第Ⅰ章 制定の背景
第Ⅰ章 制定の背景
この法律は多数ある王国法のなかでも最古の歴史を持っている。最初の制定は王国歴1012年。当時の制定から幾多の改正を経て現在の形へと至っている。
ではそもそもなぜ当時、この法律が制定されたのか。ひとことで言ってしまえば、国際社会からの要請にほかならない。本書を手に取っている諸兄は当時の情勢をもちろん存じ上げているとは思うが、いちおうの解説をしておくと、当時世界各国では魔物が蔓延っており、これに対応する必要性が出ていた。そこで各国は、冒険者を通じてこれら魔物の退治を行えないか、と考えた。我が国もこれに乗じたが、なぜ国軍にこれら魔物の対処をさせなかったのかといえば、国軍は当時、各有力諸侯の持つ私的な軍隊の連合、とでもいうべきありさまであり、それら有力諸侯が戦力の抽出に否定的であったがゆえに、冒険者に頼るという状況が生まれたのであった。もちろん、当時からオフレコ的な理由として、職にあぶれた者たちに冒険者、という地位を押し付けることで社会不安の種を減らす、という理由もあったが。
話がそれてしまったが、それらの理由により、各国で冒険者に対して魔物を退治する、という仕事をあっせんする場、として冒険者ギルドが生まれることとなった。
しかしながら、冒険者ギルドを設置するという方向性で各国は一致を見せたものの、どこの国がどのような形で管理するか、で紛糾した。建前上冒険者ギルドは各国に発生した魔物退治を公平に斡旋しなければならないが、かといってそれが公平に守られずに、例えば敵対する国の魔物退治の斡旋をわざと減らすことにより国力を減衰させる、といったギルドの使われ方をするのではないか、と各国それぞれが考えたためである。
また、世界を横断的に管理するような組織づくりをしてしまった場合、冒険者というある意味武装勢力を、ひとつの組織が占有するのは、新たなる社会不安の種をばらまいてしまうのではないか、といった懸念もあり、国際的な組織として結成するのはさらに難しくなった。
けれども、冒険者ギルドの設置については各国とも一致していたため、結局、各国ごとに冒険者ギルドを設置し、それら各国におけるギルド同士の連絡組織として国際冒険者相互連絡会を設置する運びとなった。
これを受け我が国でも冒険者ギルドを設置することとなったが、設置するにあたりギルディス=ハン=シュトゥーゲル内務卿を筆頭とする複数の有力諸侯から連名で、冒険者ギルド設置に関する21の上奏が宰相府になされた。この上奏は、冒険者ギルドを設置する、ということで設置するのはいいが、確固たる法的な根拠を与え、そして法律で雁字搦めにしてしまわなければ、冒険者ギルドが他国の介入を受け、反旗を翻す可能性がある、といったものであった。
王国宰相府はこの上奏を受け、御前会議を招集。全会一致で、冒険者ギルドを法的に強い拘束のもとに置くことを決定。宰相府内に冒険者ギルド設置準備会を組織。同会のトップにギルディス=ハン=シュトゥーゲル内務卿を据え、冒険者ギルド設置法の策定を開始。
また、宰相府はこの法律の是非を有力諸侯らに問いかけるため、設置法の草案が完成の後に、有力諸侯らを招聘し、検討会を行うことを決定。この決定は王国宰相府、ひいては国王の権威低下につながるのではないか、という懸念もあったが、国王カール=フォン=アワードⅡ世は、「斯くの如き重要な裁定に於いては、広く諸侯の意見を募るべし」と発言。これがのちの貴族院設置へとつながる。
このような紆余曲折を経て、冒険者ギルド設置法が制定されることとなった。
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