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ライブ後の帰り道、駅前に聳え立つ一際目を惹く大型映像広告板に、「蜂須賀有栖脱退」という文字が映し出された。
同じ方向に向かって歩いていたファン達はそれを次々と視界に入れて、悲しみのあまり座り込んで涙を溢れさせたり、怒りを露わにして怒鳴り散らしたり、様々な反応を見せる。
僕はその騒動の中心で、先刻まで狂ったようにペンライトを振り回していたライブ会場を眺めて、静かに涙を流していた。
「あーあ、君は我慢できる子だと思ってたのにな……」
住所をネットに晒しても、郵便受けに隠し撮りした有栖の写真を投函しても、歌うことを止めなかったのに。
「メンバーを人質に取られてしまえば、簡単にアイドルを捨ててしまうんだね」
メンバーなんて、君を潰そうとするライバルでしかないのに、どうして?
君がいつまでも一番でいることができるのならば、僕はそれだけで良いのに。
ねえ、どうして?
「……ああ、そうか」
僕の家で待っている愛しい子達が脳裏に浮かんで、漸く君の脱退理由が分かった。
「僕の部屋に、来たいんだね」
君が自ら望んでいたなら、もっと早く迎えてあげるべきだった。
きっと今、寂しい思いをしているだろう。
早く、早く有栖の元へ行ってあげないと。
僕の足は駅から遠ざかり、再びライブ会場へと向かって走る。
リュックの中で揺れる、あの子達を楽にしてあげた鋭利なナイフと共に。
僕の愛しい子 桜城一華 @ichigo-2004
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