第32話 学園ものだと生徒会長とかがラスボスムーヴするのは何故なのか

「北原君あなたのお仲間よ。お話ししてきたら?」


「え、僕ってあんな感じなの?」



 え、あいつ目の焦点とか滅茶苦茶ですよ?

 そこまでひどくなくない?



「概ねそんな感じね」



 うんうんと頷く四条。

 ええー? そんなー



「四条もさらりと追撃するやめてくれる?」



「あ、アタシもあぁいう奴苦手なのよ! 話して来きてよっ!」



 何度か振り向いて彼女達に不満をアピールしつつ、とぼとぼと歩く。



「ハロー」



 とりあえず言葉が通じるか怪しかったので、国際基準として定評のある英語にしておいた。



「ヒヒヒッ」



 あ、やっぱり駄目そう。



「ヒヒヒッ」



「ワタシ ムンク スーパークールガイ」



「……」



 おい、黙るなよ。こういうときだけ黙るなよ。

 四条と斎藤が後ろでひそひそしてるし。多分ろくなこと話してねーな。


 ほんと、君たち僕のこと虐めるの好きよね。



 ていうかこいつ不気味に笑っているだけで何にもしない。

 何が目的なんだろ?



「えーと、何しにきたの?」



「ヒヒヒッ アルジ オヨビ オマエラ ツイテコイ」



「主? 主って誰なの?」



「アルジ ナマエ オウマチズル」



 まさかの生徒会長様の招待だった。




 ーーーー





「なぁなぁ、生徒会長ってことは体育館に向かってんだよね、これ。」



「まぁ、そうじゃないの? 方向的にも体育館よね?」



 僕らは生徒会長の下僕? につれられて校舎の脇をこっそり移動している。


 僕らが話しかけても録に反応しないし、会話してても気にする素振りすら見せない。


 ちなみに斎藤は逃げた。


 なんでも生徒会長とあまり仲が良くないそうな。


 まぁ、僕も四条を送り届けたら斎藤と合流してこの学校ともおさらばだ。いないところでそこまで大きな問題はない。



「ていうか、こんな人いたの?」

「そう言えば、会長の取り巻きにいたわね……」


 一応、下僕氏に聞こえないようにヒソヒソと話す僕ら。


「あぁ、もしかして生徒会長の騎士団を名乗る変態集団のこと?」


 そう言えば会長の騎士を名乗るやばい奴らがこの学校にいたなあ。

 暴走すると犯罪すれすれのこともするから、危険視されていたような。


「そうだけど……うちの学校ってろくなのいないわね……」


 おいやめろ。

 僕を見てため息を吐くな。



「……」



 話題が尽きると会話が途切れた。僕と四条との間になんとも言えない雰囲気が流れる。

 先に話を再開したのは四条だ。ごめんねコミュ障で。


「その……悪いわね」


 四条がしおらしいのはなんだか新鮮だ。


 普段が高圧的なテンプレツンデレちゃんだからね。



「なにさ、急に改まってさ」



「その、ここまで必要ないのについて来てくれてるし、命だって助けてくれたもの。感謝ぐらいするわよ」


 おお、意外と根は真面目なんだな。


 まぁ、体育館の方には一応個人的な目的もあったりするのであんまり感謝されてもなぁという気持ちもあるが。



「僕みたいなのが美少女様と話せるなんか人生であるか分からないからね。役得さ役得」



「びっ 美少女?いきなり何言ってのよ!」


 え、なんで顔赤らめてるんですかね?


 え、ちょっとそういう反応はやめて欲しい。僕みたいな陰キャはすぐそういう反応に騙される。勘違いして告白とかしてフられるのが目に見えるのでほんとやめてほしい。


 ついでに、フられたらショックで不登校になるまである。




「そんなの言われ慣れてるでしょ?」


 そもそも何を今さら。美少女のイージーゲームな人生を過ごしてきただろうに。



「……流石に周りよりは、自分の容姿がいいとは思っているわよ」



 彼女は恥ずかしそうに顔を明後日の方向に向けた。

 おお、流石に自覚あったか。


『えぇ~そんなことないですぅ~』とか言うタイプの女子とか吐き気とかするからね。


 まぁ、流石に少し言いづらそうではあるが。



「……!?」

 四条は顔をハッとさせて振り向いた。



「ねぇ、アンタもしかしてアタシのこと口説いてる?」



「マサカ。身の程は弁えてるつもりさ。ほら、僕が女の子と付き合えるとも思えないし」



「アンタすごいネガティブなのね……」


 四条は何とも言えない表情をして目を反らした。



 何を言う。僕みたいな根暗ボッチを好きになる女子なんて稀有なんだから、疑ってかかるのは基本だし。


 大体告白してもフられるんだから無責任なことは言わないで欲しいね。



「っと。話している内に体育館もくてきちについたみたいよ」


 僕にとっては大した感慨もない。無駄に大きくて邪魔臭いとしか思えない。

  


 しかし、四条にとっては違う。

 妹を探して、見つからなくて、死にかけて。

 死に物狂いの思いでやっとのことたどり着けた場所だ。

 さぞ、感慨深いだろう。



「や、やっと……帰ってこれた……やっと」



 彼女は目尻に涙を浮かべていた。一言ぐらい余計なこと言ってからかおうかと思ったけど、やめた。

 なにせ、僕は空気の読めるジェントルマンだ。感動の余韻に浸らせてやろう。



 ーーー



 直ぐ出迎えられるわけもなく、体育館の大きな扉の前で僕らは待たされていた。

 こういうのふつー生徒会長とかそういうお偉いさんがすぐ出迎えてくれるもんじゃないの?


 世界がRPGになったとか言ってもこういうところは現実据え置きなんだよなぁ。



「これで、お別れか……」

 空いた時間が急に出来るものだから、ふと言葉が漏れてしまった。少し恥ずい。



「な、なによ? もしかして、寂しいとか言うんじゃないわよね!?」



 頬を少しだけ朱に染める四条。そういうことするからツンデレとか言われるんだぞ。

 まぁ、でもこれで会うのは最後になるかもしれない。

 少しぐらい、ひねくれた僕も正直になってもバチは当たらないか。



「まぁ、その短い期間だったけどさ。君とのパーティーは何だかんだ楽しかったよ。まぁ……僕から言われても気持ち悪いだけだろけどさ」



「そ、そうね! ま、まぁ? その私もアーちゃんといれて良かったし? その、アンタも悪くはなかったわよ……」



 最初ははっきりとしていた言葉も、最後の方には消えてしまいそうなほど萎む。

 消えてしまいそうだったけど、それでもしっかりと聞こえた。



「そっか。君にそう思われていたなら……そりゃ光栄だね」



 悪いとは思ったけど、自然と苦笑が漏れた。

 そんな彼女も僕につられて笑う。

 笑い合う僕と彼女。

 響き合う笑い声はとても、とても心地良い。

 きっと、戦友というのはこういう関係のことを言うのだろう。



 ひとしきり笑うと彼女は真っ直ぐと僕を見つめて、


「アンタ! 絶対生き残りなさいよ!」 



 彼女は見惚れるぐらい眩しく笑う。ニカッという擬音がピッタリだと思える気持ちのいい笑み。


 そして、僕の胸の前に拳を突きつけた。



「うん。絶対なんか約束出来ないけど……それでも、きっと」



 ひねくれた僕が応じられる精一杯の答え。

 こんないつ死ぬかも分からない世界で絶対なんか言えるわけもない。


 でもーー

 それでもお互いの再開を誓い合うように、僕と四条は拳をぶつけ合った。



 ーーー




「やぁ、盛り上がっているところ、水を差すような形ですまないね」



 いきなり割り込む声に、思わず振り向いた。

 なんだよ、空気読んでよ。


 いつの間にか、体育館の堅牢で大きな扉は開かれている。


 そして、扉の先に佇む影が一つ。


「アンタは……」


「か、会長」


「そう、私が会長。生徒会長の逢魔千歳だ」


 そこには、腰まで届く黒長髪を揺らしながら優雅に立つ女性が一人。

 言葉通りなら、生徒会長様がその苛烈な存在を世界に刻み続けていた。


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