流れ星
kutsu
第1話
ミロンは流れていた。
今回こそはぜったいに叶えてみせる。
次々と願い事が飛んでくる。
右手を出し、その中のひとつをつかんだ。
川に近い林に着地し、つかんだ願い事を確認した。
「え、なんで?」
そのたんざくのような物はちぎれていた。
(・・・が欲しい)
かんじんなところが無い。
「えーこれじゃわかんないよ。どうしよう、んーとりあえず行ってみるか。」
たんざくがミロンを導く。
たどり着いた古い平屋の前におじいさんと十歳くらいの女の子が夜空を見上げて立っていた。
「おじいちゃん、さっきの流れ星きれいだったね。」
木に隠れて様子をうかがっていたミロンは褒められて嬉しくなった。
「そうだな、ハルは何かお願い事したか?」
「うん、したよ。」
ミロンは耳をそばだてた。
「叶うといいな、さあそろそろ寝ようか。」
おじいさんと女の子は家に入っていった。
ミロンは女の子の願い事を知ることができなかった。そう簡単にはいかない。
次の朝、もう一度女の子の家に向かった。
ちょうど庭の花に水をあげているところだった。ジョウロはかなり古いものらしく、底にはいくつか穴があき水がぽたぽたと漏れていた。
「あぁ新しいかわいいジョウロが欲しいな、ねぇお花さんもそう思うでしょ。」
ミロンは思ったより早く願い事を知ることができて安心した。
さっそく右手を開き、その上に黄色に色とりどりの花が描いてあるジョウロを出した。
そして麦わら帽子をかぶったハルに近づき声をかけた。
「かわいい花だね。」
「ありがとう。」
「ぼくはミロン、夏休みだからキャンプに来てるんだ。」
「そうなんだ、わたしはハル。」
ミロンは見えやすいようにジョウロを前にかかえた。
「わぁ、そのジョウロとてもかわいい!」
「ほんとに!じゃあハルちゃんにあげるよ。」
ミロンは手渡した。
「え、いいの?こんなにかわいいのほんとに?」
「うん、いいよ。」
ハルが家の方を振り返りながら大きな声で言った。
「ねえ、おじいちゃん、ジョウロくれるってー。」
おじいさんがフライパンを手に出てきた。
そこには大きなふっくらとしたパンケーキがのっていた。
「おはようございます。」
とミロンが言うと、
「おはようございます、いいのかい、そんなに綺麗なジョウロ。」
「はい。もちろん。」
「じゃあ、お礼にこれを食べていってください。」
返事をする前にハルはミロンの手を取り、庭のテーブルセットに連れて行った。
そのパンケーキはとても美味しかった。ハルは三人の食事がとても楽しそうで、おじいさんはそんなハルをとてもやさしい目で見ていた。
午後も三人で木の実を採りに行って楽しく過ごした。
ミロンは願い事を叶えることができたし、ハルとおじいさんと楽しい時間が過ごせてとても嬉しかった。ただ、別れ際にまた遊ぼうね、とハルに言われた時には少し困った。
夜になりミロンは川の土手に座ってその時を待った。
願い事を叶えると夜空に帰るのです。
自然と体が浮かび、夜空にスッと、、、
「あれ?おかしいな、まだかな、こんなに遅かったことは無いな。」
すでに夜空は満天の星空になっていた。
どうやらジョウロではなかったようだ。
やはりそう簡単にはいかない。
次の日もまた次の日もハルに会いに行った。
そして夕陽が沈むまで遊んだ。
とてもとても楽しい毎日だったが、願い事が何かは分からなかった。
ミロンは空に帰れないことより、ハルの願い事を叶えられないことがとても悲しかった。
鳥のひなを見に行った日の夕方、
「ねえ、ミロン元気ないね、どうしたの?」
「そ、そう?そうかなあ、楽しいよ毎日。」
「ほんとに?んー。」
「ハルは楽しい?」
「とーっても楽しいよ!だってさ、だってさ、わたしずっと友達が欲しかったんだ、あの時の流れ星が叶えてくれたのかな。」
夕陽に照らされたハルの横顔はとても幸せそうだった。
ハルは続けた。
「ねえ、わたしたちもう友達でしょ?」
ミロンはまた明日来るよ、とだけ言いその日はバイバイした。
その夜ミロンはこれまでの事を思い返していた。とても楽しかった。あの日もあの日もあの日も。
次の日ハルの家に行くとちょうど花に水やりをしているところだった。
「おはよう、ハル。」
「おはよう、ミロン。見てこのお花、このかわいいジョウロで毎日水をあげてたらこんなにきれいになったの。」
「ほんとだね、とってもきれい!」
おじいさんが窓から顔を出した。
「やあ、ミロンおはよう。パンケーキを食べよう。」
その日はウサギの巣を見に行った。
お昼には綺麗な池のかたわらで、おじいさんが作ってくれたお弁当を食べた。
家の前に帰ってきた頃にはもう一番星が出ようとしていた。
「ねえ、ハル、とてもとーっても楽しかったよ。毎日毎日楽しかった。ほんとうにありがとう。」
ハルは不安そうな表情でミロンを見ている。
「友達になってくれてほんとうにありがとう、ハル。でもぼくはもう帰らなくちゃいけないんだ。」
「え?帰っちゃうの?明日も遊ぼうよ、ねえ。」
「ぼくもそうしたいんだけどだめなんだ。でも来年の夏にはまた来るよ。ぜったいに、約束、友達にうそはつかないよ。ぜったいにぜったい。」
ハルは黙ってミロンを見ていた。
まだ夜になりきらない空に星が見え始めていた。
「うん、わかった。来年の夏までにもっとおもしろい場所探しとくね。おいしいパンケーキの焼きかたも習っとく。」
「うん、ありがとう。もうひとつだけいいかな、とても大事なんだ。来年の夏の流れ星になんでもいいからお願いして欲しいんだ。
」
「うん、お願いする!ぜったいぜったいお願いする!」
「ありがとう。」
空は暗くなってきている。
急がないといけない。
「じゃあ、そろそろ行くよ。また来年の夏に、バイバイ。」
「うん、バイバイ。」
ミロンは何度も振り返り手を振った。
ハルもミロンが見えなくなるまで手を振り続けた。
一年後の夏、
ミロンは流れていた。
たくさんの願い事が飛んでくる。
その中からハルの願い事をつかむのは簡単だ。なぜなら友達だから。
流れ星 kutsu @kunimitsu0815
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