第54話 六魔天とかがいるらしい件について
何か考えてのものではなく、ほぼ咄嗟の反応だった。
連撃を避けるため、鎖を走らせて大男の足を拘束した。
漫画の主人公ムーブな気もするが、実際に現実でやると肝が冷えるんだねこれ。
咄嗟に出せたからいいものの、上手くいかなければそのまま死んでいたかもしれないのだ。こわ。
「へぇ中々いい魔装もってやがるな。この気色悪ぃ感じ大罪武装の類か?」
「大罪……? なによそれ」
四条は首をかしげた。いまいちピンと来ないようだ。
しかし僕は違う。やべぇ、にやけちゃう。
何その厨二心くすぐられる言葉。大罪ってあれか、確かキリストやらカトリックだかが起源だっけ。
え? まじで?
この鎖そんな凄いものだったの?
「オレもそんな詳しいわけじゃねぇよ。まぁ、しかし質が低ぃな。大方、
「えぇ……何その落ち……」
あれだけ期待させておいてこれはひどい。僕の純情を返せ。ついでに賠償金とかも色々よこせ。
「おっと、いけねぇいけねぇ。ついおれぁ話がそれちまう」
大男は照れを隠すように頭をガシガシかきむしる。
そして表情が一変した。
これまでの気だるそうなものとは違う。剃刀のように鋭い視線。冷水をぶっかけられた上、心臓を握り潰されたような感覚に陥る。
「名乗れ、戦士に対する礼節だ。礼節は大事だろ? 礼節がなけりゃ単なる殺しだ。そりゃ戦士に対して失礼ってもんだ」
え?
そういうのって普通聞く側から名乗るもんじゃないの?
いや、そんなこと言ったらキレられそうだから言わないけどさ。
そもそも、こういう戦士の誇りとかママンのお腹の中に忘れてきたんだけどここでは言わぬが華か。
「北原ムンクだよ……」
「四条美琴よ」
改めて思うけど、僕の名前酷いわ。でも、特に気にするような気配はない。あれ?だいたい初回はツッコまれるんだけど。
もしくして、カタカナ文字の人にはそんなおかしい名前じゃない?うーむ。海外に移住してみようかしら……でも、日本のゲームとか好きだからなぁ……
僕がしょうもない思考を垂れ流しているとは、露知らず大男は目をギラつかせる。その獰猛な笑みは本当に楽しそうだなぁ。
武人タイプの人は戦う前に名乗るのほんと好きだよね。僕も推して参るとか言えばいいかな?
なにそれカッコいい。
「じゃあ俺の番だなぁ! おれぁは魔導連合国六魔天【暴の座】アレスト! おれぁが言うのも何だが後味悪ぃし死んでくれるなよ?」
はい?
「六魔天? ふむ……じゃあ僕は?」
「あんたはところてんって感じよ。じゃなくて!! え、ちょっ! ちょっと待って!」
アレストは怪訝そうに顔をしかめるが、渋々と動きを一度止める。意外といい人なのかもしれない。多分ヒーローの変身とかも待ってくれる粋なタイプだね。
「魔導連合国? 六魔天!? 何なのそれ、そんなの聞いたことないわよ!?」
四条が混乱するのは仕方ない。なんか凄い名前の国に、六魔天にゴブリンの首領とか……もう色々属性詰めすぎてやばい。チートかよ。
「あぁん? 当たり前だろうが。そりゃ違う世界の話なんだからよぉ。それとも、なんだ? お前らは俺たちがそこら辺からぽっこり生まれたとでも思ってんのか?」
六魔天様はどんどん不機嫌になる。眉間のシワとかすんごいもの。
「ったく、王国の糞共が! てきとーな説明しやがるからこうなんだよ! 分かってるか? なぁ?」
「あぁもう! 意味わかんないわよっ!!」
僕も四条と同じ気持ちだ。
分かるわけがない。そもそも王国とか初耳ですし……そんな矢継ぎ早に単語を並べられても理解出来るはずもない。
「はぁ……まったくよぉ。俺たちはな、お前達の世界に侵略しに来てるんだよ。分かってんのか? お前ら戦争してんだぞ?」
世界が変わり面白そうと思い、無邪気にも舞い上がってた僕だが……現実は想像以上に切迫してるらしい。
いや、戦争ってまじかー。しかも、異世界ってまじかー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます