 しかも、少女は愉しげに杖をグリグリとかき混ぜる。既に潰れているだろうに、彼女は頬を上気させて執拗にかき混ぜる。



「お前ええええぇぇえ!!!!! お、おれの! おおれの! おれのがぁ!?」



「うるさいなぁ。もう治ってるでしょ?」



 飽きたのか杖を引き抜くと、興味なさげにため息を吐いている。


 自分でやったのに理不尽にもほどがある。



 さりとて男にそんなこと思う余裕はない。恐る恐る潰された所に手を当てる。



「あ、ある! あ、あるぞ!?」



 傍から見たら外で局部をいじくり回す明らかな変質者でしかないが、本人は其どころではない。


 下手したら今後子孫を残せなくなりそうだったのだから大問題だ。


 まぁ、本来であればもっと気にすべきことは沢山あるのだが所詮は不良崩れ。排尿とかさ。


 脳と局部が直結しているのだからそんなものだ。



 少女は彼に見向きもしない。

 彼女はずっと離れた場所にいる人を見つめているばかりだ。



「次に会うのが楽しみだねムンク君♪」



 悪意かはたまたまた別の何かなのか。どちらにせよ、どこまでも歪なものでしかない。


 この視線を向けられる人間は御愁傷様としかいいようがない。


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