第19話 なんでヤンキーとか体育会系統の人達って、相手が反抗的だったりすると逆に気に入るんだろうか。陰キャにそれを求めるのはやめて欲しい。



「いやいや、無抵抗な少女をどうにかしようなんて大丈夫? 最近ほら、人権問題とかPTAはたまたフェミニストとか煩いよ?」


 いたいけな少女を助ける僕。わりと主人公ムーヴじゃない? 

 僕今輝いている気がする。


 

「てめぇ速いな……」


「そりゃどうも。早さが取り柄だと女性には嫌われるっていうけどねっ!」


 鎖を振りほどいてバックステップ。斎藤の近くまで距離をとる。


「貴方にしては意外ね。好みの女の子だったのかしら?」


 斎藤さんの目は半開き。いわゆるジト目。


「え? なに。そういうのじゃないからね?

 何その、小学生の『お前○○ちゃんのこと好きなんだろー!』みたいな感じ」


 違うからね?

 流石の僕もあんな仕打ちを受けた少女を見捨てないぐらいの、なけなしの良心ぐらいはある。僕も似たような目にはあってたわけだし。


「貴方意外と詐欺師で良かったのかも知れないわね」


 斎藤は僕の返答がお気に召さないようだ。


 おい、やめろ。

 僕は勇者とか聖騎士的なのみたく、あぁ言うのが似合うに決まってるんだ。夢ぐらい見てもいいじゃないか。



「おいおい、いいから早く殺ろうぜ」

 ゴブリンはどうでもいいから早くしてくれという感じが、もろに表情に出ている。



「せっかちだなぁ。カルシウム足りてる?」


「かる……? なんだそれ。つーかてめぇと話してるとイライラしてくるなぁ」


 ゴブちゃんはお冠なご様子。


「言われてますよ、斎藤さん」


「どう考えても貴方のことでしょうが……」


 斎藤は呆れたようにため息を吐く。心外にも程があるね!

 っていうのは冗談で。

 一応、詐欺師の挑発が効いているみたいなので一安心。

 単純に僕がムカつくだけとかないよね?

 あったら泣いて引きこもる。なくても引きこもりたいけど。



「軽口を叩いている場合じゃないわよ」


 斎藤が目線で何かを訴えてくる。

 分かってるって。僕だって趣味でこんな下らない問答をしていたわけじゃない。いや、ごめん嘘です。趣味も兼ねてます。なんなら、趣味の割合の方が大きいです。


 しかしこの時間を使い、僕らはステータスの確認をしていたのだ。


 束縛されし哀れなるゴブリン

 Lv.15


 HP 300

 MP 50

 SP 95


 筋力 30

 耐久 20

 知力 15

 俊敏 25

 集中 20

 運 2


 装備:???鎖

 

 skill 【打撃スマッシュLv.1】【加速Lv.3】【鎖操作Lv.3】





 強い。僕らより格上だ。レベルも僕より上だし、ステータスの数値も高い。見たこと無いようなスキルもある。斎藤も解析スキルで確認できたようで、深刻そうな表情をしている。


「じゃあ、そろそろおっぱじめようかあ!!」


 ゴブリンはどこまでも楽しそうで、獰猛な笑みを浮かべている。

 何というか体育会系というか、そんな感じそうで仲良くはなれなそうだ。

 何あれ怖い。




 ―――



 鎖が横薙ぎするように迫る。

 レベルアップにより強化された身体で追えない速さではない。


 タイミングを合わせて短剣で受け流すパリィする


「北原君!! もう一本あるわ!!」


 二本目!?

 忠告虚しく、二本目の鎖に吹き飛ばされた。

 クソッ、何その仕様聞いてない。


「危ない!雷初級魔術グロム!!」


 更に追撃されそうなところを斎藤が魔術で助けてくれた。


「サンキュ」

「油断しないのっ」


 痛みはあまり無い。

 HPは優秀なステータスだ。

 薄くて透明な防御膜を体全体に貼ってくれている。攻撃を受けてもHPが減るだけで痛みは感じない。痛みに感じない程度の衝撃はあるのでなんとも不思議な感覚だ。


 ステータスをわざわざ開いて現在のHPを確認したいなと思ったら、視界の端下に数字と緑のバーが映し出された。HP210/250。


 こんな便利な機能があるなら最初から出しとけよ。

 しかし、意外とダメージが高い。そう何度もくらえるものでは無い。


「へぇ、今のを捌くかよ。中々やるじゃねぇか! どんどんいくぜ!!」


 今度は二本同時に鎖が襲い掛かる。

 二本同時に来ると分かれば、捌けないほどでも無い。

 体を駒のように回転させて短剣で弧を描く。

 鎖たちは短剣の流れに沿って、受け流されていく。


「斎藤!!」

「分かっているわ!!氷初級魔術エイス!!」


 斎藤が放った魔術はゴブリンにモロに直撃する。

 ゴブリンはうめき声を上げて表情を歪ませた。


 よし! やっと攻撃が当てられた。

 いける。僕一人だったらかなり厳しかったが、斎藤と二人ならやれる。


 あ、一応ハイタッチとか、そういうのした方が良い?






 ―――






「クソがっ……」


 ゴブリンは既に息も絶え絶えだ。

 僕が鎖を防ぎ、斎藤がその隙に魔術でダメージを稼ぐ。この戦法が上手くハマり、あと一歩のところまで追い詰めることが出来た。僕らのダメージもほとんどない。


「もう、終わりだよ」

「観念なさい」


「クソが! クソが! クソが!! やっとここまで来たのに、ここで終わりか!?」


 ゴブリンは荒れ狂うように叫ぶ。何か嫌な予感がする。こういう時に追い詰められた者は何をしてくるか分からない。アニメで言えば逆転フラグみたいなものだ。


「斎藤!」

「ええ!!」


 斎藤も同じ様なことを感じ取っていたのか、すぐ魔術を発動させようとする。


 僕も鎖を迎撃しようと短剣を身構えた。

 だが、想像に反して起きた事象は、理解に数刻の時を必要とするモノだった。


 繰り返して来たように、また二本の鎖を受け流す。

 だけど、さっきとは違う音。

 耳元を撫でる様にかすめる、鎖の擦れる音だ。


「っが!?」


 鎖は弾いたはずなのに、二本の鎖が斎藤を撃ち抜いた。一際大きい破砕音が耳を貫く。

 

 その一撃はHPを容易に刈り取るものらしく、力なく崩れ落ちる斎藤。

 ピクリとも動く気配がない。


 何で? 

 ミスした?

 やらかした?


 絶望と恐怖で頭が埋め尽くされそうになるが、何とか思い止まる。


 違う。


「何だよ……それ。ピンチにパワーアップとか主人公だけの特典でしょうよ…」


 僕の視界の先には、大蛇の様にうねるがあった。



「もう終わりだ。死ねよ」


 そして無慈悲にも鎖達は僕目掛けて放たれた。

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