第29話 僕の扱いが日に日に雑になっている件について。運営さん仕事して? ほんとまじで。まじで!




「綺麗に落ちがついたなぁ」


「うぅ……」


 とまぁ前衛で戦うという、僕には特にない大変勇ましい意気込みを見せた四条。

 しかし、大斧なんて重いものをまず持ち上げられないという事案にぶち当たった。



「うぅー……」


 あそこまで強気を示していた四条も流石に赤面している。トマトみたいだ。


 まぁ、気持ちは分かる。僕だったら一週間は引きこもるね。何もなくても引きこもりたいけどさ。



「四条さん気落ちしないで。これからレベルを上げていけば扱えるようになるはずよ」



 おぉ、斎藤さんまともなフォロー出来るんですね。コミュニケーション能力の成長を感じる。少し感慨深いぜ。



 まぁ、そもそもさっきまで普通の女子高生だった人だ。それが、自分と同じくらい大きい斧を振り回せたら怖いなぁ。

 少なくとも僕はそんな世紀末みたいなところは御免被る。



 僕なんかゴリラに握られたリンゴの如く、一瞬でジュースだね。




 そうして始まった四条の地獄のレベル上げ作業。

 斎藤の指導は、教育ママ顔負けのスパルタ具合だったが何とか四条は耐え抜いた。

 もう色々と、涙とかその他もろもろ垂れ流していたけど。



 しかし、意外にも四条のレベリングは初回のゴブリンとは違いかなり順調に進んだ。

 スパルタの甲斐あって、四条のレベルはトントン拍子で上がっていた。



 ーーーー



「いけっ! 増幅するアルブチェイン!」


 鎖が走る。 

 対峙するのは世界と女騎士にこよなく愛され続けたオークさんだ。

 緑色の肌とたっぷりしたお腹がチャームポイント。巨体過ぎるのがたまに傷である。



 ぽよよん。



 悲しいことに、僕の鎖攻撃はいまだオークさんのお腹をポヨンポヨンさせるだけである。ぽよよん。



「グオオオオオオオオオオオ!!!」


 当然、オークさんは激昂した。小馬鹿にされたと思ったっぽい。

 違う……これでも、真剣なんですよ……。



「北原君! 何遊んでいるの! とっとと、前に出なさい!! 氷初級魔術エイス!」


 僕の失敗を尻拭いするように、斎藤から氷塊が放たれる。

 オークは棍棒ではたき落とすが、その隙に僕が近接する。

 オークの真正面を向かないように、立ち回る。上手く移動して、隙があれば短剣で斬る。

 移動しながらだと、大したダメージは与えられないが、引き付けることは出来る。



「四条さん!」



 待ってましたかと言わんばかりに、四条が体操選手顔負けに跳躍。

 流麗で、まるで秒針が弧を描くように回る。

 くるっと。

 空中で一回転までしている。


 そして、目一杯遠心力を利用した斧が遅れて走る。鈍く、獰猛に顔を見せる斧刃。

 大きく縦に一閃。



「らあああああああ!!!!!」



 一際大きい轟音。

 もろに一撃を貰ったオークに耐えられるはずもない。

 オークは力なく、仰向けに倒れる。

 そして、絶命した。



 ーーーー





 結論から言うと四条のレベルは10まで上がった。


 いや、これが3人パーティーだと戦闘効率が段違いにいいのよ。


 一人でこそこそと後ろから刺していた時とは大違い。もうあの苦労はなんだったのやら。


 今なら昔は大変だったとのたまう老害の気持ちが解る! くっそ、うらやましい!


 でも、流石に老害にはなりたくないので自重。



「ふぅ。なれるものね」


 そのツインテールを風になびかせ、憂いな表情を浮かべる四条。もはや、歴戦の戦士のような雰囲気を醸し出していた。


 肩に何にも負荷もないかのように担ぐ大斧が余計にそう感じさせる。



 まぁ、オークまで倒せるようになったしなぁ。そんな雰囲気が出るのも納得する。



 あれ? 僕のほうが一応レベルは高いよね? でも、なんか全然強そうなんですけど。世界違くない? 世紀末覇者的な感じなんですけど。



 あと、校舎内なのになんで風が吹いてるとか無粋なツッコミはいれないこと。



「まだ、二日もたってないのね」


 斎藤も四条のように、その長いロングヘアーを風で揺らしながら呟いた。


 なに、その風になびかせる奴。流行ってるの?



 それはさておき、決して薄くはない日々を過ごしているように感じている。


 世界が変わってからそれっぽっちしか時間が進んでいないのかと割りと動揺した。


 え? それっぽっち? まじかー。



「四条さんジョブはどうかしら」



「いい感じね! 斧も持てるようになったし!」



 四条の初期ジョブは戦士だった。

 戦士は剣や斧を使って、敵と真正面から対峙する職業。女の子には不人気だろう。


 しかし、彼女はレベル一○になっても転職せず戦士でいることを選んだ。

 わざわざ、女の子が前衛職選ぶなんて酔狂だ。

 性格とかもあるが、彼女はガチャで引いたリボンつき斧に大変ご執心の模様。


 四条美琴

 Lv.10

 job :戦士Lv.4


 HP 300(+50)

 MP 15(-5)

 SP 30(+10)


 筋力 17(+2)

 耐久 18(+3)

 知力 7(-1)

 俊敏 9(-1)

 集中 12(+1)

 運  7


 適合武器:剣、斧、槍

 Skill:【解説】【隠蔽Lv.1】【索敵Lv.1】

   【解析Lv1】【斬撃スラッシュLv1】

   【咆哮ウォークライLv.1】【防御体制ファランクスLv.1】


 称号 【ツンデレ】



 ちなみに斎藤は四条にも一○○○G渡した。


 四条は混乱して僕と似たような反応をしてくれた。


 そうそう、これだよ。普通そんな大金渡されたらこういう反応になるの。


 斎藤さんまじぱねぇ。



「……」



 おもむろに四条を見ても、特に外見的変化はない。斧を振り回せるようになったとしても、外見的変化は一切無いのだ。普通だったら筋肉ゴリラやぞ?



「あんまり……! ジロジロ見るなしっ……!」

「北原君、セクハラはやめさいな。警察が機能していたら即座にブタ箱逝きよ?」



 僕の扱いも相変わらず酷い。運営さん? 運営さんちゃんと仕事して?

 そんなのいないだろうけど、僕にもチートでハーレムな生活させて?




 しかし、四条のステータスやばいな。これ僕とかワンパンで死ぬんじゃない? まじゴリラ。


 睨まれた。ごめんて。



「日も落ちてきたし今日はここまでね。ちょうど保健室があるからそこで今日は休みましょう」




 ーーー



 四条のレベルアップと平行で僕らは下の階へと降りて行った。


 基本的に3階も2階もゴブリンとグール、オークぐらいしかい。1階までたどり着くのにさしたる苦労もない。


 1階の中でも何故か保健室は特に荒らされていなかった。モンスターが入った様子もない。


 あれかな保健室特有の殺菌された臭いが効いたのかな。



 不安は残るが、モンスターが寄らない保健室は休息にちょうどよかった。



「うへぇ……北原も一緒なの……?」


 端正に整った顔を歪めてベッと舌を出す四条。

 そう露骨に嫌な顔しないでよ。

 もっと、おじちゃんと仲良くしようよゲヘヘ。


「安心なさい四条さん。この男にはそんな度胸なんて微塵もないわ。ヘタレだもの」

「あ~ぽい」


 それで、納得しちゃうんすね。泣くぞ。



 まぁ、いいや。

 冷蔵庫あるから漁ろ。  


「メンタルが鋼なのかどうか分からなくなるわね……」


 斎藤うるさいぞ。

 どうせ、好意なんか持たれないからいいんですー! 

 強がりじゃないです。ほんと、まじで。くすん。

 お、冷蔵庫にパンとかも入ってた。やったね!



 腹を満たしたら例のごとくすぐ寝ることになった。明かりはまだつくみたいだけどモンスターが寄ってきたら嫌だし。



「明日に備えて、もう寝ましょうか」


 斎藤はそう言って、欠伸を手のひらで器用に隠す。欠伸なのにどこか上品さがあるのは何故?


「……」


「四条さん……? 聞いてた?」


 上の空だった四条が慌てて、斎藤に応答した。


「えっ!? あ、あぁ、うん! 寝るんでしょ! あ!そうだ! アーちゃん一緒に寝よ~!」


「ちょ、ちょっと、四条さん。だ、抱きつくのやめて」


 目の前に広がる百合フィールド。

 何これ尊い。斎藤も嫌とか口では言いつつ、満更ではない模様。


 四条の様子がどこか変だったけど……。

 まぁ、いいや。今夜は保健室だからベッドがある! うっひょー! 



 え?



 身の危険を感じるからお前は縄で動けないようにする?



 え? 



 冗談じゃない? 



 そんなー

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