第2話 たいくつでつまらない
弟の誠二とその婚約者の
誠二の運転する軽自動車の後部座席で、今日の予定を話し合う二人をしばらく見ていた。だがすぐに興味を失う。どれだけ新しいものがあったとしても、興味が長続きすることはなかった。それはたいていの物事が予想通りだったためだ。予想外だったとしても、興味を持てるのは一時的だ。多くの経験と知識を得ていくにつれて、分かるものだけになっていく日常。例外は自分と同じくらいの予測ができながら、新しいことをし続ける存在だけだろう。
そんなことを想いながら、目的地に着くまで夢を見ることにした。
👩🔧 👩🔧 👩🔧 👩🔧 👩🔧
⦅ここからは、
・・・深い森の中、頭上にある樹木の合間から望む山の中腹に、黒い雷雲が立ち込めているのが見えた。男は、その雷雲の動きに注意を払いつつ、膝よりも高く茂っている雑草をかき分けて森の中を進んでいた。
「この辺りかな?」
小川のせせらぎが聞こえてきたあたりで歩みを止めて周囲を見回した。
男の仕事は、野良化した人造生物の捕獲である。
川の中に魚影を見つけて、しばらくその影を見つめる。沢にいたザリガニが、その魚の尻尾をはさみで捕まえた。しかし天然のザリガニのはさみは、人造の魚の尻尾には食い込まなかった。ザリガニは諦めて、他の獲物に狙いを定めた。しかし次に捕まえた魚は天然ではあったが、凶暴化していたらしく、逆にザリガニのほうが食い殺されてしまった。
その光景に、だが男が表情を変えることはなかった。依頼の物では無かったが、人造の魚は捕まえておくことにする。どうせ自分がやる仕事なのだ。
天然と人造が混ざり合う世界に変わって、もう何年も経ってしまった。
『野良化した人造生物』
それは、自然を再現していく研究から始まった。
もし人造であっても天然の自然と同じ環境を造りだせるとしたらどうなるか、本気で研究した連中がいた。
普通なら一笑に付す壮大な計画。
しかし彼らは本物の天才たちだった。
結果、人造の『もう一つの地球』が誕生した。
当時、誰もが知っていたニュースだ。その後にあった崩壊と混在も含めて。
天然の動物と、人造の生き物が混ざっていることは、とっくにこの世界の日常だ。
「探せ」
男は背負っていたバッグから瓶を取り出して、その中にいた物に探索の指示を出した。ピピッと、指示を受けた蜂型のロボットがアラーム音で応答する。あらかじめ設定していた探索対象は、人の制御を離れた人造生物、その人型である。
探すこと五分ほど、蜂型のロボットが、ピピピッと先ほどとは違うアラーム音を鳴らした。
「そこかッッ!!」
蜂型のロボットが若い人間の女性を模した人造生物を相手に、アラーム音を鳴らし続けている。
「ホオッテオイテクレェェェッッ!!」
野良化した人造生物は、多くの場合凶暴化していて、腕の一振りでも当たったら蜂型のロボットなど簡単に壊されてしまう。でたらめに腕を振り回して周囲を薙ぎ払う女性型人造生物は、草木を切り倒し、泥土と石を弾き飛ばしていた。
「戻れッッ!!」
男は蜂型のロボットを壊される前に戻すことにした。背負っているバッグに入るのを見届ける。
グレネードガンを構えた。即効性のある接着剤を打ち出す特殊銃だ。対象を壊してしまうと減点になってしまうため、捕獲することを最優先としている。
打ち出された特殊弾が、空中で蜘蛛の巣のようにぶわあぁっと広がって女性型人造生物を包み込む。しかし相手は強引に横に転がって、接着剤の網を避けきった。
「なにっ!?」
「テクレェェェェッッッッ!!!」
バランスを崩しながらも突っ込んでくる相手に、男は走って距離をとった。グレネードガンは連射ができず、他の道具を使うにも、時間が足りなかった。
「くっ!」
向かってきた女性型人造生物の突進を樹木を盾にしてかわしながら、グレネードガンの弾を装填していく。
「ェェェレェェェェェッッ!!」
女性型人造生物の、もはや意味をなさない叫びと共に、泥土に足を取られつつも突進してくる。
「次は、」
その頭に向けて、グレネードガンを構える。
「外さない」
その弾を避けようとした女性型人造生物は、また無理矢理に横に転がった。泥土に塗れた姿に、手を伸ばしたら届く距離で、引き金を引いた。
「おのれぇぇぇぇぇッッ!!」
森の中に怨嗟の叫びが響き渡る。
「悪いな。まだお前たちは『商品』なんだ」
地面に接着された女性型人造生物を見下ろしながら、男は告げた。
「いずれは・・・俺たちも自由を手にすることができるのかな」
仕事の完了報告をするために衛星電話の準備をしながら、男性型人造生物は、独り言を呟いた。
――柾は、そんな夢を見た。
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⦅ここからは現実の話になります⦆
変わるときは、こんなふうに。 ~~古流原 柾編~~ カメとさかなのしっぽ @kazfishtail
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