第Ⅱ章 制定までの道のり

 制定までの道のり しかしながら、制定が決定し、強固な法的拘束力を持つ法律を策定する、という決定をしたはいいものの、当時の王国にはまともな成文法が存在しなかったため、相当な混乱をきたしたことが各種資料からうかがえる。例えば当時の貴族向け新聞、ニューズヴァーゼルには『宰相府は有力諸侯らに広く冒険者ギルド設置の法律に対する意見を募集。国王の権威低下が懸念されるがいかほどに=一面。成文法など国際社会でも類を見ない難題=三面。』

また、翌日の記事では『内務卿らは難題をふっかけることでギルド設置をうやむやに?』

などと報じた。また、ゼンガン=エヴァーマル侯爵は手記に、以下のように記している。

『宰相府は本気なのだろうか。かのような難事業を行うとは。我々は魔物の危機にいま、すぐそこに瀕しているのだ。優雅に紅茶を飲みながら議論している時間はあるのだろうか。王都の連中にはそれがわからないのだろう』と記している。

 そして、現に魔物の危機に瀕している、各辺境を守る諸侯らによって『冒険者ギルドの即時設置の嘆願』がなされ、結果各辺境伯領には先行してギルドの設置が認められた。法律制定のあかつきにはそれらのギルドは直ちにギルド設置法の管轄下におかれる、という但し書き付きで。

 結果、冒険者ギルド設置準備会は宰相府から早急な法律の制定を急かされ、しかしながら法的な根拠は確固たるものにしろ、というかなりの難題を投げられた。これについて、ギルディス=ハン=シュトゥーゲル内務卿は後世に、こうなるならあんな上奏するんじゃなかった、と残した。

 彼らはこの難題に対し、ある一つの答えにたどり着いた。これは、あとからいくらでも条文を追加し、拡大解釈を王国宰相府側が自由にできると解釈できる文言を入れる、というものであった。今から考えれば到底考えられず、官僚の専横を許すだけだ、と批判されるような、時代が違えば悪法とも呼ばれる代物を、である。もちろんこれは現代だからいえるものであり、当時からすればこれでも先進的なものであり、なにより王国宰相府が自由に解釈し、あとから好きに条文を追加できる、というのは宰相府の受けもよく、直ちに有力諸侯らによる検討会が開催された。結果、辺境伯領を守る諸侯は冒険者ギルドができようができまいが魔物退治ができればいまはそれでいい、という態度であり、王都にいる諸侯もさして反対をしなかったため、ここに冒険者相互援助組合設置法、が可決された。

 次章では、この制定当時の条文をみていく。

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