第9話 心がピョンピョンすると世界平和が訪れるらしい。違うか。


 閉めきられた教室に津波のように押し寄せるゴブリン達。教室に籠城する生徒。そして、少女の悲鳴。


 これ、なんてエロゲ?


 まぁ、いいや。まだ向こうはこっちに気づいていない。

 丁度いい的だ。投擲スキルを試せる。




 このスキルは投げた物の命中率が上がるもの。だからといって、デタラメに投げて当たるものでもない。


 連続で投げれるように右手に1本。左手に3本持っておく。




 狙いは頭だ。


 えい。


 投げられた包丁は意外に綺麗な放物線を描いて宙を進んでいった。


 あれ? 意外といい感じだぞ?


 体育授業の時にペア組儀式(悪しき習慣)のせいでひたすら壁に向かってボールを投げていた賜物だろうか。




「ギィ!?」




 流石に一発命中とはいかなかった。


 ずれて胸に突き刺さる。命中しただけ御の字と考えるべきか。無駄玉ってわけでもないし。




 微調整して第2射。


 今度は別のゴブリンの額に命中した。小気味良いスコーンという音が鳴り響く。


 即死だ。ゴブリンは力なく倒れる。




『投擲Lv.2を獲得』




 よし、スキルレベルが上がった。


 第3射。心なしか精度があがったのか。包丁は額とはいかないものの口の中に深々と突き刺さる。


 ゴブリンは息が出来ないのか血を撒き散らしながら倒れた。地味にエグい……




 当然ゴブリン集団はこちらに気づき激昂しているかが、まだがそれなりに距離がある。

 更に少し距離を取りつつ、アイテムボックスから包丁を4本取り出す。

 出来るだけ早く投擲し続けた。やはり、ゴブリン達は密集しているということもあり包丁は命中し放題。ウヒヒ。


 「こんなてきとーな投擲でも半分倒せるのか……」



 後は短剣でいつも通り倒しますかね。



 ーーー



『一定数ゴブリンを倒したため、称号亜人種Ⅰ特効を取得』


 ゴブリンの殲滅には然程時間はかからなかった。


 レベルが上がったというのあるが、やはり武器の性能が凄すぎる気がしてならない。


 投擲スキルも試せたし、有意義な戦闘だった。



「でも現実って不親切だぞ」


 ゲームでなら勝手にやってくれる投擲系の武器回収も自分でやなきゃいけないのか……こういうのって普通、自動でやってくれるものなんじゃないの?


 文句をこれでもというほど垂れ流しても、地面に転がる包丁はピクリとも動く気配はない。


 なんかこう律儀に転がった武器を拾ってく姿はとてもシュールで、PPGというにはとても現実が溢れ過ぎている。


 やっぱり、現実って糞だよなぁ。






 ーーー




 モンスターを全て倒したというのに、生徒が逃げ込んでいるであろう教室はうんともすんとも言わない。


「そーですか、お楽しみに夢中って感じですかね」



 ちっとも開けてくれる気配がないので、とりあえずドアを蹴飛ばすことにした。


「おらぁ! 心ピョンピョンの時間だぁ!!」



「な、なんだ!?」

「は? ぴょんぴょん!?」



 流石に困惑して目を点にしている。

 ごめん、言ってみたかっただけ。




 ーーーー


 ピョンピョンとは何か。

 心がピョンピョンするとどうなるのか。


 つまり、ピョンはピョンで世界平和を体現しているいっても過言どころか、至言まである。


 そうではないか? 違うか。

 違いますね、そうですね。




「あー、一応聞いておくけどそういうプレイだったりする?」



 男三人に羽交い締めにされた女の子が一人。漆黒のような黒髪ロングヘアーが印象的だ。

 女の子のほうは口を手で無理やり押さえられている。衣服もはだけており、局部まで見えないものの、健康的な肌がこれでもかと言うばかりに公開されていた。


 まぁ、絵面だけ見れば十中八九強姦なんだろうけど……。

 いや、ほらよくあるじゃない?


 そういうアブノーマル系なプレイというかね。そういう無理矢理ってほうが興奮するからいいみたいな。


 もし、そうだったら恥ずいじゃない?




「あ、なんだよ。北原じゃねーか、脅かすなよ」


「あれ、あの化け物達がいねーじゃん。やっぱ、俺たちもってるな!」


「ちょうどいいや。北原、誰か来ないか入口で見張っとけよ。なんなら、お前にもいい思いさせてやるぜ?」




 こいつらゲスいなー。

 こいつらの顔には見覚えがあった。名前はうろ覚えだけど、クラスメートだったはずだ。

 完璧に見下しているのか、僕の顔を見ると直ぐ様命令してきた。

 やっぱり、カースト制度って糞だわ。そもそも、学校に暗黙のカースト制度があることが意味不明。

 ちなみに僕は最下層。


 女子の方は……ていうか、あれ斎藤アリスじゃん。容姿端麗、頭脳明晰、品行方正。加えて、とある財閥の令嬢。カースト制度で言えば、間違いなくトップの存在だ。

 普通だったら僕含め、うだつの上がらない彼らには触れることさえ出来ない存在だが。



「うわぁ。パニックを利用して、こういう事する人いるよね」


 そもそも、僕がゴブリン倒したとは夢にも思ってなさそうだなぁ。運良く去ってくれたぐらいにしか思っていなさそう。お目出度い思考ですこと。



「おい! 何やってんだよ! 早く行けよ! これだから低脳は使えねーな!!」



 凄い言い様だ。ここまで来ると逆に拍手しちゃうね。

 そして、こいつらはそこまでグラスのカーストで言えば下から数えた方が早いほうだったりする。

 いや、君達もかなり低脳扱いされてるよ?

 下がいるということが心の支えだいうのが見透けるのは中々に滑稽である。



 しかしまぁ、そんな底辺である僕が学年1の美少女様とそういうキャッキャッウフフなことが出来ると言えば、魅力的と言わざる得ない。全くそういうことがしたくないと言えば嘘になるだろう。



 しかしだ。



「パス。ほら、そういうことやると訴えられそうだし。斎藤氏とか超執念深そうじゃん、権力持ってそうだし。権力には尻尾を振った方が言いって昔から言うしね。それにーーー」




 それは楽しそうじゃない。




「はぁ?クソ北原の癖に俺らに反抗しようってのか?」


「ゴミの分際で正義ぶってキモいんだよ!!」




「えぇ、倫理観的には僕の方が正しいのに話が通じない……」






 しかし、気分が良い。普段は言い返さない事でも今なら簡単に言えるからだろうか。


 頭の奥が痺れるような甘美な快感が埋め尽くして行く。




「はっ 中途半端にイキって格好つけるとどうなるか分かってねーみてーだなぁ、おい!」


「いつもみたいに虐めてやろーか!?」


「俺達の言うこと聞いてりゃいいんだよ、このクズが!!」




 正直、三人はどれも体型も身長も代わり映えしない。中肉中背。

 普段はカースト上位の陽キャ達に怯えながら過ごしてる癖に、たいした威勢だこと。

 凄まれたところで、大した威圧感は感じないんだよね。むしろ、ゴブリンのほうがまだ怖いんだよなぁ。


 「でも、まぁいい機会か」


 強くなった身体能力を試すにはもってこいだ。ゴブリン達とは十分戦えているし、通じないということもないだろう。

 まぁ、それでも実はそんな強くなってませんでした☆とかなったら怖いし、ほんといい機会。RPGの序盤に出てくるスライム並みに都合のいい敵である。しかも、罪悪感は皆無。


 「あぁん!? 何言ってんだお前! お前は底辺なんだから、ちょっとはへりくだれよ!」




 こいつら、なんも変わってねぇなぁ。


 今までのことを思い出すと、急に怒りがふつふつと沸き出すのを感じる。


 そうだ、僕はこういう奴らにやり返すためにも力を求めたのだ。


 もちろん、それが全てとは言わない。しかし、やったことには相応、いやそれ以上の報いを受けるべきだ。いや、違うか受けて欲しい。受けてもらはないと気が済まない。


 なら、今思いっきりぶっ叩いてやる。


 せっかくこういう世界になったのだから、自信のエゴを優先すべきだ。



 拳に力を込める。武器は殺しかねないので使わないでおく。


 ゴブリンとの戦いを思い返せば、こんなやつら大したことないはずだ。


 「そいやっ」


 ドゴンッ


 力を込めた拳を三人組の一人の顔面めがけて、力一杯振り下ろした。

 何だかんだ、人を殴るなんて体験初めてな気もするが、意外にも感触は軽かった。


 「は……………………?」



 殴られなかった二人は呆然としていた。鳩が豆鉄砲を喰らったという表現がおあつらえ向きだ。


 僕の拳をもろに受け、意識なく倒れている。

 これやり過ぎたな……歯とか何本か折れてますね……。訴えられたら負けるな。まぁ、こんな世界になったから司法が生きているかは疑問だけどさ。


「お、おい! マル? じょ、冗談言えよ!? う、嘘だろ!?」


 僕が殴ったマルとやらは、白目を剥いて仰向けに倒れている。口から覗き見える折れた前歯はなんとも痛ましい。


 あっちゃーやり過ぎたみたい。


 あっちゃー。

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