第19話 危機的状況で新たな力を発現させたのだから英雄と言っても過言ではないだろうか? 例え、違ったとしても今だけはそう思うことにする。



 英雄ヒーローに憧れたのはいつの事だろうか。

 そして、自分にその素質がないと気づいたのはいつの事だろうか。

 別に、自分のことは嫌いじゃない。自分でも残念と思えるほど拗らせた性格だって気に入っている。中途半端な容姿だって割と好きだ。


 僕は英雄ヒーローじゃあない。

 なら、僕は立ち上がらなきゃいけない。

 英雄は勝手に周りが認め、称賛してくれる。

 でも、僕は?

 誰も助けてはくれないし、そもそも見向きもしてくれない。


 だから、僕は立ち上げらなければいけない。

 他の誰でもない自分の為に。

 このちっぽけで親愛なる僕を好きでいる為に。


「へへっ……全く冗談キツいよ。ピンチの時の覚醒は勇者とかの特権だろうに」


「おいおい! あれ喰らってまだ立ちあがれんのかよ!!」


「簡単に言ってくれるよ。こっちはもうボロボロだっつーの」


 ほんと、簡単に言ってくれる。

 正直、もう本当にボロボロだ。HPだってもほとんど残っていない。視界の右端にはHP40/250。ほんとギリギリだ。


「まあ、てめぇはよくやった方だと思うぜ。称賛してひと思いにやってやるよ」


 四本の鎖が縦横無尽に迫る。その一本一本が致命傷になるだろう。


 駆ける。

 こんなところで死ぬわけにはいかない。

 上手く弾いて、転がれば万が一にでもかわせるかもしれない。


 一本目は何とか身をよじってかわせた。

 二本目、三本目は短剣を駒の様に回転させて弾いた。

 四本目が迫る。

 駄目だ。もうかわせない。

 弾いた反動でほとんど体が動かない。


「ああああああああああああああ!!!!!」


 鎖は僕の脇腹を貫いた。遂にはHPの防御膜を越えられた。

 熱い、痛い、熱い、痛い。

 糞。何で僕がこんな目に。


 HP3/250。

 HPはまだ残っている。雀の涙ほどだがまだ残っている。

 残ってて貫通する辺り、万能ではないのか。クソ。



「おいおい、往生際が悪いなぁ。勝負はもう着いてんだぜ? 男なら潔くいけよ」


 ゴブリンは諦めの悪い僕を見てうんざりしている。悪かったね。でも、これは譲れないねぇ。


「いやいや、生憎僕はプライド様を母親のお腹に置いてきぼりにしたタイプの人間でね。そんな事どうでもいいんだよ。それにほら安○先生だって、諦めたら試合終了って言ってるでしょ?」


「あっそ、もういいわ。死ね」


 ゴブリンはもう興味がないと言わんばかりに吐き捨てた。


 四本の鎖が僕目掛けて一斉に降り注ごうとしている。

 これをかわすことはもう出来ないだろう。


 詰みか。


 あぁ、でもこんなところで終わるのは悔しいなぁ。やっと前向きに生きようと思えたのに。この世界なら、このぶっ壊れてしまった世界なら僕は楽しく生きれると思ったのに。


 あぁ、くやしい。


 ……


 …………


 ……………………は?


 いや、悔しいじゃねぇよ。何言ってんだよ。


 いや、なんで僕は諦めてんだ? やっと変われるチャンスを得たのに。いや、変わりはじめているのに。


 沸々と怒りが沸き上がる。自分に対してだ。何やってんだよと。


 まだだ! まだ頭は回る! 身体も動く! だったら足掻くべきだ。いや、足掻きたい!!


 神でも悪魔でも仏でも、美少女でもいい! 何なら幼女でもいい!! 何でもいい! 

 僕を! 僕を生かしやがれえええええええ!!!!!!!





『スキル【舌回】【戯言】を使用した事によりジョブ:詐欺師のレベルが5になりました。』

『スキル【猫騙】【虚栄心】を取得。』


『【猫騙】を使用しますか?』


 そいつは神でも悪魔でも、ましてや幼女ですらない。単なるシステムの通知でしかない。


 だけど。だけど僕はこれに全てを賭けるーーー!!




 ―――




「あぁん? てめえ……何で全部かわせたんだ?」


 結論から言えば、僕はまだ生きている。

 かわしたわけじゃない。

 このスキルのおかげだ。


 スキル【猫騙】


 手を叩くと相手の攻撃が外れる……といいなぁ。


 相変わらず、解説の説明はむかつくが、このスキルのおかげで鎖は全て僕から逸れた。かわしたのではなく外れただけ。


「ふふっ……あんまり見せたく無かったんだけどね」


 何がふふっだよ。無いのはこの言葉の中身ぐらいである。

 まぁ、だが無駄に手の内を晒すこともない。なら、この胡散臭いこと極まりない返答も悪くないのかもしれない。


「さぁ、奥の手まで見せたんだ。これで君の勝ち目はもうないよ」


「今まで舐めてたのかよ!? クソ! この野郎おおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 ゴブリンが激昂すると同時に、僕も駆ける。

 お互いにもう体力は限界。やるなら今しかない。


 駆ける。


 鎖がうねる。

 しかし、鎖は僕を逸れて、関係ない床に突き刺さるのみだ。


 一本。


 二本。



 猫騙を発動させた時、響く乾いた破裂音がそれを嘲笑っている様にも聞こえる。


 三本、四本!


 もう、鎖は全てかわした! 呼び戻しても間に合わないだろう。

 そして、僕と彼の距離は目と鼻の先。

 これで決めてやる。ここしかない。


「まだだ! まだだああああああああああああああああ!!!!!!」


 ゴブリンは更に激昂する。

 感情に呼応するかの様に、鎖が破裂する様に現れた。数にして十以上。


 ゴブリンの口端が上にゆっくりと上がる。

 勝ちを確信した顔だ。


 奇遇だね、


 放たれた十を超える鎖達は何の感触も得ず、通り過ぎていく。


 そうなると

 どうせ追い詰めれば、更に力を引き出してくると思っていた。

 だから、新しく得たもう一つのスキル虚栄心を事前に発動させておいた。


 このスキルは簡単に言えば、僕の分身を作ってくれるもの。実体はないから立体映像の様なものだ。


「あ……?」


 ゴブリンの瞳が大きく見開かれた。あり得ないと言わんばかりだ。

 気づいたところでもう遅い。もうすぐ後ろにいる。


「あああああああ!!!」


 叫ぶ。

 背後から、首目掛けて短剣を振り下ろす。


「クソがああああああ!!」


 苦し紛れの怒号とともに、もう一本の鎖が現れた。


 !?

 こいつ! まだ出せるのかよ!?

 鎖が先か、短剣が刺さるのが先か。

 もう祈るしかない。


 だけど、僕は一つ忘れていた。

 僕には頼れる仲間。パーティーがいることを。


氷初級魔術エイス!!」


 声の先には仰向けになりながらも、右腕をしっかりと前に突き出している斎藤がいた。

 その瞳に諦めなんて感情は一ミリたりともない。

 くっそ、あいつ最高すぎるよ! 美少女じゃなくても惚れるレベル!


 斎藤が放った氷の塊は鎖を弾いた。

 これでもう遮るものは何一つない。



 短剣はスッとゴブリンの首に吸い込まれていく。



「僕達の……! 勝ちだ!!!」


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