第62話 一つの結末
僕が芋虫の如く地面にへばりつく中、煌々と辺りを覆い尽くさんばかりの雷光の柱。
数秒何が起きたのか理解出来なかった。
柱の中心にいるのはアレスト。
賭けには成功したのか……?
轟音とともに光の柱が消えるとそこにはやはりアレストが立っていた。
くっそ、あれでまだ立ってるのかよ……。
右腕は力なく、だらりとぶら下がっている。
血液がドクドクと流れ出ているが気にする様子もない。
普通の人間ならあれで致命傷にもなりかねないのに、彼はどこ吹く風という感じだ。
「がっははははは!!!!! ずっとこの一撃を狙ってたのか!!!」
ていうか、むしろ嬉しそうだ。
意味わからん。
こっちの気も知らずに獰猛に笑いやがって。
賭けは失敗だ。
くそ、ここまでやっても倒れねーのかよ。
斎藤の天すら穿つような一撃でさえアレストには致命傷を与えることは出来ない。
せいぜい右腕を動かなくさせる程度でしかなかった。
くっそ!
こんなところで這いつくばっている場合ではない。四条は既に限界。
彼女も状況を理解してなんとか立とうと地面を這いつくばるが、そもそも限界だから無理がある。
そうなると僕がどうにかするしかない。
くっそ!! 動けよ体!!
立て! 立て! 糞! 立てよ!!
「よし、気が変わった。今日のところは帰ってやる」
は? なんで?
と思ったらいきなり液体が頭からふりかけられた。
え、見逃すとか言ったのにまさかの毒殺的な?
毒液ふりかけられたのかな。
あれ、でも体が急に軽くなった。
あれだけあった痛みも何も感じない。
体も動く。
立ち上がり体を見ると、服についた血汚れはあるものの外傷は全くと言っていいほど何もない。
まさかハイポーション的なの?
いやポーションしか使ったことないから分からないけどさ。
いずれにしても上級回復薬には違いない。
そもそもそれを何故僕に?
「これで立てるだろうよ。おい、これをくれてやる。俺を楽しませた褒美だ」
左腕に嵌まった籠手を粗雑に外すと、僕に向けて放り投げた。
咄嗟のことに反応が少し遅れたが、なんとか落とさず受け取れた。ナイスキャッチ。
【戦鬼の籠手】
とりあえず解析スキルを発動させ確認する。細かいことも色々と書いてあるが今はそんなこと気にしいている場合でもないのだ。
色々展開が進みすぎて頭が追い付かない。
「まーそうだなぁ。今のままじゃ雑魚にも程がある。最低でもーー」
アレストは言葉と共に腕を軽く振った。本当に軽くだ。視界の端に忙しなく飛び回る蝿を追い払うように。
「次までにはこれぐらいはしてもらわねぇとなぁ」
次の瞬間、
校舎の上半分が文字通り消しとんでいた。
そりゃ、綺麗に本当に抉れていた。断面とかも綺麗に見えるレベル。まるでレーザービームで削りとったかのようだった。
「嘘……だろ……?」
四条も口を押さえていた。表情が失望を物語っている。
僕だって同じ気持ちだ。
だって、彼処には斎藤がーーー
「安心しろ。魔法使いのねーちゃんは殺してねぇよ」
項垂れそうになっていた頭をハッと上げる。
胸を押さえながらゆっくり目を凝らすと確かに斎藤と思われる人影が見える。
思わず肺に溜まった空気が逃げ出した。
はぁ、人騒がせな。
「まぁ、これもやるよ。あっちにいる斧使いのねーちゃんにもかけてやれや」
黄金色に輝く液体が入った小瓶を放り投げてきた。
え?
それ滅茶苦茶高そうなんてすけど。いいんすか。
いや、貰えるものは貰っとこう。
「さぁて、おれぁ帰るわ。てめーらも、この俺が見逃してやったんだ。簡単にくたばんじゃねーぞ!! がはは!!!」
アレストはどこまで高笑いを浮かべて、去っていった。
「ふぅ。えーと生き残った……でいいのかな?」
ともかく一段落なのか。
もう色々ありすぎて整理が追いつかないや。
なんか拘束されて、ゾンビ的なのに襲われて、挙げ句の果てに六魔天とか言う露骨すぎるRPGチックなボスと戦う羽目になる。しかも負けイベントだし。
あーあーあーほんと、もう。
何も考えたくないわ。
仰向けで倒れこむかなー。あー空綺麗だわー。
四条にもこの薬かけないとなー。
斎藤も大丈夫かな?
迎えにいかなきゃなぁ。
やることまだ色々あるなぁ。
でもちょっと今は無理。体が鉛のように重くてろくに動きやしない。
取り敢えず……もう少しだけ……もう少しだけ休むことにしよう。
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