第49話 詐欺師と戯言とネクロマンサー

「なんだい? こそこそして。気になるじゃないか」



 逢魔はどこまでも余裕を崩す気配はない。圧倒的な戦力差から来る余裕だ。そのほうが都合がいいから構わない。



 「聞いてみたいことがあるんだけどいい?」



 これは、単なる時間稼ぎでしかない。




 「露骨な時間稼ぎだね。稼いだところで何か出来ると思わないがいいだろう。冥土の土産ってやつだね」



 逢魔は一度言ってみたかっんだよね、とか笑えないことを付け加えた。


 言ってろ。





 まぁいい。こっちの思惑を看破しつつ、向こうはわざわざ乗った。自分を格上と見ているからこそ出来ることだ。


 逢魔の態度はいけすかないがクールに。僕は煽る側でなければいけない。当たり障りない内容をぶつけても向こうは飽きてしまい、大した時間は稼げない。


 なら煽り、興味を引き付けるしかない。聞き手の立場でしかない逢魔を、問答というステージに引きずり落とす。


 他にやり方はないのかとも思うが仕方ない。他に自分が上手くやれる方法なんて思いつかない。


 にやっと口端を吊り上げて不適な笑みを浮かべる。出来るだけ尊大にそして胡散臭くみせろ。


 何せ僕は詐欺師だ。

言葉巧みにおちょくってやる。それしか出来ない。それだけしか取り柄がない。




 「アンタ、やろうと思えばこの学校にいるモンスターぐらいなら制圧できたでしょ?」



 「何を言っているのかな、君は?」


 逢魔は毅然とした態度を崩さない。そんなことはないと表すかのように失笑を浮かべる。



 「いや出来るはずなんだ。僕を拘束出来るし、オークだって単独で倒せる。いくら慎重になるって言ったてこれは過剰だね」



 「回りくどいわね。何が言いたいのかな?」



 いいね。笑顔は崩さないようだけど、その優雅さは崩れないが、表情はやや固くなっている。僕の仮説は決して間違っていない。



 「あんたわざとこの状況作ってるっていいたいんだよ。このかまとと野郎。あ、一応女子だからやろうじゃないか。アバズレ的な?」



 「ははっ 大した妄想だ。よくもまぁ、そこまで考えれたものだ。陳腐なライトノベルにでも出てきそうな設定だね。だが、所詮妄想だ。だけど、少し無理があるかな」



 え?

生徒会長もラノベ読むの?

まぁ、ね。学校の図書室とかにもあるし、昔とは違い一般的なものになり始めているのかもね。


いやはや感慨深い。まぁそれは置いといて。



 「へぇ……完璧な生徒会長様でも無理なことがあるんですかねぇ?」



 ハッと小馬鹿にしたような態度で挑発を続ける。大仰に肩をすくめて露骨に煽る。



 「あぁ、私も所詮は一人の人間でね。悪鬼羅刹が蔓延るこの学園をいくらネクロマンサーの私でも一人で制圧は無理だと思わないかい?」



 かかった。この言葉を待っていた。彼女は僕の推察通りならまだ開示していない情報があるはずだ。それを追求するタイミングを待っていた。






 「そんなわけはない。だってーーグールを産み出しているのはネクロマンサーのアンタでしょ?」


 

 「そんな……ことないよ?」



 逢魔の表情が固まった。初めてその優雅な仮面に罅が入った。


ここだ。ここを畳み掛ければいい。



 「もうとぼけないでよ? ネクロマンサーなんて死霊を操るようなjobなんだ。まさか、死霊を産み出せないなんてほうがおかしい」


 そうネクロマンサーがグールを産み出せないはずがないのだ。グールがいなければネクロマンサーは単なる木偶の坊でしかない。仮にもエクストラジョブなのだからそんなわけもないだろう。

 逢魔は沈黙したままだ。




 「それにだ。もし出来ないと言われても死んだ人間がグールになるなんてネクロマンサーに都合が良すぎる世界だ。そんなの疑わないほうが可笑しい」



 本当の処、確信なんてものはない。単なるネクロマンサーというファンタジーで出てくるような存在の知識。それと状況を鑑みたものから推察される可能性の一つでしかない。


 ただ、一番挑発できそうな内容を選んだだけ。




 「いやいや、ほんとにおためごかしが上手いや。生徒の安全? 学校の治安? 笑えるねそんなことあんたは微塵も興味がないでしょ?」



 ちらりと四条に視線を向けてしまった。これから続く言葉は彼女にとって辛く悲しいことなのだろう。だけど生き残るために。何より、虚構を是としないために淀みなく言わなければいけない。



 「あんたはハーレム野郎、轟悠人と一緒にいられるようにこの状況を作ったんだよ。何ならこの状況を利用してハーレム員達を殺すぐらいに思ってたんだろうな。四条だってそうなんでしょ?」



 不躾に告げられた推察に逢魔は動かない。表情には既に優雅さなんていうものは欠片もなく、感情がストンと落ちているようだった。


 ただ確信した。僕の推察は間違っていなかったのだと。



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