第41話 危機一髪
「……それで、どこまで連れていくんだ?」
「もうすぐ着きますよ」
あれからリントはカナメに連れられたまま城の中を歩いていた。
どこに向かうかは聞かされていないため、カナメが先導してリント王を引き連れているのだ。
カナメの後ろにいるという位置関係から、リントは自身の指を傷つけて出血させ、それをカナメに気づかれないように床に滴らせていた。これは部屋から連れられていた時からずっとやっていたことだ。
(カムイ殿か、あるいは他の誰でもいい。これに気づいてくれればいいんだが……)
望みは薄いが、何もやらないよりかは遥かにましだった。
一方その頃リクトは、城内に侵入出来たはいいもののどこに誰がいるのかわからず、彷徨っていた。
「しかし、特に隠密行動をとっているわけでもないのに誰とも会わないな……」
リクトは堂々と城内を歩いているのだが、これまで誰一人ともすれ違うことはなかった。
「どうしたものか……ん?」
ふと、とある部屋の前に多くの兵士がいることに気づいたリクト。
「もしかして、あそこに侵入した賊を閉じ込めているのか!?」
そう安易に考えたリクトは兵士たちに声をかけた。
「おーい、ラゼルドの兵士さんたち、賊はそこにいるんですか?」
その声に兵士たち全員が驚愕し、視線をリクトに向けた。
そして部屋の中から聞き覚えのある声が聞こえた。
「その声、もしかしてリクトか!?」
「ん? カムイお前その部屋にいるのか」
リクトが何をしているのかを聞こうとした瞬間、カムイが
「よく聴けリクト! リント王がカナメに攫われた。王たちはこの部屋を出て右手側に向かった。今俺はリーン王妃と共にいて、リント王を追うことができない。だからお前がリント王の行方を捜してくれ。俺たちはこの部屋から脱出する、また後で落ち合うぞ!」
と早口で捲し立てた後、部屋の中から窓が割れる音が聞こえた。
「えっ、おいどういうことだ!?」
突然色々と言われたため状況が理解できていないリクト。
ラゼルド兵たちも呆気にとらわれて動けないでいる。
どういう状況なのかはわからないが、少なくとも目の前にいる兵士たちは自分に敵意があることだけは理解したリクトは、カムイの言葉を頭の中で再生する。
(確か、あの部屋から出て右手側に向かったといっていたな。俺はあの部屋から見ると左手側から来たから、この兵士たちを乗り越えた先に行かないといけないのか……)
数十人はいるラゼルド兵士たちを掻い潜り、その先に向かうのは至難の業だ。
どうしたものか、と周りを見渡すリクト。
「どうしますか、ヤマト様」
呆気にとらわれていた兵士の一人がヤマトに指示を仰ぐ。
「……俺がカムイを追う。お前たちはその餓鬼を始末しておけ」
「承知しました!」
そういってヤマトも部屋の窓から飛び降りた。
そして兵士たちはリクトに弓を向けた。
「あんまり考えている時間はなさそうか。よし」
一か八か、リクトは兵士たちに向かって全力疾走した。
突然の行動に兵士たちは驚くも、リクトに向かって矢を放った。
それを確認したリクトは、矢に当たる前に進路を通路の壁に変更し、そのまま高く飛び上がって壁を蹴り、大きく宙を舞って兵士たちを乗り越えた。
「何っ!?」
予想外の行動に驚く兵士たち。
リクトは着地してロールし、そのまま立ち上がって先に進んだ。
兵士たちが次の矢を装填する前に、リクトは彼らの視界から消えていった。
平民勇者と英雄王 二見 @futami
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