第Ⅲ章 制定当時の条文
冒険者相互援助組合設置法
第一条
この法律は、今現在世界各国に蔓延る魔物退治を冒険者にあっせんするための組織である。
第二条
冒険者相互援助組合は、いかなる場合においても、王国宰相府の統制下におかれる。この条文は、ほかのすべての条文に優越する。
第三条
冒険者相互援助組合は、王都に本部を置き、各辺境伯領、国王直轄領、属領に支部、出張所を置く。
第一節
本部長は、王国宰相府の指名を受けた者がその任を行う。
第二節
各支部、出張所所長は本部長の指名を受け、かつ王国宰相府の任命を受け、各支部あるいは出張所の所在する領地の管理者の任命を受ける。
第四条
冒険者相互援助組合は、魔物の退治を冒険者に依頼することをその任とし、それ
以外のいかなる行為も行ってはならない。
第一節
冒険者に魔物退治の依頼を斡旋するにあたっては、国際冒険者相互連絡会からの斡旋を受ける。
第二節
国外の同様の組織に対し、国際冒険者相互連絡会を通じて依頼を斡旋する。
第五条
国外から依頼の斡旋を受け入国する冒険者は、各領の治安担当者からの厳密な
調査を受ける。
第一節
本項の規定に違反した場合の最高刑は死刑である。
第六条
宰相府は、必要な時に自由にこの法律を改正する権利を有する。
これが冒険者相互援助組合設置法の、いちばん最初の条文である。当時としては先進的な法律といえるだろう。それでは各項目について解説していく。
まず第一条。ここでは、冒険者相互援助組合(以下ギルドと記載)は、魔物退治のための組織である、と規定する。逆説的に言えば、それ以外のことはしてはいけない、と解釈できる文章でありながら、場合によってはそれ以外とも取れる、解釈の余地が非常に大きい条文だ。これは推測だが、宰相府がギルドに対し戦力の抽出を可能にするためこのような条文にしたのではないか、とする説もある。
続いて第二条について。この条文は至極単純で、要するに何かあったときにギルドが独自判断で動いたとしても、そのあとから出てくる宰相府の決定には必ず従いなさい、というものである。国がいかにギルドの暴走を恐れたかがわかる。
第三条においては、ギルドの組織を規定する。王都に本部を置き、各領に一つずつ支部か出張所がおかれる。なお第三条にはのちに出張所と支部の違い、設置基準の規定となる第三条追加条文1号が宰相府より発布されている。これによると、支部は各辺境伯領、属領、直轄領それぞれにおかれ、出張所はそれらのうちの広大な領域を持つもの、すなわちヘンゼル辺境伯領、ヴァンケンシュタイン辺境伯領、サザーナル王国直轄領内におかれる、と規定されている。要するに、あまりにも広すぎる領域には支部の下部組織として出張所を設置するということである。そして、これら組織を管轄する本部長は、王国宰相府の指名を受けた者が行う、とある通り、ギルドが反旗を翻すことのないよう徹底的に国の管轄下に置くようにされていることがうかがえる。その下部組織も同様で、本部長が人員を指名することができるものの、王国宰相府の任命を受け、とある通り、王国宰相府の信認が得られなかったった場合には王国宰相府がこれを拒否することもできる、と解釈できる。実際、この条文を拡大解釈し、王国宰相府が任命を拒否した事例がある。また、各支部長や出張所所長はその領地の管理者の任命を受ける、とあるのは王都から派遣された人員といえど、その土地の領主の信頼も得なければならないのではないか、と有力諸侯らから意見が出たことから入れられた文言である。しかしながらこの条文は形式的なものにすぎず、前述の宰相府が拒否をした例とは違い、この条文を拡大解釈し任命を拒否することはすなわち王都への反逆である、という暗黙の了解があったことから、これによる拒否犬が発動された事例はない。
第四条においては、冒険者への依頼の斡旋以外おこなってはならない、とまた強烈な文言が記されている。文字通りで、これ以外に解釈の仕様の余地がないありさまで、ここにギルディス=ハン=シュトゥーゲル内務卿の、冒険者ギルドは法的に雁字搦めにすべし、が相成ったのである。
また、本項第一節においては国際冒険者相互連絡会からの依頼の斡旋を受ける、とある通りで、国内の冒険者に対し国外の依頼を斡旋することもある、ということになる。逆もまたそうで、第二節において、国外の同様の組織すなわち冒険者ギルドに対して国内の依頼を斡旋することもある、としている。ただし、国外から入国する冒険者は、第五条に規定されるとおり、各領の治安担当者からの厳密な調査を受けることとなる。この調査基準については、冒険者相互援助組合設置法第五条及び同条項第一節における身辺調査に関する通達―王国宰相府令第一号によって厳密に規定されている。なお、この規定に違反した場合の最高刑は死刑と定めらられており、国がいかに冒険者のフリをしたスパイ、などに警戒していたかがうかがえる。単純に治安悪化のリスクたる冒険者の大規模な流入を回避したかっただけ、かもしれないが。
そして、第六条にて王国宰相府が自由にこの法律を改正する権利を持つ、と記されている。つまり、この条項に従えば、とくになんの会議を経ることもなく、この法律を自由に改正することができる、というわけだ。貴族の大反発を受けそうなこの規定であるが、当の貴族たちはそれどころではなく、一刻も早い魔物退治を願っていたがゆえに、揉めて時間がかかりそうな条文についても目をつむるしかなかったのだ。しかしながら、もちろんこの条項については後に論争の火種となる。次章では、この改正議論について取り扱う。
詳説 冒険者ギルド設置法 @handa_shigeru
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