第60話 スーパーヒーロータイムがあと一歩のところで切れるのは様式美
Break!!
Over System!!
Extend!!
Ability Exceed!!
意味不明な警告音と共に訪れたこの景色が走馬灯のようにゆっくりと見える現象。
火事場の馬鹿力なのか分からないが、言うなればスーパーヒーロータイムだ。
よくアニメとかで見慣れた光景だよね。主人公がピンチになると未知の力に覚醒するやつだ。それだよそれ。それそれ。
よく僕はご都合主義と揶揄していたが、我が身になるとありがたいことこの上ないね。
ともかく、この状態であればあのアレストにだって渡り合える気がする。
「それじゃ遅いよ」
巨大な拳が顔面目掛けて一直線。ギリギリかわせるか。
しかし上手くいかず頬を抉られた。
ほんのちょっと触れただけなのに引っ張られそうになる。なんとか崩れそうなバランスを戻して、前へ駆け込む。
何が遅いだ。
油断した。油断なんて一ミリもするな。全てで劣る僕の最大の武器は油断しないことに他ならない。
あれには一ミリでも触れちゃいけない。
痛みは皆無。感覚は一応あるが、なんというか全身に麻酔がかかってると言ったほうが近い。
アレストが何か叫んで笑っているが、内容は意味不明。
というか音自体は聞こえるけど、とてもゆっくりと動画をスロー再生している時のようで、何を言ってるのか分からない。
別にいい。今さら話し合うことなんてない。
スキル虚栄心
いつもなら五体ぐらいしか出ないのに二十体ぐらいでた。
は?
これも火事場の馬鹿力ってやつか、よく分からんけど。でも、こんなに出れば身を楽に隠せる。
視界の端に移った四条は口をあんぐりと開けていた。
そりゃ、僕も驚いてるさ。僕自信なんでいきなりこんな凄いこと出来るのか分からないもの。
分身たちに身を隠して、何度も斬りつけては離れる。あんなに圧倒的に思えた存在が傷だらけになっていく。
しかし、アレストは傷なんて何のその。どれだけ傷つこうが、犬歯を剥き出し口端を吊り上げ笑みを浮かべるだけだ。
あそこまで獰猛という言葉が間に合う笑みを見たことがない。
楽しんでるな。知るか。
少し心がざわつく。こっちは命懸けなのに楽しみやがって良い御身分ですね、全く。
そんな気持ちも全部使おう。短剣に全て込めて利用してやる。
死角から短剣を振りかざす。くそ食らえ!
「な め る な あ あ あ ! ! 」
あぁ、流石の嗅覚だ。六魔天とか名乗るのも伊達ではない。
急に振り向いて、僕の体が目掛けて拳を降りかぶった。
速い。さっきより全然速い。
この状態の僕を正確にとらえている。
これは間に合わない。どれだけ全力で体を逃がしたところで、直撃を免れないだろう。
直撃すれば確実に僕の命は消えてしまう。火を見るより明らかだ。
まだだ。まだ終わってない。
スキル猫騙
発動させれば相手の攻撃はあらぬ方向にいってしまうという中々に便利な技。
前使った時は手を叩いて発動させた。
でも、今の状態だ手を叩いてなんて悠長なことをしたら間に合わない。
ならどうするか。答えは簡単。
猫騙の説明はシステム曰く手を叩けばいい。つまり、両手で叩けとは言っていないのだ。
何も握っていない左手の中指と親指グッと合わせる。
要は指パッチンだ。こじつけ臭いがあれは中指が掌を叩いて音がなるものでもある。理論上いけるはず。
ていうか、上手くいってくれ。南無三。
刹那の間、掌を叩きつけるよう甲高い音が空間を支配した。
そしてその刹那が終わっても僕はまだ生きている。
賭けには成功したようで、僕の顔ぐらい大きな拳は結局何も当たることなく、ただただ何もない空間を進んでいく。
当然、拳につられて体も動く。
つまり無防備だ。
背中はがら空きになる。加えて体は地面に近い。
この位置なら首を狙える。
首めがけて一直線に走る刃。
アレストは振り返ろうとしているが、もう遅すぎる。それじゃ遅すぎる。
もう止めるものは何一つもない。
今度こそ! その首!! もらったーーー!!!
ーーーー
あ れ ?
目の前が暗い。
急に暗くなったな。
なんでだ?
「雑魚にしては善戦したほうか」
地面を這いずるのアレストではなく、やはり僕だった。
え? 行ける流れじゃなかった???
確実に勝てる流れだったじゃない???
なんで???
ろくに回らない思考をなんとかぐるぐるさせて、一瞬前の出来事を拾っていく。
そうか……倒れたのか僕は。
いきなり、脈絡もなくパタリと。そりゃもう綺麗に。芸術的なほど綺麗な曲線を描いてパタリと。マリオネットの操り糸が切れるようにパタリと倒れたのだ。
System Error
System Error
System Error
Ability Overheat 痛覚無視 感情制御
System Error
System Error
System Error
頭の中に騒々しくアラート音が鳴り響く。
あぁ、なんとなく分かった。
あの動きは痛覚無視と精神制御のスキルによるものだったみたいだ。そういえばありましたねそんなスキル。
まぁ、なんでこの2つのスキルがあんな身体能力の向上とか景色がゆっくり見えるようになる現象を引き起こすのかは謎だけどさ。
まぁ、儲けもんとでも思っておくか。
普段はどうあがいても出来ないような動きをあれだけできたのだ、倒れないほうがおかしい。
むしろ、よく持ったほうだと不思議なぐらいだ。
あーくそ、もう少しだったのになぁ。悔しいなぁ。もう少しだったとか思えちゃうから逆に悔しさが込み上げてくる。
それよりも怖い。体とかスゲー震えるし。
とりあえず、キッと睨んどくか。がるる。
「ガハハ!!! 驚いたぞ!! テメー見てぇな貧弱なのがあそこまで動けるとはなぁ!!!」
貧弱で悪かったね。いいんですぅー、引きこもりオタなんでー。
「だが、まぁ所詮は雑魚の域を出ないわなぁ。選定には価しない。残念だが……せめてもの慈悲だ一撃で済ましてやろう」
あーあ、せっかくここまで頑張ったのに。所詮は僕か。
こんなもんなんでしょうね。
実際、自嘲でもなんでもなく、この状況でやれることなんて録にない。
耳はピクピク動くな……
え、そんな特技僕にあったのかよ。
しかし、本当にため息しかでない。幸せ大放出。
ほんとあーあ、結局彼女に全部任せることになっちまったね。
ほんとあーあ。
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