第34話 復讐系の話で『それでも殺人は良くないことなんだよ』とか言う奴は信用出来ない。
柔らかな笑みを浮かべて、僕に手を差し伸べる逢魔。
その蠱惑的な微笑は全校生徒の九割が目を奪われ、残り一割は心酔することだろう。
しかし、状況が状況なだけあって一ミリも心が動くことはなかった。ほんと不思議なことにぜーんぜん動かない。
「それで、どうするつもりだい? あまり君に選択肢はあると思えないがね」
こりゃ酷い。これじゃあ思考の強要だ。こういうのって倫理的に良くないと思うの。状況が状況なら訴訟も辞さない。
しかし、断るという選択肢はあまり賢いとは言えない。
少なくとも四条以上の戦力を保有している可能性があるのだ。迂闊な判断は出来ない。
そうなると、ここは向こうの提案を一時的にでも飲んだほうがいいかもしれない。
でも、自衛組織かぁ。
正直めんどくさそうなんだよなぁ。自衛ってことは避難してる生徒を守らないといけないってことだよね。
ていうか今までイジメとか黙認してた奴らだし、正直死んでしまえと思うぐらいなんだよな、これが。
後、この圧倒的に漂う偽善臭が確実に合わなそうなんだよなぁ。
グールとかした生徒を生け捕りして、保護してるところを見ると狩りまくってる僕とか牢屋とか入れられそうだもん。
心を入れ換えろとか言われそう。
「北原君、君は途方もなく大きい罪を犯した。しかし、私は人間には必ず償いの機会があると思っている。罪を自覚して償う気はないかい?」
ほらーこれですよこれ。
そもそも、いくら蘇生薬使えば復活できるとか言われてもあれバカ高くて手を出す気になれないからね?
だいたい、襲ってきたのは奴らなんだから僕無実ですし。正当防衛ですし。
あ、でも思い返すと、ほとんど先制して後ろから刺してるし、僕から襲ってるなこれ。裁判だと負ける可能性があるやもしれん。
まぁ、どのみち僕のこと見たら襲うからセーフ。結果的にセーフ。
「へぇ、ちなみにその自衛組織でしたっけ? 逢魔会長が頭をやってるんですか?」
こんな質問に意味はない。
とりあえず、時間を稼いでいるだけでしかない。
「あぁ、それは違うよ。あくまで私は補佐。紹介しよう、この自衛組織は彼が取り仕切っているのだよ」
奥からやや遠慮気味に一人の男が前に出た。
「えっと、一応リーダーをやらせてもらっている轟悠人だよ。北原君……だっけ? よろしくね」
逢魔に呼ばれ、出てきた男には見覚えがあった。
噂のギャルゲー君じゃないか!
適度に切り揃えられた黒髪に、中性的な顔立ち。顔は中の上ってところか。
そして、あふれでるやさ男具合。
校内で何度も美少女達に囲まれ、苦笑いしていた男の特徴に一致する。
くそ。陽キャリア充は滅べばいい。
「北原君! 一緒に学校を救おう! かけがえのない友達なんだ! 他の誰でもない僕達でやるべきだ!」
「……」
うわぁ。
ほんとに主人公みたいな発言するんだなぁ。
あーこいつ無理。
なんていうかこいつからは推理物で殺人事件起こした犯人に『そんなことをしても恋人が喜ぶと思ってるの?』とか『それでも殺人をしていい理由にはならない。』とかそんなこと言いそうなんだよなぁ。
いや、あれそういう話じゃねーから。
そもそも人の感情を理解してないね! ムカつくもんはムカつくの!
復讐は楽しいし、スッキリする!!!
あと、こいつギャルゲー野郎だから嫌い。非モテなめんな。
「パス」
あ、やべ。反射的に断っちゃった。
「な、何でだよ!?」
「いや、まぁ合わなそうだし。というか何でイジメてきた奴らを僕がわざわざ苦労して助けなきゃいけないんだよ。むりむり」
こうなったらあれだ。本音をぶちまけてしまえ。
「それは、その……。で、でも、何の罪のない人だってたくさんいるでしょ!?」
「知らない。黙認した奴も僕的には加害者だし、ぶっちゃけてくたばれと思ってます、はい」
ギャルゲー野郎は僕の常識を疑ってる模様。
理解できないって顔してるもん。でも、それでいい。
感情なんて人それぞれだ。全部が全部理解できるならそれこそ世界平和が実現する。
「ていうか、ぶちゃけて君が好きな人とか友達を見つけたいってところも下心であるでしょ。僕にとってどうでもいいことに巻き込まれて僕が死んだら責任とってくれるの?」
まぁ、憶測なんですけどね。根拠なんて何もない。でも、動揺具合を見ると当たってそうね。
「そ、それはもちろん君も蘇生させるさ!!」
「いや、無理でしょ蘇生薬いくらかかると思ってんのよ。ていうか、君たちなんて信用出来ないね。ぜってー、他の人蘇生しそう」
僕のあまりにも明け透けな発言に、ギャルゲー君は固まってしまった。
まぁ、ここまで露骨に本音をぶちまけるとは思ってなかったんだろう。
言いたい放題言えたんで僕はスッキリ。
ここまで来たらもう向こうの要求に応じるのは流石に無理だな。
生徒会長にも丁重にお断りをーー
「交渉決裂だ。とても残念だよ」
え。
いきなり、生き物のようにぐるぐると暴れまわる鎖が体に巻き付いた。
「なんだっ……これ……!」
また、鎖ですか。鎖ぐらいなんだ。ステータスによって強化された僕の身体能力ならこんな鎖わけない。
「……!?」
「振りほどけないだろう? 特別製の鎖だ」
駄目だ。どうやっても逃げれない。
体を動かしても動く気配がない。うんともすんともしない。
そんな強力な鎖なのか?
いや、この感覚……力が抜けてる?
やばい、意識が薄れていく感覚がある。
「本当に残念だよ」
徐々に視界が暗くなる。
そして、ついには真っ黒になった。
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