第58話 六魔天さんと一緒!!! おかえり!!!


「うそ……」


四条の声は絶望に満ちたように聞こえる。



!?



一瞬何が起きたのか全く理解できなかった。いや、理解したくなかったと言ったほうが正しい。


首を狙った短剣はいとも簡単に遮られてしまった。


しかも指2本だけで。



は? 指2本で?


え? 漫画じゃないんだからさ。


嘘でしょ!? 勘弁してよ……。



「驚いてやがんなぁ……なんつーかお前の殺気は丸わかりなんだよ。これじゃどこ狙うか教えてくれてるようなもんだぜ?」



「くっそ……ほんとまじ化け物だな……」



確かに急所は狙った。でもそんなのを気配で察せるとかどういことだよ。理不尽すぎて全て投げ出したいくらいだ。



「まぁ、狙い悪くねぇ。迷わず首か。見た目に反して思いきりがいい。だがやはりーー弱い」



言葉と共にアレストの拳が腹に突き刺さる。


一瞬意識がとんだ。


HPという防御膜があるはずなのに滅茶苦茶痛い。

息が止まる。出来ない。苦しい。


慣性の法則よろしく、僕の体がアレストの拳から勢いよく弾きだされてしまう。


ゴロゴロと洗濯機の中と錯覚するぐらい地面を転がる。


意識が上手く纏まらない。


痛い痛い痛い。 


というか、今僕の体は無事なのか?腹に風穴とか空いてない?


激痛を我慢してなんとか立ち上がる。


なんとか五体満足らしい。


腹に穴は空いてないし、手足も一応無事。



HP 0/410



ただし、HPは無くなった。


自分が死ぬ気配は無さそうだし、0になっても死なない仕様らしい。


ただ、0ってことはHPによる防御膜がないってことだ。


それはもう自信を守る楯がないということ。

ちょっとの傷で致命傷になるかもしれない。


ただただ絶望する。



「くっそ、ほんと化物だな」



本当にそれしか言葉が出ない。


あまりにも実力差が有りすぎる。勝てる見込みが微塵も見えない。


四條に視線を向けると彼女も彼女でもうボロボロ。


HPだって残っているか怪しいものだ。





「ほぅ……まだ諦めないか。その意気はいいんだがなぁ……」



なんとか反応して時間を稼ごうかと思ったけど言葉が上手く出ず、コフッと咳き込む。押さえた手が血まみれになった。


口の中に鉄の味が広がって気持ち悪い。



「筋はまぁ悪くねぇな。だがこの程度だと期待外れだな。今後の見込みも薄そうだ。もういいわ、死ね」



「ーーまだだ!!!」  



動かせる鎖を総動員させる。SPがあるだけ鎖も増やす。アレストから沢山吸収しているからSPは有り余っている。


僕を囲い混むように渦巻く二十を軽く越える鎖達。まるで遺伝子構造の螺旋のようだ。



「くらいやがれええええ!!! 蛇咬スネークバイトおおおおおお!!!!!!」


前回使った時とは比べ物にならない大きさで形成された鎖の大蛇。

さながら神話に登場する石化蛇ゴルゴーン

その大きさはアレストでも丸飲みしてしまうほどだろう。



「喰らいつくせええええ!!!」



咆哮。

大蛇は大きいその顎を覗かせ、窓が割れてしまうと錯覚するほどの咆哮を上げる。


ーー行け行け、飲み尽くしてちまえ!





「はぁ……こう往生際が悪ぃとどうも萎えるよなぁおいーー馬鹿者が!!」



たった一振りだ。拳を縦に一振りのみ。

たったそれだけの動作で大蛇は地面に盛大に叩きつけられた。顔面はトラックの衝突現場のようにひしゃげてぐちゃぐちゃ。もう一ミリ足りとも動く気配はない。鎖もほとんどが駄目になっただろう。




「おい。これで終わりか?」



アレストの佇まいはなんてこともない。憎たらしいことに朝起きて新聞を読みなが珈琲を嗜んでるのと変わりない。


しかし、実際の意味はそんなアレストが放つ言葉の抑揚とは真逆。僕らにとって死刑宣告に等しかった。

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