第25話 ツンデレとか全然趣味ではなかったけど、目の当たりにするととても良い文明だと思う

 





 期待に胸を膨らませていた新武器は単なるSMプレイ用の道具にしかならなかった。

 なんだよこれ……この鎖を使って『ほら! 良い声で鳴きなっ!!』とかSM嬢の如く、叫べばいいの?

 しかも、その相手がオークとか、あんまりマニアック過ぎる方向に行かないで欲しいんですけど……。



「もういい。普通に倒す」



 鎖はとりあえず保留で短剣を構える。今まで通り、レベル差と武器の性能でごり押ししてやる。



 しかし、相対するオークは腕をだらりとぶら下げて、虚空を見つめていた。

 流石に呆れられただろうか。



 いや。いや、



 胸部が不自然に膨らんでいる。

 息を吸い込んでいる?

 なんで?


 矢継ぎ早に疑問が浮かぶが、その答えはわりとすぐ帰ってきた。



「ギィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」



 アガッ



 なんだこれ。体が痺れる。身体中を洗濯機でかき回されたような感覚だ。動かない。これっぽっちも動かない。声すらでない。


 単なる咆哮?


 スキル?


 ステータスにあった咆哮ウォークライか?


 そんなことより不味い。身動きが取れない。これじゃ袋のネズミだ。



 オークは哀れなネズミ目掛けて、大剣を振り下ろす。



「ぐぅっ!?」



 バッティングされたボールのように吹き飛ばされて地面を転がる。痛みはほぼないが、不快感は拭えない。



 HPはかなり減ったか?



 HP 180/280



 かなり減ってんなぁ!?

 後、二発も食らえばHPが無くなる。やばい、死ねる。



「くっそ……行動停止スタンとかずるいでしょ……!」



 自由を奪って殴るなんてっ!

 そういうのが許されるのはツンデレ系美少女と相場で決まっている。生まれ変わって出直して来て欲しい。



「ギィア! ギィア!」



 オークは醜い顔面を更に歪ませた。笑ってる……? あれで笑ってるのか。小憎たらしい顔しやがって。



「ギイィィィ…………」



 また、あの体勢だ。

 大きく息を吸い込み、不自然なまでに胸部が膨張している。

 不味い。そう何度も喰らえば簡単にあの世行きだ。



「くっそ、馬鹿の一つ覚えみたいにやりやがって!」



 苦し紛れに悪態をつくが、そんことをしたところで事態が好転するわけでもない。



 一か八かだ。

 短剣を強く握り、前へつき出す。やられる前にやるしかない。

 まだ、試運転すらしていないが名前の通りなら上手くやれるはずだ。

 あの戦いで得た、



 スキル【加速】



 瞬間、一筋の流星と化した。

 元々ステータスで強化されていた速度が更に上がり、流星といっても過言ではない。

 目に見える全ての景色が駆け抜けていく。



「ギィ……ギィ……ァ」



 肉を潰すような不快音。



 短剣はオークの腹部に真っ直ぐ突き刺さり、ついには突き抜けた。

 オークは力なく仰向けに倒れ、ピクリとも動かない。絶命だろう。



「はぁはぁ……わりとヤバかった……って、あれ?」



 勝利の余韻に浸る間もなく、立ち眩みが襲いかかってきた。

 加えて、とてつもない疲労感が襲ってくる。倒れてしまいそうだ。

 駄目だ。倒れる。倒れた。



「床って意外とひんやりしてて気持ちいいなぁ。もう、あれ。チーズ蒸しパンにでもなりたい」



 もうあれ。疲れて何もしたくない。ついでに将来も働きたくないでござる。


 まぁ、下らないことを言っているが正直、状況は芳しくない。ほら、この状況だとモンスターとかにフルボッコにされるだろうし。



 と思ったら何かの気配。モンスターでないことを祈るのみである。



「貴方は床に這いつくばって何やってるのかしら? あまり、特殊性癖に目覚めないでもらいたいのだけれど」


 そこには様子を見に来てくれたであろう斎藤が、呆れたように僕のことを見下していた。


 なんというか、その人をゴミのよう見るかの如く視線は一部の紳士達に人気ありそうですね。



 ーーー



「ふぅん、それで倒れていたということね。てっきり、変態行動アブノーマル・プレイに目覚めたのかと思ったわ」


 僕が急に倒れたのはスキル【加速】を使い、SPがゼロになったことが原因だったみたい。

 SPやMPは現実にある体力と同じような考えで、使いきれば倒れるようだ。

 何それ、この世界無駄にシビアじゃない?



 それはさておき、SPはショップで回復薬が売っていたので購入し、回復させておいた。もう問題なく歩ける。

 ちなみに、斎藤が買ってくれた。ついでに予備まで。かたじけねぇ。



「えぇ、なんでこんな状況でそんなのに目覚めるのさ。普通に考えて戦闘でしょうよ」


「いえ、思春期の男子って大変なのでしょう?」


 まって。

 まって、それは偏見だ。

 別に高校生男子がいつも卑猥な妄想に思いを馳せているわけではない。ほんと、まじで。

 世界平和とかテロ撲滅の実現のため、授業を犠牲にして色々考えているのだ。

 その他? 特にないっすね。



「それで、四条氏の洗脳は解けたの?」



 信念せいへきの話より、そっちの方が優先だ。その結果如何によっては今後の行動も変わるだろうし。



 結論から言うと洗脳は無事解けたらしい。


 しかし、そのツンデレ具合は健在。斎藤に連れられた僕が、教室に入ると四条は不機嫌に顔をしかめてそっぽを向いてしまった。



 解せぬ。



「それで四条さん。気分どうかしら?」


「あ、うん。少しふわふわした感じはあるけど、もう大丈夫。色々とありがとね」


「そう。ならいいわ」



 斎藤は満足そうに微笑を浮かべた。四条の状態はもう問題なさそうだ。これで、もうビンタされないといいなぁ。


 ちなみに、洗脳解除のついでに今の世界の状況について一通り説明しておいたらしい。


 最初は正気かどうか説かれたらしいが、そこは魔術を見せたら一発で反論しなくなったそうな。


 魔術さんまじぱない。



「あ、あの、これからどうするの?」


 四条は不安そうだ。そりゃそうだ。こんなモンスターが暴れまわる世界なのだ。不安にならないほうがおかしい。



「そうね、まず現状把握がしたいところだけれど。四条さん、貴方が現状で知っていることを話してくれないかしら?」

 

「分かったわ。あ。でも、ちょっと待って」


 四条は会話を遮ったと思ったら、ずかずかと大股で僕の前に来た。

 そして、仁王立ちして僕を睨み付ける。



 女の子としてそれはどうなんだろうか。



 てか、近い。いい臭いする。ときめいちゃう! ときめいちゃうからやめて!



「一応礼は言っておくわ! あんたのやったことは気に食わないけど助けられたの事実だからね!」



 フンッとテンプレのように鼻息まで鳴らした後、踵を返して斎藤のほうに行ってしまった。



 おお、ナイスツンデレ。

 あれだ、ツンデレも悪くないね。




 ーーー

 北原ムンク

 Lv.17

 job :詐欺師Lv.5


 HP 310(-10)

 MP 20(-5)

 SP 40(+5)


 筋力 19(−3)

 耐久 13(−4)

 知力 12(+1)

 俊敏 35(+5)

 集中 27(+4)

 運  2


 適合武器:短剣

 Skill: 【痛覚無視Lv.5】【感情制御Lv.5】

   【舌回Lv.7】【戯言Lv.7】【投擲Lv.3】

   【隠蔽Lv.8】【探索Lv.2】【解析Lv.5】

   【背刺Lv.4】【身体能力Lv.5】【猫騙Lv.2】

   【虚栄心Lv.2】【鎖操作Lv.2】【加速Lv.2】

   【解説】

 称号:【決断者】【ニート】【亜人種Ⅰ特効】

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