第42話 とっておきーー最近鎖ばっか使ってて詐欺師の影が薄くなってる件について

「とっておき? それは見ものだね。しかし、この圧倒的な数には敵わないと思うけどね」


「ぺっ! 言ってればいいよ」


 うるさいよ生徒会長。

 マスコミの如く余計な事しか言わない。そう言えばマスコミって何なんだろね?

 余計なこと言って不安を煽って。そんなんだからマスゴミとか揶揄されるんだぞ。


 とまあ負け惜しみにそんなことを思ったところで状況が好転するわけでもない。

 実際、危機的状況であることは本当だし。

 グールがまだ百体以上いるとか無理ゲーにも程がある。


 最初の放送が言う通りRPGならリセットしてやり直したいレベル。


 え? セーブ機能はない?


 やっぱりクソゲーだね!!




「斎藤! こっち来て!」


 さりとて死ぬ気もない。あってたまるか。


「ええ、分かったわ! ……きゃっ」


 齋藤を呼び、そのまま抱え上げる。

 その際、体がこれでもないぐらい接近して思わずドギマギしてしまう。

 鼻腔を何かいい匂いがくすぐる。

 え? 何これ。めっちゃ良い匂い。女子って何でこんな良い匂いするの。

 男子なんて臭いだけじゃん。


「た、他意はないからね!?」


 今更言い訳したところで火葬後のマッサージレベルで遅いけど。こういう時は言い訳しておくこと自体が大事なのだ。たぶん。


 気恥ずかしさをかき消すように斎藤を抱えたままぐるりと一回転。我ながらフィギアスケートばりに綺麗な回転である。

 そしてその動きに追随して鎖が車輪のように円を描いた。



「……ギィ!」



 数十体のグールが鎖になぎ払われ、僕達とグールの間に大きくスペースが空く。



「齋藤!! 目の前に打てるだけ魔術をぶっ放して!!!」


「!! そう言うことね! 分かったわ!!」


 彼女は一瞬で僕の意図を理解したのか、一ミリたりとも躊躇わなかった。



初級氷魔術エイス初級氷魔術エイス初級氷魔術エイス初級氷魔術エイス初級氷魔術エイス初級氷魔術エイス!」



 散弾銃のように人の頭ぐらい大きい氷塊が連射され空間が埋め尽くされる。その光景はまるで雪嵐ブリザード


 目の前のグール達は抵抗することなく氷塊になぎ倒された。


「今よ!!!」



 これで逢魔まで道が開けた。



「なるほど。これが君のとっておきってやつか。確かに狙いは良い。しかしーー」


 逢魔の余裕さは崩れない。



「こうすれば私までたどり着くことは出来ないよ」



 逢魔がそう言うと、後ろに控えていたグール達が盾になるように前に出て来た。



「あはは!! 残念だったね! 確かに私自身を狙うのは悪くない。しかし、惜しまれるべきは圧倒的な戦力差だったね!! あはははは!!!」


 豪快に嗤う逢魔。その表情は自身の敗北することなど一ミリも考えていない。そんなイケスカナイものだ。



「僕のとっておきはこれからだっつーの!!! でやがれえええええええ!!!!!!」



「――蛇絞スネークバイト



 スキルの発動を契機に七つの鎖がうねり捻れ重なり合う。捻り渦巻きせめぎ合い。


 ジャラリジャラリ


 けたたまし金属が擦れ合う不快音を響かせ、巨大な鎖性の蛇を形成した。



「喰らい尽くせえええええええええ」



 そして余すことなく立ち塞がるならず者達を喰らい尽くした。





ーーー





「これで終わりだ。降参してくれると嬉しんだけど?」


 逢魔の首に短剣をチラつかせて、目線で少しでも動いたら首を刈り取ると訴える。

 グールはほとんど薙ぎ倒した。

 これでもう彼女を守るものは何もない。仮にグールを呼ばれたとしても彼女を仕留めれば何とかなるだろう。



「いやはや、いささか君達を侮っていたかな」


 こんな状況なのに彼女はどこまでも余裕さを崩さない。

 状況を考えれば単なる強がりなのだろうけど……どこか彼女には腹の底が寒くなるような得体の知れない何かを感じさせる。



「いやいや、なら大人しく降参してくれると嬉しいんだけど?」



 逢魔は諦めたようにため息を吐く。

 どうやらもう抵抗する気もないらしい。


 一安心して胸を撫で下ろそうしたその時――


「北原君!! 急いで鎖で拘束して!」


「いきなり焦ってどうしーー」




 次の刹那、目の前が真っ白になった。

 そして、遅れて身体中に激痛。



「っかは……!」


 いつの間にか僕は地面に仰向けになっていた。


 え? は? え?

 どう言う事?

 何が起きたの?


「北原君! 大丈夫!?」


 慌てて駆けつけた齋藤が優しく僕の体を起こす。


「ゲホッゲホッ……! 一体何が……?」


 訳がわからない。この一瞬に一体何があったのか。


「私もよく見えた訳じゃないけど、多分彼女が殴ったように見えた」


 そんな馬鹿な。

 仮にもレベルアップにより強化された僕達だ。一般人ごときに反応出来ないわけもない。


「ええ……その通りよ。だから、彼女はおそらく……」


 まさかーー


「そうその通りだよ。この私もレベルアップとやらをしているのだよ。いやいや、まさか君達ごときに奥の手を使う事になるなんてね」


「全く。そんな事を隠しているなんて生徒会長様も性格が悪いや」


「聞かれなかったからね。そうそうついでに教えといてあげるよーー私のレベルは34だ」


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