第7話  不遇職の戦い方が姑息すぎる件について


「やはりデストロイ……」


 やはりというか、屋上から降りた廊下の先には既に数体のゴブリンが徘徊していた。獲物がいないか廊下をせわしなく移動する個体から、退屈そうにふんぞり返りあくびをする個体までいる。


 人の気配は感じない。そもそも、僕がいるこの校舎棟は準備室や実習室が殆ど。あまり人の出入りが少ないのだから当たり前か。


 人がいないので邪魔が入ることはないが一対複数……流石にきついくね? いやいける? 新しい武器もあることだし。いいや、やっぱりダメだ。リスクが高すぎる。既に一体倒しているとはいえ現状僕のステータスが彼らと比べてどのぐらいかが未知数なのだ。


 もしかしなくても僕はゴブリンと比べて凄い弱い可能性だってある。ていうかゴブリンより強い自信なんてないんですけど。


 なんとか一対一にすれば勝てる……はず。さっきみたいに不意打ちを成功させれれば。ちなみに、プライドさんはそこら辺のお犬様ときゃっきゃっうふふしながら旅行中。あんなゴミいなくてもどうということもない。


 古典的だけど石ころみたいな物を投げて誘き寄せるか。でも、校舎内に石ころなんてないなぁ。お、ポケットに飴玉があった。もちろん包装されてるよ?


 うまく投げて一匹だけ引寄せろ。


 えい。


 飴玉は放物線を描いて綺麗に落下していった。カンカンカンと小気味良い音を立てて廊下を転がって行く。


 上手くいった。そして僕はすかさず屋上へと戻る。気がついた一匹がゆっくりと屋上に続く階段を上がってくるはずだ。屋上への扉を開けた瞬間を狙って襲え。


 鉄が擦れる音と共にドアが開かれた。今だ。ナイフを首に差し込む。さっきのとは違い何の抵抗もなくすっとナイフがゴブリンの首に吸い込まれた。


 ゴブリンは膝を崩し仰向けに倒れた。さっきとは大違いだ。今回は死んだことすら気づいていなかった。気分はアサシン。アサシンムンク。


 『レベルアップしました』


 無機質な音声が頭に響く。また生き物を殺したと言うのに先程の感慨は想った以上にわいてこない。手は冷たく感じるがさっきみたいに震えてはいない。意外なほど冷静な自分に驚くね。

 むしろ、レベルが上がってワクワクしているまである。

 ともかく、手応えは悪くない。この調子でいけるとこまで行ってみよう。



 チキチキ戦法(ゴブリンを一体ずつ屋上に誘き寄せるやつ)を繰り返し、レベルは5まで上がった。


 北原ムンク

 Lv.5

 job :詐欺師Lv.1


 HP 100

 MP 10

 SP 18


 筋力 7(−1)

 耐久 5(−1)

 知力 8(+1)

 俊敏 10(+2)

 集中 7(+1)

 運 2



 適合武器:短剣

 Skill: 【痛覚無視Lv.1】【感情制御Lv.3】

   【舌回Lv.1】【戯言Lv.1】【投擲Lv.1】

   【隠蔽Lv.5】【身体能力Lv.1】【解説】

 称号:【決断者】【ニート】


 

 「おお……」


 レベルの上がったステータスを見ると思わずニヤニヤしてしまう。側からみたら通報必須レベルだろうが、どうしてもにやけてしまうほどだ。スキルレベルだっていくつか上がっているものがある。感情制御はよくわからないけど、隠蔽のレベルが上がっているのはこそこそ隠れて戦っているからということだろうか。

 しかし、この隠蔽もよくわかないんだよなー。いまいち効果が出ているのか分からない。

 まあ、スキルレベルを上げていけば、効果が実感できるかもしれないので様子見だね。


それ以外にも考えることは多く、詐欺師のジョブレベルやスキルレベルも上げないとなあ。でも、このスキル名前からしてどう戦闘に活かせばいいんだろうか……。

 頭を抱えるばかりである。ほんと、どうしよ。





 ゆっくりゆっくりと標的に近づく。

 我が物顔でノシノシと校舎を闊歩するゴブリン達は気づく気配もない。手を伸ばせば届く距離に僕がいるというのに。

 廊下には3体のゴブリンが物珍しそうに歩いている。

 僕の隠蔽スキルのレベルは5。ここまで上がると流石に効果を実感出来る。

 まあ、このゴブリン達が壊滅的までに楽観主義なノータリンなのかもしれないけどさ。



「…………っ!」



 三体のうち比較的に後方にいるゴブリンに触れるぐらいまで近づき、首に短剣を捻じ込む。

 ゴブリンは力なく崩れ落ちた。即死だ。

 流石に残り二体も気づいたのか、ギョッと目を剥き振り返る。

 遅い。

 そのまま、動揺して固まっているもう一体の首に短剣を突き刺す。これも、即死。僕のアサシン具合もなかなか板についてきた。


「ギィギィ……!  グァ!!」


 続けて三体目もそのまま倒したかったが、流石に無理か。距離を露骨にとられた。具体的には僕と女子との距離ぐらい。

 つまり、近いのにとてつもなく離れているように思える。非モテだものいいじゃない。


「グァ!!  グァ!!」


 ゴブリンそれ以上近づくなと言わんばかりに、棍棒を突き出して威嚇してくる。

 ふと、席替えの時隣り席になった女子の引きつった顔が頭を過る。あれ、ひどいよね。嫌なのは分かってるんだけど、傷つく。くすん。

 さりとて、トラウマに浸っている場合じゃない。


「まあ、ほらは落ち着きなさいって。平和的にね?」


 既に二体も殺しておいて、何が平和的なのか。とっさにこういう言葉が出る辺り詐欺師という職業は割と的を得ているのかもしれない。少し屈辱的ではあるけどさ。


「ギィ! ギィ!」


 ゴブリンはジリジリと距離を開ける。距離を開けられると僕的にはまずい。だって怖いし。ふつーに怖い。

 今ままで基本的に後ろから刺すだけという臆病(チキン)な戦法しか取っていなかったし。

 いざ、正々堂々と武器を持ったモンスターに対面すると恐怖しか湧かない。

 ステータスが上がって身体能力が向上しても、怖いものは怖い。棍棒なんて昔は格好悪いと小馬鹿にしていたが、いざ目の前にするととんでもない。

 あんなぶっといものでぶん殴られることを想像すると寒気しかしない。


「よーし、落ち着け? どうどう……ん?」


 なんで馬を宥めるセリフを言ってるのかは疑問だけど、こういう時に詐欺師のスキルを使えばいいんじゃないか?

 舌回も戯言も常時発動型パッシブスキルだ。なんか喋れば上手くいくかな? 物は試しだし、取り敢えず小馬鹿にしてみるか。


「ばーかばーか」


「…………?」


 あれ、反応しませんね……。ゴブリンさんも心なしか意味不明な行動に困惑しておられる。なんかごめん。

 あれかもっとそれっぽくしないと駄目か。変な言葉だが心を込めて小馬鹿にしよう。


「やあやあ。最近どう? 顔色悪そうだけど元気?」


「ギィ……?」


 お。反応した?

 よしこの方向で進めてみよう。


「わお! 驚いたまさか言葉が通じる? これは大発見だ。まさかそんな知能があるなんて!! しかし君の肌は汚ったない色してるねえ!! まるで腐った緑黄色野菜のようだねぇっ! おっと匂いもヤバイな! もしかして住処はドブだったりする? 」


 うわ、自分で言っていて胡散臭っ。

 普段こんな喋り方はしないが、出来るだけ大仰に、胡散臭く喋る。何となくだけどそうした方がうまくいく気がするからだ。


「ギィギィ!!  グォァギィィィィ!!!!」


 言葉は多分通じてないんだろうけど、小馬鹿にされている事は理解したみたいだ。狙い通りゴブリンは逆上した。棍棒を振りかざして大股で迫り来る。

 怖いことには変わりないが、逆上している分、動きが単調で読みやすい。

 あまりにも、分かりやすいように棍棒を振り下ろすものだから、体を横にするだけで難なくかわせた。


「それじゃ、まるわかりだって」



 空ぶって体勢を崩したところに、短剣を突き刺す。

 短剣はスッと首に入り、ゴブリンはそれで事切れた。


『レベルアップしました』

『詐欺師がLv.2になりました』

『舌回、戯言がLv.2なりました』

『隠蔽がLv.6になりました』






「やっぱり消えるのね」


 倒したゴブリンは既に。よくあるミステリー小説みたく、バラバラに切り裂き、ミキサーで粉々にした後、証拠隠滅したわけでもない。

 倒すと自然に消えるのだ。ほんとに。いつの間にか。すぅーっと。


「ほんと、なんなんだろこいつら」


 しかも、消えるだけじゃない。リポップする。

 冗談みたいだけど本当にリポップするのだ。モンスターを倒してしばらく経つと、また同じ場所にモンスターがいつの間にかいる。

 最初は偶然かと思ったが、何回も続けば偶然とは言えない。


 ―――まるで、本当にRPGみたいだ。


 しかし、短剣から伝えある感触はとても生きているようにしか思えない。短剣越しに血管の脈動まで感じるのに、ゲームの存在と言われても納得なんで出来そうもない。出来るわけがない。


「ほんとこの世界はどうなっちゃったんですかね……」

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