無色

コスギサン

第1話


 空は重たい灰に覆われていた。顔を上げても青が見えないとなんだか僕の心も晴れない。

 こりゃ降りそうだな...という僕の思いが聞こえていたかのように、雲は滴を落とす。空が泣いた。


 無感情のまま透明なビニール傘を開く。雨が降ったって家が遠くなるわけでもない。僕は無色を掲げて進み続ける。



 ふと僕は足を止めた。前から男の子が歩いてくる。


 その子は空を持っていた。


 僕はその澄んだ青に釘付けになった。とても綺麗な、青い傘。

 色を持つ彼はきっと心の色も鮮やかなのだろう。全てが新鮮で、その一つひとつに喜怒哀楽を覚えるのだろう。そうして心を何色にも変える。

 僕はとっくにその柔らかさを失ってしまった。誰かの決めた当たり前が僕の心を透明に塗りつぶし、いつの間にか色を失った。


 僕は空と自分とを隔てる八角形を見上げる。僕には何の色もない。滴は八角形に阻まれて僕の元には届かない。それでも僕は自分の体を雨が通過していくような気がした。


 彼とすれ違う刹那、斜め下から青空に照らされる。雨を弾くそれはとても眩しく感じた。



 僕は寄り道をした。まだ雨は止まない。しかし無色は細いまま、僕の手の内にある。僕の心に色を分けてくれた彼は、もう空を閉じただろうか。

 無色だった僕は再び歩きだす。真新しい空を掲げて。





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無色 コスギサン @kosugisan

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