第57話 六魔天さんと一緒!! おかわり!




 四条の全力の一撃。大斧というとてつもない重量を伴ったものだ。並大抵の物であれば一撃でスクラップ確定だろう。

しかし、そんな一撃をモロに喰らっても六魔天には傷一つですらつきやしない。

 そんなものを目の前でむざむざと見せつけられてしまえば、嫌でも実力差を理解する。



 無駄だと分かりつつも試しに解析スキルを発動させても、


解析不能システムエラー


 とアラート音と共に知らされるだけだ。全くどれだけ力の差があるのか分からなくて嫌になるよ。





「筋はまぁ悪くねぇな。たが火力が足りねぇなぁ。甘ぇよ、こんなんじゃ糞の役にも立たねぇ」



 アレストはまるでマッサージでも受けてきたかの如く鼻唄混じりで右肩をぐるぐると回している。



 えぇ……僕とかあんなのキツい一撃貰ったら木っ端微塵なんですけど……




 簡単に言ってくれるよ、全く。現実に負けイベントを実装するなんて聞いてない。勝てる見込みがミジンコレベルすら見えないんですけどー。


 大体大斧をおもいっくそぶちこまれて無傷とか世界観おかしいだろ。

 責任者呼べ! 責任者!!





「プラン変更! 四条! 僕のサブに回って!!」



 さりとて黙ってじっとしている暇もない。


 あの巨漢に恐怖して、動かないほど愚かにはなれない。

 作戦を話している暇なんてものは皆無。

 四条は大方を察したのか強く頷いて突撃した。


 全く。相変わらずに見た目と反して男らしい子だなぁと思う。普通あんなのに突撃なか二つ返事で出来ないよ。



 まぁ、そんな彼女がいるから僕もまだやれることがあるわけで。




「おぉ、流石にこれで終わりなわけねぇよなぁ? 次はなんだ? もっと楽しませろよなぁ!!」



 あいつほんと威圧感凄くて怖いなぁ……


 あの威勢の良さも、地を揺るがすと錯覚してしまう大きい声も、その触れるだけで吹き飛ばされてしまいそうな強靭過ぎる体躯も。


 その全てが正直怖くてたまらない。



 まぁ、それでも死にたくないし頑張るしかない。幸い四條という心強い味方もいる。


 それに、弱者には弱者なりのやり方がある。


 四條の一撃は威力はあるがあくまで大雑把なもの。


 先程の攻撃で効かないことがわかった。


 なら、方針を変えるしかない。



 急所だ。



 目、脳、顎、首、金的、ets……


 人間と似たような身体構造なら、そこに効果がないなんてことはないはずだ。



 更に僕にはこの鎖がある。

 触れればSPを吸収してくれる頼もしい鎖さ。

 大罪なんちゃらとかいう何とも凄そうな武器だ。



 視覚の端にSPの残量が写る。しばらくの間アレストには鎖をくくりつけていたからそれなりに吸収出来たようだ。


 SP 220/55


 SPは気力や精神力を表すステータスでもある。だから減れば疲れるし、ゼロになればフラフラになるか最悪倒れる。


 この鎖と詐欺師の能力を合わせて使うんだ。

 翻弄し吸収し急所をつく。それしかない。


 SP管理が命綱だ。


 詐欺師のスキルが使えなければ、僕は少しばかりすばしっこいだけの雑魚でしかない。



 上手くやれ。



「いくよ」



 駆ける。


 数日前の僕とは思えない速さだ。オリンピック選手ですら目じゃない。今までの価値観は何だったのかとも思うが、それどころじゃない。




 たった一瞬で肉薄する。



 いける。


 速さだけならまだ僕に部がある。奴は追いきれてはいない。振り向くのが少し遅い。



 斧を振り回す四条を屠ろうと拳を振り上げるアレスト。

 それを鎖を何本も巻き付けて押し止める。




「ちっ、しゃらくせぇ! 吸魔の力か!」


 先程は一本しか使わなかったが、今回は五本も鎖を使っている。

 さっきみたく簡単に引きちぎれると思わないで欲しいね。


 アレストは苛つきながらも空いた方のかいなを僕に向けて振り下ろす。



「それ当たらないよ」



 破裂音。

 アレストの腕は僕の横三十センチを通過していく。悲しく空を切るだけだ。


 スキル猫騙


 手を叩くだけで相手の攻撃が検討違いの方向へ飛んでいく、これまた素敵なスキルさ。




「あぁん? 俺ぁこの手のタイプはきれーなんだがなぁ。つっても、レーヴェの野郎に探ってこいって言われてるから相手しねーわけにもいかねぇしなぁ」




 こいつ無駄口が多いな。

 こっちはそんなのに付き合っている暇はない。

 というか交わす言葉がそもそもない。



「あぁん? また煩わしいな、おい」



 また分身を作り、駆使しつつ前に躍り出る。


 実態がない分身の真骨頂は相手を迷わせることに他ならない。


 どこにいる?


 どこから攻撃するつもりだ?



 そう悩ませることで相手の動きを鈍らせる。


 そうすれば本来当たり前のことでも、少しの間思い付かないように誘導出来る。


 そう急所を狙うなんていう当たり前のことを。




「らああああ!!!!!」



 僕の意図を全て理解しているわけはない。そこまでの仲でもない。


 しかし、彼女なりに十分なほどの汲み取りはしてくれている。


 六摩天の強力無比の攻撃を前になんとか生き残っている。


 ていうかマジチート。地面とか吹き飛んで大穴空いてるし……単なる殴打でしょ、それ。



 さすがに渡り合っているとはどうみても言えないが、まがりなりにもタンクの役割をこなしている。


 あの一撃でもまともに喰らえば死に至る連撃をすれすれでかわして引き付けてくれている。お陰で僕の方からは僅かながら注意が逸れている。



 ここまでしてくれるなら。


 ここだ!


 四條に注意が逸れている今しかない。これで決まってくれよ!?


 首筋にバックスタブ!!!


 短剣がアレストの首筋に吸い込まれて行った。

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