5. 愛

 僕は参ってしまった。そんなにくっつかれると、胸が当たってドキドキする。それに、決意が揺らぐじゃないか。アルバートは本当にシェリルのことを何とも思っていないのだろうか? 普通、わざわざ泊まらないだろう。

 でも、シェリルは僕が必要だって言う。僕がいなくなったほうが彼女を悲しませてしまうなら、僕は苦しみに耐えるほうがいいのだろうか。戸惑っている僕に、彼女はとどめの言葉を口にした。ルーク、きっと私は貴方を好きなんだと思うの。だって、いまこんなにドキドキしてるんだから……彼女は困ったように笑って、僕の手を取り、彼女の胸に触れさせた。

 手のひらに伝わってくる鼓動はいつもより速かった。やっぱりシェリルの体って柔らかい。人間の手のおかげで、直接彼女の柔らかさと体温を感じとれる。

 彼女は頬を赤く染めて目を伏せた。ルークってば。結構、えっちだよね。僕は目を逸らした。ばれてた? だって、君の体、僕とは全然違って柔らかいからさ。

 シェリルは、当たり前だよ、でも貴方の反応が面白くていたずらしてみた時もあるけど、と言った。敵わないや。

 もう出て行くなんて言わないで、ずっと一緒にいてくれる? そしたら……と彼女は言った。僕は彼女の首に手を添えた。彼女は小さく言った。私は貴方のものになるから。貴方の好きにして。


 君が僕のものになる。君が僕だけを見てくれる。そんな日が来るなんて、嘘みたいだった。僕は返事の代わりに、その柔らかい唇を奪った。怖いくらい、喜びがざわざわと体中を駆け巡った。

 わかった。約束するよ。ずっと君を守る。そう言うと、シェリルは微笑んだ。嬉しいと言って、彼女のほうから僕にキスをしてくれた。それも、ちょっと過激なのを。僕はどうにかなってしまいそうだった。人間の体っていうのは、こんなふうに感じてしまうものなのか。彼女が時折漏らす甘い声と吐息で、同じ気持ちなのだと分かった。

 シェリルは、うっとりと頬を上気させていた。ルーク。あんまり時間がないけど、お願い。私を貴方のものにして。僕はその意味するところを理解して、動揺した。シェリル、僕は完全に人間になった訳じゃない。そんなことをしたら、どうなるかわからない。彼女は微笑んだ。そして、ちょっと躊躇ってから、僕の耳元で囁いた。私を心配してくれてるんだ。優しいね、ルーク。大丈夫。僕らは、家の中に戻った。


 彼女の白い肌は月光でいっそう美しく、僕はその滑らかさに魅了された。彼女が喉の奥から絞りだす声や吐息が、僕の理性を奪っていく。こんなに背徳的な喜びを知らなかった。小竜にとって、これはもっと義務的で儀式的な行為だったから。彼女の美しさと柔らかさをもっと五感で感じたくて、僕は思わずその肌を舐めた。

 もう、なにもかもどうでもよくなった。ただ永遠にシェリルとこうしていられたら、それでいい。そうして僕らは抱き合ったまま眠ってしまった。


 その夜見た夢は、シェリルが小竜になってしまうというものだった。なのに僕のほうは人間の姿で、僕は彼女を抱きしめていた。彼女がただ悲しげに鳴き、涙を流す姿が痛々しくて、胸が痛かった。

 夢から覚めると、体中が重くなっていて、やっぱり元の小竜の体に戻っていた。寝返りを打つと一糸纏わぬ姿のシェリルが僕のほうを向いて寝ていて、ちょっと驚いたが、彼女が夢みたいに竜の姿でなくて、ほっとした。安心しきったその寝顔が可愛くて、手で頬に触れたかったけれど叶わなかった。仕方なく舌で舐めて起こそうとすると、彼女はゆっくりと目を開いた。長い睫毛の向こう側で、赤い瞳が僕を見つめていた。

 そのまま僕らはずっと見つめあっていた。それからシェリルは、いつもみたいに優しく頬ずりしてから、そっとキスしてくれた。もう言葉は必要ないと思った。


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