第50話 詐欺師の糞みたいな戯言
逢魔の顔は表情が抜け落ちて異様な不気味さを醸し出していた。まるで深夜にふと視線に入る日本人形のよう。
その表情から僕の推察は間違っていないと確信した。当てずっぽうだったのに。
まぁ、少なからず確信はあった。
そもそも生徒会長の洗脳が可笑しかったのだ。
『グールになった人間を殺すな』という意味不明な内容。生きてる人間に不利にもほどがある。
斎藤の考えを聞いたときは意味不明だったが今なら分かる。
あの洗脳はグールを増やすためのものだったのだ。
「くくくっ……」
「あーははっははははは!!!!」
逢魔は腹を抱えて大笑い。まるで三流推理小説の犯人が自供している場面のようだ。あ、でも新世界の神様もあんな感じだったなぁ。
え? 何?
斎藤といいそのサイコな感じの笑い方流行ってんの?
「何の取り柄もない凡庸な存在かと思えば中々どうして」
何で僕の評価はこんなのばっかなんだか。
逢魔の表情には再び優雅さが見え始めた。
そして否定はしない。
やはりーー
「待ってよ、会長! ほ、ほんとなの!? う、嘘よね!?」
四条は逢魔との面識が元々あったはずだ。仲睦まじく会話して笑いあったこともあったのだろう。
まだ、彼女の言葉には丁寧さがあり、尊敬の念が見え隠れしている。
「いやはや。本当に目障りだったよ、君たちは」
逢魔は何でも無いことかのようにポツリポツリと言葉を吐き出している。四条の言葉を否定しようとはしない。
むしろ、「何か悪いことしたかい?」とでも言わんばかりの態度だ。
「だから、ここで殺すことにしたよ」
「いいの? 自白してるようなもんだけど?」
「自白? まぁ、確かにそうだね。そうだ。ネクロマンサーは死んだ人間をグールに出来る。そういう職業だ。だから?」
「だからって……!?」
四条は逢魔の言い様に目を見開く。彼女からしたら逢魔の行いは理解できるものではないらしい。
「何にそんな憤慨しているのか理解しかねるね。死んだ人間なんて所詮は単なるタンパク質でしかない。死体なんてものに意味を持たせようとするのはエゴでしかないよ」
逢魔の思考は強者特有のそれだ。強い者だけが持ち合わせる殺伐としたもの。合理的な側面を持ちながら理不尽さを感じられる。
だがそこに付け入る隙がある。
「ふーん、でも悠君とやらはどう思うんですかねぇ?」
この言葉に効力を持たすためにいままでペラペラと無駄に喋っていた。斎藤の話が本当であるなら、ギャルゲー君を信仰までしている彼女には効果が高いはずだ。
「おいおい。君達はまだ自分達が生きて帰れる思っているのかい? やっぱり馬鹿なのかな?レベル差分からない?」
逢魔の余裕は今だ健在。やはりレベル差というアドバンテージは絶大で、僕らなんかは告げ口される前に殺してしまえばいい。更に言えば逢魔は告げ口されてもいいと思っているのだろう。
彼女はギャルゲー君ぐらい今まで築いてきた信頼やその話術で丸め込めると信じて疑わないはずだ。
だから切り札を切る。
「これなーんだ」
「「は?」」
四条まで目を点にしている。
僕が懐から取り出したのはなんの変哲もないスマートフォン。
いきなりそんなもの出されても、困惑するだけだろう。
たかがスマホ。しかし、されどスマホ。最近のスマートフォンは凄いぞー。何せ、電話やメール、ゲームになんでも出来る。機能が増えすぎてもはやフォンである必要があるのか疑問すらある。
まぁ、なかでもこの録音機能はピカイチだね。
なにせーー
『いやはや。本当に目障りだったよ、君たちは。……だから、ここで殺すことにしたよ』
こんな最高な音声まで保存できるのだから。
「北原ぁ……!」
ギリギリと奥歯を噛み締める音がこっちにまで聞こえてくる。
わぁー、怖い。でも、見下してくる奴がそういう表情するの僕だーいすき。
「北原がまた録なこと考えていない……」
四条がジト目で非難してくる。君どっちの味方?うるさいです。
「あ、でもネットって使えないんじゃ……」
「え?使えるよ?」
「えーーーー!!!?」
ていうか四条気づいてなかったのね……ていうか、まだ電気とかも止まってませんし……
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