第39話 あれ、なんかぼく強くない? え? 武器が強いだけ? そんなー




「アァ……」



 対峙する集団は全身血まみれで目はうつろ。常に口からは呻き声が漏らしているし、焦点なんてろくに合わせやしない。



 まさしくゾンビ。制服を着ていなければ、決して学舎を共に過ごした同門とは思えなかっただろう。



「RPGとか言いながら、バイオでハザードみたいなジャンルに間違えてない?」


「馬鹿なこと言ってないの。貴方のお仲間が元気よく迫ってるわよ」


「わぁ、いつの間にか僕人気者じゃん。嬉しくねー」



 もはやお決まりのやり取りとも言える僕と斎藤の無駄口。最近監禁されて喋ってなかったから安心するわー。

 しかし無駄口を叩きつつも距離には注意する。あんな集団に近づかれたら少し面倒だし。


 ジャラリジャラリうるさい漆黒色の鎖を取り出す。

 そしてスキルを発動。



鎖増幅アルブ




 スキルを使う感覚は独特だ。精神や気力と言われるようなものがふっと抜けるような感覚。そしてその後訪れる少しの虚脱感。



「鎖を3つも増やしたの? 少し飛ばしすぎではないかしら」


「まぁまぁ、よってらっしゃい見てなさいってね!」



 投擲+鎖操作+加速


 この鎖は複数のスキルを複合させなければ上手く動かない。

 スキルによって操られた四本の鎖達は弧を描くようにグール達を凪ぎ払った。



「ギィ…………!」



 たったそれだけで半分のグールが吹き飛ばされた。そのうち数体はもう立ち上がる気配がない。



「まだまだ! おかわり!」


「更に3つの鎖……? どいうことかしら、今までの貴方では無理なはずよ?」


「ふふー、この新スキルのおかげさ。この鎖は食いしん坊さんなんだよ」



 合計で七本の鎖がウネウネと僕の周りを漂っている。

 さながらタコさん。いや、タコは足が八本だっけ?

 まぁ、どっちでもいいや。




「なるほど……だからなのね。貴方が簡単に拘束された訳もよく分かったわ」


「えぇ……この発言だけで分かるとか……」


「状況を一つ一つ整理すれば、猿でも分かる簡単な話だわ」



 なんともネタバラシのしがいのない子ですこと。

 まぁ、お察しの通りこの鎖のおかげだ。僕が体育館で簡単に拘束されたのも、この鎖の能力でSPを搾り取られたから。

 そしてこのテストステロン漬けのボディビルダーばりに黒光りする鎖にもその能力は引き継がれている。



 武器固有技能ウェポン・アビリティ悪喰バイト



 上手く使えば際限なくSPを供給できる優秀な能力だ。偶発的とはいえ得たものは大きい。




「まぁ、そういうこと。っと、あいつらがうじゃうじゃと近づいて来てるじゃん。片付けるか」



「ーー貫け」



 その言葉を合図に七本の鎖が流星群かの如く駆け出す。

 そして鎖達は余すことなくグール達を貫き屠る。


 死屍累々。

 もう立ち上がる影は一つたりともなかった。






 ーーー


 目の前の通路に広がる光景は死屍累々。外面がエグいグールなだけあって中々に見応えがある。

 ここまでくると逆に壮観だね。


 少し昔なら異の中の色々をリバースしただろうなぁ。



「あれ? 僕強くね?」


「そうね、『武器』はね」


「そんな強調しなくてもいいじゃない……」



 斎藤の歯に衣着せぬ物言いに少し泣いた。

 少しぐらい夢に浸ってもいいじゃない。いや、分かってるんですけどね?

 いいんですー! 勝てばいいんですよ勝てば!

 何せ僕はプライドを捨てれる系男子ですし。なにそれおいしいの?



「そんなことは置いておいて……グール達も消えるのね」



 そんなことって。まぁいいや斎藤だし。


 それよりも彼女の言い様が気になった。確かに彼女の言うように倒されたグール達は既に跡形もなく消えている。


 モンスターは倒せば消える。

 何故? とか考え始めればキリがないので、僕はそういうものだと割りきっている。




「それがどしたん?」



「いえ、ゴブリンみたいに元々この世界に居なかった存在が消えるのはなんとなく納得できたのだけれど……グール達は元人間なのに消えるのね」




「確かに……んー、やっぱりこいつらちゃんと生きた奴等なのかね」


 しかし、割りと単純なことに気がつかなかった。


 僕らはずっと疑問に思っている。


 このモンスター達がゲームみたくシステムで用意された敵ではなくちゃんと生きている存在なのか? と。


 どの道、現時点で情報が少なすぎる。


 それに分かったところで状況が変わるとも思えないし。



「今考えてもしょうがないわね。先に進みーー」




「おっと、どこへ行くんだい? しかし、本当にやってくれたね」



 斎藤の言葉を遮るように声が響き渡る。

 もちろん、僕の声ではない。

 その声の先にはニッコリと笑顔を浮かべた生徒会長様が立っていた。


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