第41話 拗らせすぎた僕だってたまにはデレることだってある
百を軽く越えるであろうグールが廊下にひしめく。学校の中であるということを忘れてしまいそうになる光景だ。
さながら亡者の行進。
「驚くべき地下の収納スペース!!」
「ツッコミどころはそこなのかしら……」
いやだってねぇ。
普通地下にこんな人数収まれる広大なスペースなんてないよ。
しかも、学校にだよ?
そりゃツッコミたくもなるよ。
「無駄口叩く余裕なんてないわ。かなり危機的状況だと思うのだけれど」
「それはその確かにおっしゃる通りなんだけど。……ギリかな?」
「そうね、ギリギリね。北原君が前、私が後ろを受け持つなら行けるかしら?」
「おっけ背中は任せろってやつだ。これ一度は言ってみたかったんだよねぇ。しかし、会長様は余裕そうで小憎たらしいったらありゃしない」
逢魔千歳はどこまでも余裕な笑みを浮かべて立ち尽くすだけだ。その頬は上気して赤くなってるところがまたムカつく。
僕らの様子を楽しんでいる、そんな感じだ。
ほんと迷惑ったらありゃしないよ。
ーーー
「貫かれて死ね」
迫り来るグール達のことごとくを七本の鎖で貫き屠る。
鎖を動かすのにSPを消費するが、鎖の能力でSPを敵から吸収して回収できる。
結局はプラスマイナスゼロだ。消耗もほとんど無い。
「
むしろ魔術を連発している斎藤のほうが心配だ。
しかし、そこまで疲れた様子もないので取り越し苦労か。
頭のいい彼女のことだ。そこら辺のペース配分はお手のものだろう。
「っと、危なっ」
少しよそ見しているうちにグールに接近されていた。
「くっ! このぉーーー!!」
慌て鎖で凪ぎ払うが、遅かった。少しHPを削られてしまう。
HPに保護されているので痛みはないけど心臓には悪い。
なんだ?
何か違和感を感じる。心なしかグール達の動きが少し速いような気がする。
「北原君……!」
斎藤の表情にも焦りが見えた。
どうやら彼女も何かしらの違和感を感じているらしい。
「うん。こいつら動きが……」
「ええ、おかしいわ。グールなのに統制がとれている」
確かに言われてみればそうだ。
先程のグールの接近。あれは明らかにおかしいのだ。
グール達の動きを計算して、鎖を上手く使い必ず一定感覚の距離を保つようにしていた。特にミスをした記憶もない。
違和感の正体はこれか。
「ふふっ 疑問かい?」
逢魔はただ余裕の笑みを浮かべて突っ立っているだけだ。
高みの見物とか良いご身分ですね、ほんと。
ん? ちょっと待て。高みの見物?
「おかしい、あのグール達生徒会長を襲っていない」
あり得ない。グールは生きている人間を見境なく襲っていたはずだ。
「ええ、しかもまるで彼女を護るかのように動いているわ」
「ふふっ この子達はとても忠実なの。そう死んでもね!」
「まさか、死んでも洗脳状態が解けないっていうの!?」
んな、馬鹿な。
しかし、そうは思っても現実はどこまでも非常だ。実際そうなってるから認める他ない。
「だとすると少し不味くない?」
「えぇ、じり貧になると思うわ」
鎖を振り回しながらも言葉をかわす。
「そろそろ現実を認めて降参することを推奨するよ」
逢魔の戯言に答える余裕もない。
どのみち降参したところでろくな目に合わないのは分かりきっているし。
「賭けに出るか」
逢魔に聞こえないよう小さく喋る。
「賭け? 勝算はどのくらいあるのかしら」
「さぁ? 分からないけどーー信じてくれる?」
斎藤は呆れたような表情を浮かべたと思ったらーー力強く頷いた。
「えぇ、信じるわ。だって私達はパーティーですもの」
斎藤の返答に柄にもなく胸が熱くなった。なんだよ滅茶苦茶いい奴じゃん。そういうのキャラじゃないんだけどなぁ。
「こそこそ話は終わったかい? まぁ、君たちに選択肢があるとは思えないがね」
逢魔の全くもってナンセンスな問いかけ。ナンセンス界の頂点狙えるレベルだね。
もちろん、僕、いや僕達の回答は決まっている。
「うん決まったよーーくたばれこのアバズレ」
「ふぅん。君達はもっと賢いと思ったんだけどねーーじゃあ、死んでしまえよ」
逢魔の号令でグールが一斉に駆け出した。正直状況は全然良くない。ピンチの部類だ。
しかし不思議と心は落ち着いている。きっと仲間がいるからだ。
口が裂けても言えないが、仲間がいるだけでこんなにも心強いとは思えなかった。
だから言ってやろう
思いの丈をあのいけすかな生徒会長様に叩きつけてやろう。
「僕のとっておきを見せてあげるよ」
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