第33話 自衛組織とかはだいたいろくなものじゃないと相場で決まっている。
「へぇ……この人が有名な生徒会長様ね」
「って、アンタ流石に見たことあるでしょ。全校集会とかで挨拶とかしてるじゃない」
呆れたようにため息をつく四条。
しかし、これにはやんごとなき理由がきちんとある。
「大体寝てる……」
徹夜でゲームってたのしーのだ。
「アンタね……てか、鼻の下伸ばさない!」
肘でつつかれた、いたいっす。
いや、伸ばしてないですし。
いや、ほんとです、ほんとまじで!
まぁ、しかし確かに鼻の下を伸ばしていたと思われても仕方ないほどの容姿だ。
逢魔は一言で言えば完璧な美少女だった。
人形と見違えるほど精巧に型どられた顔のパーツ。
斎藤のように黒く美しい長髪がスラッと伸びている。
やや小柄と思えるような体躯、それに相反するように二つの双丘がこれでもとばかりに主張。
なんというか男の理想をまるごと詰めこんだような人間だ。
ここまでくると逆に引くね。
あまりにも精巧な作りすぎてストライクゾーンから外れる的な。
そんなことを思いつつも、四条に弁明しようとしたら、
「おっと、夫婦喧嘩はそこまでにしてくれないかな?」
「違うわよ!?」
「そういうの言うのやめてよね。なんかふわっふわっしちゃうじゃん」
ほんとやめて欲しい。
そういうのどう言い訳すればいいか分からないじゃない。
『ち、ちげーし! こんな奴にそんな事思ってねーし!』
と
「おっと、失言だったか。すまないすまない。あまりにも仲睦まじいもので、ついね」
「も、もう、会長ったら!」
やめて!
そこで少し頬を赤らめるのやめて!
勘違いしちゃうから!
君が好きなのはギャルゲー君でしょ!?
「ハハッ、すまないね四条さん。さて、改めて自己紹介だ。逢魔千歳、この学校で生徒会長をしている」
自己紹介をするのは生徒会長のみだが、よくよく見ると後ろに十人ぐらい男が軍隊の如く、横一列にビシッと整列している。
それ、疲れないの?
避難所になってるらしいからもっと人影がいてもいいと思うが、他に人影は見当たらない。
奥の方にはもっと沢山いるのかもしれない。
「四条さんも無事に戻ってくれて本当に良かったよ」
「か、会長もご無事で何よりです!」
お互いの無事を喜び合う二人。
四条と生徒会長の仲は割りと良いらしい。
まぁ、同じハーレムの一員ですもんね。
このないすばでぃーな生徒会長様も、もちろんハーレムの一員ですとも。
まじしね。
「それで問題は……君だね」
尖ったナイフのように鋭い視線。
四条に向けられるものとはまるで違う。
「手荒い歓迎ですね。これは何の真似ですか?」
いきなり会長の後ろにいた男達が輪になるように僕を囲んだ。槍まで握って完全武装である。
「会長!? これはどういうことですか!?」
流石に四条は抗議してくれたが、無視された。というか眼中にすら入れられなかった。
「北原ムンク君、君は大きな罪を犯した」
「へぇ、生徒会長様がまさか僕なんかの名前を覚えてくれてるだなんて光栄だね。ところで人畜無害な僕にそんな大それたことできると思います?」
ええ、何この状況なんか僕悪いことしたんですかね?
冤罪とか勘弁してほしいね。
「ああ、君は何人もの同級生を殺した。とても罪深いことだと思わないかい?」
あぁ、なるほど。
こいつは何らかの手段で僕らがグールを倒しているのを知っているってことか。
「いや、あれは一応正当防衛だと思うんだけど」
あれはどう見ても正当防衛だ。向こうから襲ってきているし。
「過剰だと言っているのさ。殺す必要なんてない」
いやいや、元々奴ら死んでますし。
……いや、もしかしてそうは思ってないのか。
もしくはーー
「でもね、北原君。私は誰にでも償う機会というものがあると思うんだ」
反論してもいいとは思ったが、あまり意味がないか。
この世界がRPGになって死んだ人間がグールになる。そんなこと信じて貰えるとは思えないし。
「君、私達の自衛組織に入らないかい?」
ーーー
体育館にお呼ばれしてほいほいついていったら、まさかの比較的屈強に見える男子生徒に囲まれるという。しかも、槍付き。威圧感がぱない。
「これって勧誘っていうよりは脅迫じゃないんですか?」
こんな大人数で僕のことを囲うなんてひどい。断ったら殺されそうな勢いまである。こわい。
こういうの良くないと思うの。日本の警察かよ。痴漢冤罪とかで自白の強要とするらしいし。
「いやいや、そんなことはないさ。君は私達からしたら立派な大量殺戮者だよ? 対する私たちはひ弱な一般人でしかない。これは当然の処置とは思わないかい?」
嘘つきめ。
大量殺戮者とか仰々しい呼び方をするわりには逢魔は随分と毅然とした態度だ。周りの男達は脂汗を滲ませているというのに。
「大量殺戮者? そりゃ言い掛かり過ぎないですかね?」
彼らの言い分も一応分からないでもない。
でも、それはこの世界が変わる前の話だ。
まぁ、籠城しているのならRPGのようなシステムを知らない可能性だってーー
「知っているよ?」
まるでこちらの内心を察したかのような発言。少しドキリとした。
「私はあの発言が本当で、この世界がRPGみたいになってしまったことを知っている」
は?
だったらなんで?
「会長!? だったらなんでなんですか!? 仕方ないーー」
逢魔が指パッチンしたらどこからともなく現れた二人組に四条はどこかに連れていかれてしまった。どこぞの顎紫芋かな?
え?
冗談は抜きにしても四条もそれなりのステータスを持っているはずなんだけど……しかもパワータイプみたいなもんだぞ。リンゴとか簡単に潰せるレベルの。
それを二人掛かりとはいえ、ああも簡単に連れていけるか?
もしかして、ステータスを取得している奴がいるってことか?
「あぁ、安心してくれ。彼女には手荒なことはしないよ」
私はね、と呟く逢魔。
なにそれ超不安なんですけど。
「自分の手は汚さない的な? だったら、趣味が悪いっすね」
逢魔は僕の発言を気にした素振りすら見せず、強引に会話を進める。
「話が途切れたね、私は世界がRPGになったのを知っている。そして蘇生薬が存在することも知っている」
そうくるか。
「え? するとあれですか? 死んだ生徒達全員に蘇生薬を使うってことですか? 一千万円もするのに?」
蘇生薬は日本円で一千万円もする。常識的に考えてそんな簡単に使えるものでもないはずだ。
しかも、襲ってくるのに?
そんな奴のために大金払うの?
狂気の沙汰としか思えないね。赤の他人にそこまでお金を出せるかっての。
「あぁ、屍人になってしまった方々は申し訳ないが拘束させてもらったよ。なに、彼らも理解してくれるだろう」
「は?」
皮肉混じりの言葉に糞真面目に答えてくるものだから、一瞬思考が追い付かなかった。
「だから、私たちが発見した屍人は全て拘束しているのさ」
案に貴方とは違うと言っているような発言だ。
狂ってる。そう思った。
だってそうだろう?
この学校に何人いると思ってるんだ。下手したら何十億、いやそれ以上かかる可能性だってある。
それを平然と言い切り、ニコニコしたような表情を張り付けてる。そんな彼女は狂気を孕んでいる、いや狂気そのものに見えた。
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