第16話 美少女と一晩過ごしたし……これが大人の階段を登ると言うことか。違う? 違うか
「んっ」
まばゆい陽光が瞼を刺激して目が覚める。
朝か。
んー意外とぐっすりと寝れたなぁ。あまり疲労感も倦怠感もないし。
昨日の出来事は夢だったのだろうか。
だって、色々と可笑しいもの。世界がRPGみたくなって、モンスターが出るなんてあり得ない。
しかし、手元にある短剣を見て現実であることを再確認した。
嬉しいのやら悲しいのやら。
前と比べてどちらが良かったと聞かれれば首をかしげる。
命がかかる状況に自分が置かれて、いかに前までが恵まれていたと感じはするが……今の方が正直生き生きとしている気がしてならない。
まぁ、今さら何言ったところで何も変わるわけもない。
今日もゴブリンを狩ってレベルを上げることしか出来ないのだから。
ーーー
斎藤はもう既に起きていて、昨日ガチャで引き当てた塊を隅々まで見ていた。
「あら、おはよう。昨日はよく眠れたかしら」
あ、別に事後とかじゃないです。
しかし、朝日に照らされる彼女の微笑は心なしか眩しく見える。そんな馬鹿な。僕はろくにモテない陰キャ糞オタクボッチだ。たとえ、美少女に笑顔を向けられたとしても、簡単に惚れたりしない、洗練されたエリートなのだ。
「まぁ、そのお陰さまでね」
しかしだ。
しかし、昨日のことを思い出すと、どうしても恥ずかしさが込み上げてくる。
いや、もうむり。ほんと、むり。
あああああああああ!!!! あれ! なに! もう、ほんと糞黒歴史じゃん!!
何さ月明かりって! もうほんとね……恥ずかしくて死ぬ……。
……シテ……コロシテ……。
頭をかきむしりたくなる衝動をなんとか押さえ込み、頬を人差し指でぽりぽりとかく程度におさめた。
「……」
いや、斎藤が何一つ気にしている気配がないのがまた悔しい。
……
…………
やばい。ていうか、気まずくて間が持たない。
いや、昨日ので意識したとかそういうのじゃなくてね。
元々僕はコミュ障なんすよ。
女の子と会話とかまじむりぽよ。
「そ、それは何見てるんすか?」
どもった上に敬語じゃない敬語擬きになった。この上なく恥ずかしいな。もう、今日は何やっても上手く行く気がしない。帰りたい。家に帰れないけどさ。
「昨日手にいれたのこれを見てるのよ。一応レアって書いてあるし使い道があっても可笑しくないと思うのよね。」
それにたいして斎藤は淡々と答える。
真剣に360度見回してる。何か発見があるのだろうか?
「解説スキルはなんて言ってるの?」
斎藤にスマホを見せて貰った。
『錆び付いた何か』
なんか役に立つといいね。
「相変わらず糞な解説だな。しかも、ほとんど内容がないし」
ん?
スマホ画面の右下に何か違和感が。
「スクロールバーがあるね」
解説スキルによりポップアップしたウインドウをスクロールすると一番下に【覚醒可能】とあった。
え?何この地味な嫌がらせ。
わざとでしょ。
「しかし、流石ね。こういう下らなそうなのは詳しそうものね」
「うるさいやい。というか覚醒って何ですか」
「装備の性能を引き出すみたいね。でも、今は止めておきましょう」
錆び付いた何かが消えた。所持品に収納したみたいだ。
「へ、なんで? もしかして条件が足りないとか? 素材的な」
ソシャゲやRPGのシステムだと素材を使用することが多々ある。今回はそういうケースなのかもしれない。
「ええ、特定のアイテムを使用して覚醒させるみたい。だけど、ショップで買えるみたいね」
「へぇ、割りとシステムは厳しめなのに中々良心的じゃない」
素材が買えるなんて割りと良心的に感じる。
ショップやら強化・合成にやたらとお金がかかるようなクソシステムばかりだったからね?
ん? お金がかかる?
「察したみたいね。覚醒に必要なアイテムを購入するのに5000Gかかるわ。更に覚醒費用に5000G」
「いっせんまん!?」
日本円にして一千万円かかるとか頭おかしいだろ……
しかも、覚醒したところで役に立つかどうかは不明瞭だ。
リスクが高すぎる。
「ええ、だから流石に保留するわ」
100万円をぽんと渡せる斎藤でも流石にキツイだろう。
「まぁ、そんなことはどうでもいいわ。今日も私のレベル上げを手伝って貰うわ」
「そうね、とりあえずレベル10を目指そうか」
「分かったけれど、レベル10になると何か変化があるのかしら?」
「うん、レベル10になるとジョブを変更出来るようになるみたい。まぁ、といってもまたジョブレベルは1からスタートみたいだけど」
そういえば、僕のレベルもいつの間にか10になっていたなぁ。
転職は……しばらくいいか。戦闘は意外と上手くいってるし。クソジョブとか掲示板に言われたけど、意外とこのジョブは僕に合ってる気がするんだよなー。
「そう。そこら辺はレベル10になってから考えましょう。さてと、今日も始めましょうか」
斎藤は気合い十分のようだ。これなら、レベル上げなんてすぐ終わることだろう。
さて、僕も頑張りますかね。
ーーーーー
今日も今日とてゴブリン狩り。
基本的にやることは短調だ。足の腱を斬り、動きを封じる。そしたら、斎藤に止めを刺させる。
ゴブリンを狩り尽くしたら屋上に行き、リポップを待つ。
ただ、ひたすらこれの繰り返しだ。
斎藤のレベリングを手伝いながらアクティブスキルの練習もする。
やはり、最初はぎこちなく拙い動きになったが徐々に慣れていった。
コツは発動させたら逆らわないことだ。力はいらない。
ただ、スキルの流れに身を任せればいいのだ。
そんなこんなで、太陽が真上に上がる頃には斎藤のレベルは10になった。
ついでに僕は14。
「おめっとさん」
「ええ、ありがとう。貴方みたいな人でも役に立つことがあるのね」
ひでぇ。
ナチュラルに罵倒を織り混ぜる斎藤の会話にも慣れてきたな。
「全く……癖になったらどうしてくれんの?」
ドM属性はないんだけどさ。痛そうだし。ピエン。
「その時は貴方の終わりでしょうね」
屠殺寸前の豚を見るような冷徹な目を送られる。
僕のボールはキュンってなった。
「それでジョブはどうするの?」
「そうね、まず何が在るのかしら」
斎藤のスマホに取得可能なジョブが表示された。
戦士▲
格闘家▲
魔術士◎
回復師○
剣士▲
狩人
盗賊▲
???
僕よりは適正があるのが多いな、くそ。
ちなみに僕は詐欺師以外、ろくに適正がありませんでした。ほんとくそ。いいですよー詐欺師極めてやりますからー。
???は不明だけど後衛職に適正があるみたいだ。
「??? ってなにかしら?」
「選択は出来るの?」
「……出来ないみたいね。条件を満たしていないとエラーが出たわ」
そんなのもあるのか。
まぁ、仮に出来たところで何か分からないジョブにつくのは賭けだ。
強くなれるものならいいが、弱くなるだけのハズレジョブなんかに就いたら笑えない。
「詐欺師のジョブがないね」
「あぁ、貴方は詐欺師だったかしら。人によって就けるジョブが違うのかもね」
なるほど。
可能性としては十分あり得るな。
うーん、詐欺師の適正があってもそんな喜べないなぁ。
そんな犯罪まがいのことした覚えないんだけどなぁ。疑問だ。まじで。
「それで、ジョブは変えるの?」
レベル10になればジョブは変更出来る。ただ、ジョブレベルは一からスタートなので、悩みどころだ。
「そうね、回復師も捨てがたいけどここは手堅く魔術師のままにしておくわ。性格的にもこっちのほうが合ってそうだし」
まぁ、妥当なところだ。現状上手くいってるのだから無理に何かを変えなくてもいいと、思う。
それに、戦闘の編成はバランスがかなりいい状態なのだ。僕が前衛で、斎藤が後衛。回復師も後衛だろうが、あまり攻撃手段を持っていなさそうなのである意味賭けだ。
んー、そうは思いつつも僕が前衛だけだと今後厳しいかもなぁ。
僕は前衛ではあるが防御力はほぼない紙装甲なので
んー、壁役欲しいなぁ。
無い物ねだりしてもしょうがないけどなぁ。
狙われやすいであろう後衛職のために率先して前に出なければいけない。本音を言えば、この状況は僕的に好ましくない。だって、痛そうだし。ていうか、怖いし。
やっぱり、壁役欲しいなぁ。
それはともかく、
「これで、レベルもかなり上がったしこの階は用済みね」
「言い方言い方」
どうも、彼女の言い方は言葉の端々から冷たさを感じてしまう。なぜだろうか。
「なによ……別にわざとやっているつもりはないのだけれど……」
少しいじけられた。こんなのでも絵になるのがずるい。ほんと、美少女ずるい。
「いや、ごめんて。ま、まぁ、下の階にすす……」
「くくくっ 来るなぁ!! こっちに来るなぁあああああああああああ!!!」
下の階に進もうとした時、悲鳴が耳に飛び込む。
方向的に下の階だろう。
え? また、このパターン?
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