第24話 強敵が仲間になったり、敵の技を自分が使うと極端に弱くなる仕様は絶対に許さない。


「逢魔千歳って、あの有名な?」


「ええ、その想像で合っているわ。この学校でその名字は彼女しかいないもの」



 そもそも逢魔なんて名字、日本でもほとんどいないのではないだろうか。



「でも、その生徒会長様がなんでまた、洗脳なんて七面倒なことしてるの?」


「それは分からないわ。というか、私も知りたいぐらいだもの。こんな自殺推奨洗脳に合理性があるとは思えないわ」



 自殺推奨洗脳とかわけわからんワードを耳にする日が来るとは思わなかったんですけど。

 しかし、考えれば考えるほど謎だ。

 仮に洗脳が本当だったとしても、何故そんなことをするのかが理解出来ない。

 襲い掛かってくるグールを殺すな、なんていたずらに被害が拡がるだけだ。



 むしろ、そう誘導したい?



 いくらなんでもそんな訳ないか。

 斎藤も腕を組み、首を傾げている。彼女でも理解出来ないものを、これ以上考えても無駄かなぁ。



 それよりも気にすることは別にある。



「四条だっけ? あの子はどうするの?」



 目下の問題はこれである。

 あのツンデレツインテールちゃんをどうするかである。僕にデレは微塵も無いけど。 



「彼女はその……一応とも……知り合いなの」 



 わかるわかる。友達って自分で言うの恥ずかしいよね。もしかして、違ったら恥ずかしくて不登校になるレベル。

 さては、斎藤氏もぼっちだな?



「連れていくのは構わないけど、一々グール倒すときに何か言われるのは少しだるいなぁ」



「だから、彼女の洗脳は私が解除するわ。いざという時のために、一応そういう心得もあるの」



 何それ怖い。いざっていう時ってなんなんですかね?

 金持ちの考えることはよく分かりませんわ。






「少し時間がかかるわね……邪魔だからそこら辺ぶらついてていいわよ」





 僕が言うのもあれだけど、そういうキツい言い方するから友達が出来ないんだと思うな。僕は紳士だからそう言うのは口に出さないけどさ。





 ーーー



 ぶらつけと言われたところで、行き場所なんてろくにない。

 手持ちぶさたに廊下を彷徨くも、モンスターすら現れない。視界に入るのはせいぜい割れた窓ガラスぐらいだ。まじ世紀末。

 行き場所が本当にない。

 きっと、休日のお父さんはこんな気持ちだったのだろう。結婚とか出来なさそうだから心配する必要ないんだけどさ。クスン。



「逢魔ねぇ」



 手持ちぶさたが極まると、思考は自然と話題の彼女の事柄に誘導された。


 あまり人覚えの悪い僕ですら知っている超有名人。

 有名財閥の一人娘でこの高校の生徒会長。眉目秀麗で文武両道。コミュニケーション能力も高くTHEパーフェクト人間だったりする。


 あと、あれか。


 ハーレム王のハーレム集団の一員か。彼女はハーレム王(笑)にメロメロなのだ。


 自分で言っていて難だが頭が痛くなるような集団だなぁ。

 でも、本当にあるんだから仕方ない。

 嘘だと思うじゃん? あるんだよなぁ、これが。


 ほんとに見たときは目を疑ったね。現実にあるんですね、あぁいうの。今でも信じられない。

 一人の男にテレビに出てるようなアイドル顔負けの美少女がワラワラと寄って虜になってる。そして、男は絵に書いたような鈍感だもんなぁ。


 まじテンプレギャルゲー主人公スタンダードタイプA。



 そう言えば四条みたいな女の子もあのハーレム集団に要るのを見たことあるような気がする。




「グガァ……ギィ……」



 とそんなことをうだうだ考えていると、いつの間にか人影。

 人というかなんというか。そいつの体格は人をゆうに越えていて三メートル近い。肌も乳白色ではなく、黒みが混ざった緑黄色。


 つまり、まぁ多分オークっぽいモンスターが目の前で唸っていた。



 ーーーー




 そいつはいかにもオークって面と体格だった。不細工に歪んだ顔面。天井に届くであろう巨体に、でっぷりと膨らんだ腹。三段腹である。



「どう見てもオークです。本当にありがとうございました」



 ゴブリンにしてもそうだけどゲームの設定で出てくる特徴と大体一致している。違うところと言えば棍棒ではなく大剣を持っていることぐらいだ。

 狭い廊下を窮屈そうに闊歩している。なら、わざわざ来なくてもいいのにね。

 それなのに、わざわざ来るなんて何かいい事でもあったの?



「飛んで火に入る夏の虫、的な?」



 違うか。違うな。

 ともかく、丁度おあつらえ向きの敵が現れた。向こうも敵意丸出しみたいだし。

 新たに手に入れたぶきとスキルを試せそうだ。



 増幅するアルブチェインと【鎖操作】。


 この二つを組み合わせれば上手く戦闘の幅を広げれる気がする。あの黒ゴブリンのように使えれば近距離から中距離の戦闘までカバー出来るはずだ。



 とりあえず、ステータスを確認する。これで僕より格上なら即逃走だ。



 オーク

 Lv.12


 HP 300

 MP 3

 SP 20


 筋力 40

 耐久 20

 知力 1

 俊敏 5

 集中 10

 運 2

 

 skill 【打撃スマッシュLv.5】【咆哮ウォークライLv.5】



 とりあえずレベルは僕のほうが上のようだ。一安心。筋力はヤバイので要注意。




「グオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」



 オークさんが吠える。あまりにも怖いから『さん』とか敬称つけちゃったよ。



 てか、唾くっさ!? 撒き散らさないでのね、ほんと。



 とりあえず、怖いのでスキル【虚栄心】を発動させときますね。



 わぁ。



 あの大剣、成人男性の身の丈ぐらいあるんじゃないだろうか。勢いよく大剣が僕に向けて振り下ろされるが、すり抜けた。



 さてさて、隙が出来たので新武器と新スキルのお披露目だ。



 増幅するアルブチェインをボックスから取り出す。鎖は蛇のように腕に絡みつく。まるで、生きているかのようだ。



 スキル【鎖増幅アルブ】を発動。鎖が二つに増えた。



 このスキルは増幅するアルブチェインを装備したら手に入ったものだ。武器固有技能ウェポン・アビリティと言うらしい。


 SPを10消費して鎖を増やしてくれる優れもの。いいスキルだと思うけど二本目以降はSP消費量が倍増するそうな。使いどころに悩むね。



 準備万端。イメージするのは黒ゴブリン。荒れ狂う鎖。鎖嵐。



 北原選手! 満を持して! オークに向けて鎖を走らせました!




 ……






 …………






 ………………




 え?

 鎖は確かに望んだ方向に進んださ。

 だけど、貫くなんてとんでもない。

 せいぜいオークの腹をペチペチと叩いたぐらいだ。



 え? こんなもん?



 何度も頑張って操作するが、やはり鎖はオークの腹をペチペチと叩くだけだ。



 心なしかオークさんも目を点にさせてるように見える。

 期待して発動させた新スキルが肩透かしにもほどがある件について。

 もうね、黒ゴブリンとかもっと格好よく使えてたじゃん。



「…………」



 オークと僕の間にあるなんとも言えない沈黙がいたたまれない。



 その、あの。なんかごめん。

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