第30話 とどめはキチンと刺さないとろくなことにならない




 三日目の朝だ。昨日のおかげか割りと四条の僕に対する態度が柔らかくなっていた。


 昨日までは露骨に警戒していたが、今日の朝なんておはよと挨拶を普通にするぐらいだったりする。


 ちょっと、露骨な態度変更とか止めてよね。惚れたらどうするんですか、全く。童貞はチョロいんだぞ。



「朝からだらしないわねー。男ならしゃきっとしなさいよ、しゃきっと」


 四条の言葉にはどこか親しみがあるように思える。これがデレ? 違うか、違うな。



「いや、いいんだよ。いざという時だけは頑張り……たいなぁ」



「途中で自信なくすのやめなさいよ」



 いやぁ、いざというときも頑張るか怪しいもので。

 背中をバシッと叩かれた。



「痛いっ! 痛いって!」



「ほんとダメ人間って感じねー」


 ケラケラ笑う四条。全く何が楽しいのやら。

 駄目でいいじゃない、駄目だもの。



「おはよう二人とも」



 僕らの声に反応してか、斎藤も起床。

 朝の挨拶をする彼女にはどこか優雅さがある。凄いや、僕なんて気だるさしかない。



「はよ」


「おはよーアーちゃん」


 アーちゃん呼びも板についたね。



「北原くんはもう朝なのだからしゃんとなさい。それじゃあ、まだグールのほうがましよ」



 えぇ、君たちなんか示し合わせてる? なんかに似たようなこと言ってるけど?



 しかし、僕もここまで言われてはだんまりでは男が廃る。



「ぐぅ……」



 いや、駄目だったわ。なんか言い返そうかと思ったけど思いの外なーーーんも出て来なかったわ。せめてもの抵抗でぐぅと言うぐらい。


 ほんと朝はやる気でないわー



「ぐぅの音も出ないのかしらね……」



「北原もうちょい頑張れよ……」


 なんか凄い哀れみの視線を受けた。


 解せぬ。




 ーーーーー



「今日の行動を確認するわよ」



 斎藤氏が議長を務めるのも定番になってきた。

 まぁ、それもいいか。彼女、見た目も性格もはまり役だしね。



「私と北原君は学校からの脱出。四条さんは体育館への帰還。これで間違いないかしら?」



 これで一階を抜ければ外に出れる。地味に長かったなぁ。


 体育館に戻れるというのに、四条は若干気まずそうだ。


 意外とこのパーティーに愛着でもわいているのかもしれない。



「まぁ、そうね。あれだ校舎の外は未知数だ。出来る限り慎重に行こう」



 外の世界は本当に何があるか分からない。


 初日なんて巨大なドラゴンが現れたぐらいだし、警戒するに越したことはない。


 太刀打ちすら出来ないモンスターがいる可能性だってあるのだ。



「北原がまともなこと言ってる……」



「ええ、北原君は自己保身能力だけは長けてるもの。きっと、肝心なところでも敵前逃亡するタイプよ。たぐいまれなるヘタレね」



 ええー


 もっとこう、思慮深いとかそういう言い方をして欲しいね。




 ーーーー



「うへぇ……この階は特にひどいわね」



「そうね、避難するには必ず一階を通らなければいけないから必然ね」


 一階は目も当てれないぐらい荒れていた。


 昨日は到達した時は日も落ちかけていたからあまり気にならなかったけど中々にデストロイ。


 窓ガラスは割れ放題だし、景気よく血を撒き散らしすぎ。



「モンスターもいないって……わけじゃないか」



「あいつは……何?」



 そいつは憮然とした態度で廊下のど真ん中を堂々と進んでいた。


 初めて見るタイプのモンスター。


 鎧だ。全身鎧。ベースは中世のプレートメイルだけど、所々に無駄に尖ったデザイン。肩とか頭とかには捻れた角みたいなものが飛び出てるし。時々思うけど、その刺々って何か意味あるの?


 疑問はさておき、装備はしっかりとしたもの。右手にロングソード、左手にラウンドシールドと完全武装だ。



「人かしらそれともモンスターなのかしら?」



 そうか、一応人の可能性もあるのか。

 そりゃそうだ。

 こういうときはあれだ。解析スキルにお任せだな。




 メイルアンデッド


 Lv :15



 HP 200


 MP 3


 SP 30



 筋力 60


 耐久 40


 知力 1


 敏捷 10


 集中 2


 運  0



 Skill【斬撃スマッシュLv7】【防御態勢ファランクスLv7】





「っ! 強い! 斎藤、四条構えて!!!」



 レベルも高ければ、ステータスも高い。筋力の数値なんてオークよりも高い。

 油断してかかったら、負ける可能性だってある。



 出来れば戦いたくないが、当然見逃してくれるわけもない。

 アンデッドが駆けた。こいつアンデッドの癖に早い。ゾンビが走るなよ。



「チッ」



 スキル虚栄心で影分身をつくり、走らせる。 


 アンデッドは分身に剣を振り回すが、虚しくすり抜けるだけだ。


 大した知能は有してない?

 分身だということに気づく気配はない。



「四条! 前に! 斎藤魔術準備!!」



 分身が時間を稼いでくれている間に態勢を整える。

 僕らのパーティーは四条が盾役タンク、斎藤が後方支援。そして僕が遊撃という感じの役割分担だ。色々試したがこの形が一番しっくりくる。



 アンデッドにそのまま隣接し、四条が大斧を振り下ろす。


 そのまま分身と戯れていれば御の字だったが、流石にそこまで甘くない。


 斧を受け止めようと、剣をーー



「……!?」



 ふふっ、分身に夢中で気がつかなかったみたいだね。

 彼の腕には鎖がグルグルと絡みついていた。


 剣を振り上げようとしても、僕の手に繋がる鎖に引っ張られて動かせない。

 スタイリッシュな鎖の使い方? 何それ食べれるの?

 例え、SMプレイとか言われても! 勝てば! いいんすよ!!




 アンデッドはならと、動かせる方の腕でラウンドシールドを斧につきだそうとするが、


初級氷魔術エイス!」


 斎藤から放たれた氷塊がシールドを弾き飛ばした。




「でやあああああああ!!!!!!!!」



 轟音とともに斬撃スラッシュがアンデッドの胴体に叩き込まれた。こりゃ、もろに入ったな。



 アンデッドは勢いよく壁に吹きとばされて動かなくなった。



「ふん! アタシにかかればこんなもんよ!」


 四条は鼻唄混じりに斧を器用にくるくる回す。


 えぇ、なにその無駄な技術。

 ファイナルなファンファーレでも流れそうですね。




「四条さん!! まだ!!!」




 ……え?



 気がつけば剣が飛んでいた。地面との綺麗な平行線を描きながら真っ直ぐと。


 線のぶつかる先は四条の頭。



「……あ」



 駄目だ。虚をつかれて四条は反応出来ていない。

 斎藤の魔術も発動に時間がかかるから間に合わない。

 僕も全力で駆けて間に合う距離じゃない。


 糞、あの黒ゴブリンのように鎖が使えれば……。

 投擲するように、鎖があの短剣を弾き飛ばせれば……!


 そう悔やんだ瞬間、少しの気だるさと共に鎖が駆けた。

 今までサボってたと言わんばかりの、目にも止まらない速さ。



「……!?」



 陶器がぶつかり合うような音。鎖は剣を弾き飛ばしたみたいだ。


 ま、間に合った……?



「北原君!」


「!……くたばれ!」


 斎藤に叫ばれ、ハッとする。

 危ない危ない。止めはキチンと刺さないといけない。


 そのまま短剣をアンデッドに向けてぶん投げる。


 短剣は吸い込まれるように首元に突き刺さり、今度こそ動かなくなった。 



『レベルアップしました』

『投擲がLv.4になりました』

『加速がLv.3になりました』


 お、久しぶりだ。

 てか、この二つのスキルが上がってるのね。

 ということは、さっきの鎖の動作は投擲と加速スキルを組み合わせて発動したってことかな?


 まぁ、考察は後回し。

 四条の安否確認が優先だ。



「全く気を抜かないでよね。って聞いてますー? 四条さーん?」



「……え!? あ、うん! あ、ありがと……」


 四条はボーッと虚空を見つめてると思ったら、いきなり我に帰った。


 流石に恥ずかしかったのか、顔に少し赤みが出ている。


 いやぁ、美少女の羞恥顔は目の保養になりますわ。



 ーーーー



「で、今度は何さ」



「私の方が聞きたいくらいよ」



 斎藤は頭を押さえた。そんな眉間を寄せてると皺残っちゃうぞ☆

 日頃から苦労してそうだなぁ。




 まぁ、ここまで矢継ぎ早に色々起きると頭痛がしても驚かないね。


 僕もため息を吐いたぐらいさ。



 僕たちの目の前には異様な肌の白さが目立つ同級生が立っていた。男であそこまで肌が白いのは珍しい。



「ひひっ」



 そいつはお子さまランチに刺さっているような小さな白旗を、手で摘まんで不気味に笑みを浮かべている。


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