第45話 待てしかして希望せよ

「へぇ……中々やるじゃないか。まさか、ここまで奮闘するとはねぇ」



逢魔は余裕も余裕だ。


HPなんて一ミリも減っちゃいない。


ただ、なんか少し官能的に見える姿勢で突っ立ってるだけだし。


なんでだろ?

言い方あれだけどほんとエロいな。

普通に立ってるだけなんだけどね。体つきかな。



「はぁ……はぁ……こちらはもう限界近くまで行っているのだけれど」



しかし、斎藤も僕も肩で息をしている。逢魔のような余裕差など欠片もない。


正直、ここまでやれた自分を誉めたい。なんせグールを二人で百体以上倒しのだから、そうとう頑張った。ほんとほめろ。




「こっちは中々体力がね……そっちは?」



「こちらも同じよ。まったくウーウー五月蝿いぐらい唸って。そろそろ勘弁願いたいわね」



「同感」



中々なんて微妙な表現をしたのはせめてもの抵抗だ。


実際はhpなんて150/310とそれなりに削られている。それを逢魔に悟らせないためにぼかしたけど、大した効果なんてあるわけがない。



そもそも例えhpが満タンだろうが生き残れるかは怪しい。



グールの数は減る気配がないし、むしろ増え続けている。厄介にもほどがある。行動に戦略性が組み込まれてるのも厄介。

仮にグールをなんとか出来たとしてもレベル差の逢魔に勝てるとも思えないが。


こうして思考している間にも、襲いかかられていて短剣と鎖を振り回す。


もう何体倒したか数えるのすら億劫に感じる。



「まだ諦めるつもりはないか……なら君達に更なる絶望を贈ろう」



「……?」



グールの波が止まった。



何でだ?



途端音が聞こえた。

金属が擦り合うような音。

どこかで聞いたような金属音が規則的に響く。


それもいくつも。


音源はあまりにも多くて騒音と化していた。




「まじで……?」


「嘘……でしょう」



この時の僕らの表情はまさしく絶望という表現が正しいだろうか。


まるで軍隊の進行のようだ。


グールを掻き分けてメイルアンデットが十にも近い数現れた。




「あぁ、いいねぇ! その表情! とてもいいよ!!! 素晴らしい!!!」




あぁ、くそ。


逢魔の恍惚とした表情がうざい。うっとおしい。


でも、それどこじゃない。


以前校舎で戦ったアンデットメイルはレベル十五。


しかも、三人がかりで倒した相手だ。


二人でしかも、十近い数を倒すなんて不可能に近い。


駄目だ。詰んだわ。



「斎藤、遺言とか用意してる? 僕はあれだな。PCのハードディスクは破壊しておいて欲しいかな」



「悲しい遺言ね。でも、おあいにくさま。私は遺言なんて残すつもり更々ないわ」



「ほぅ。この状況でこんな強気になれなんて中々見上げたものじゃないか。でも、これも一興か。その高潔な肢体が絶望に染まっていくのは見ものだね」



逢魔の斎藤を見る目はとても下劣なものだった。男性が女性を性的になめ回すように見るかのようだ。



「ええ。貴方ごときに命を失うなんて勿体ないわ。もっとも、誰にも私の命は奪わせないけれどね。これは私だけのものよ」

 


「じゃあーー死ね」



死の間際にすら挑発的な態度が気にくわなかったのか、逢魔は顔を醜く歪ませて喚いた。

その形相たるや子供がみたらトラウマになること間違いなし。

しかし、それでも斎藤が怯むことはない。



「そう……もう手は残っていない。ええ、確かにその通りだわ」



メイルアンデットが襲いかかる中、彼女の瞳は影がかかることすらない。


この状況ですら眩しいぐらいに輝いている。



「あくまで私にはないわ。でもね、彼女ならーー遅いわ!! 四条さん!!!」



強引に風を切り裂くような音が響いた。

そして、音に遅れて人の身の丈もある大斧がけたたましい音をかき散らしてブーメランのごとく宙を駆け巡る。



グール達が四肢をばらまきながら吹き飛ばされた。


なんつー威力だよ……



は?



え? 何いきなり?




斧が飛んできた先には見慣れた茶色のツインテール。



「遅くなったわね! 主役は遅れて登場するものでしょ?」


女の子なのに大股に足を開いて仁王立ちしている。


そんなポーズで不適な笑みを浮かべる四条はやっぱり男前だった。


やだ、僕は男なのに惚れちゃうじゃん。


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